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花々咲乱(かかしょうらん)  作者: 相上いろは
第2話~人ならざる者の棲まう山~
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少女の住む場所

 巧く避けられた。婀瓏孅(あろうせん)は少し悔しそうに、だけどどこか面白そうに微笑む。


「何を企んでいるのかしら」


 遠回りな言葉ではない、真っ直ぐで威圧的な問いに変わる。だが、それに玉蟾(ぎょくせん)は欠片も動じない。


「そう穿って見ないで欲しいわ。戯れと言ったのに」


 何か意図があるのか、それとも本当にないのか。玉蟾の言い方では、それさえ計りきれない。だが素直に信じるには、玉蟾の悪戯好きを知り過ぎていた。

 しかし、改めて問う前に、玉蟾が言葉を紡ぐ。


「初めてでしょ、人なんて飼うの。試してみなさい。気が向けばまたその人間の育った姿を見に来てあげるから」


 その言葉を聞いて、思わず笑ってしまう。そしてそれを見て玉蟾も意地悪く笑う。

 心底楽しそうに婀瓏孅は言った。


「本当、狡賢いわ」


 気が向けばまた見に来る。その言葉だけで、婀瓏孅はルルノを殺せなくなる。それが判っているから言ったのだ。揃って、可笑しそうに笑う。


「判った。飼うだけは飼ってみましょう。でも、死んでても恨まないで。その時は骨でも取っておくわ」

「全てあなたに任せるわ。お気楽にどうぞ」


 二人は笑う。無邪気に。

 玉蟾が何を期待しているのかはさっぱり判らない。だが、人間の子が死のうとすれば止めないが、生き様とするなら精々生かそう。婀瓏孅は少女を見て、そう薄く思った。

 そう思って初めて、値踏みする様にルルノを見る。そしてその感想は、不味そうだというもののみであった。


「これの名前は?」

「それは本人に聞きなさい。これから一緒に暮らすのだから」


 そんな玉蟾に軽く溜め息を吐いてから、ルルノと向かい合う。


「あなた、名前は?」


 自分に向けられた質問に、僅かに悩んでから、少女は新しい名前を口にする。


「ルルノ・ヤシュ」


 少女は自分から多くを話さない。話さない様にしているのか、話す力がないのか、それはルルノ以外には判らない。


「ルルノね。私の名前は婀瓏孅。これからあなたの世話をするけど、いらないと思ったら喰べるか、山に捨てるわ。そのつもりでいなさい」


 あるがままに言っただけのことだが、それに怯えて逃げてくれれば都合が良い。そう思っての言葉だった。


「はい」


 だが意に反し、ルルノの返答は僅かな戸惑いさえ覗かせない。淡泊で明瞭なものであった。

 ルルノの返答に思わずきょとんとした婀瓏孅が、そのままの表情で玉蟾に視線を向けると、玉蟾は楽しそうに微笑んでいた。


「面白いでしょ、それ」


 計れない子供。人の全てがこうなのか、それともこの子供だけが特別なのか。そんなルルノに対して、婀瓏孅も玉蟾と似た様に、淡い興味が湧いてきた。


「確かに、ちょっと面白いわね」


 人間と共に暮らす。そんな経験は婀瓏孅にはない。対等ではないにしろ、不思議なものなのは間違いない。色々と考えていく内に、面倒くさいし厄介だと思う内側で、少しずつ面白いとも思い始めていた。


「判った。とりあえず育ててみましょう」


 目新しい刺激に餓えていたこともあり、この少女を飼うことを承諾した。


「よろしく頼むわね。それじゃ、私は帰るから」


 そう言うと手を振り、さっと後ろを向いてしまう。

 本当に玉蟾の用事がそれだけだったと判ると、婀瓏孅は少し呆れた。


「娯楽には力を注ぐのね」

「違うわ。私は何事も本気よ。楽しいことしかしないから」


 婀瓏孅の中の呆れが膨らむ。だが、すぐに萎んで、笑顔になる。


「それもそうね」


 二人して、小さく、だけど心から笑い合う。


 その笑いが止む頃に、玉蟾は玉虫を連れて去っていった。去っていく際に「あなたの育てた人間が、どうなるのか。見物ね。楽しみにしているわ」と言い残して。その言葉に、婀瓏孅から苦笑いが溢れる。最後に念を押されたと、頭を押さえて苦そうに笑う。

 弟子に面倒は押しつけてしまおうと思っていたのだが、婀瓏孅(あろうせん)がその手でルルノを育てろと釘を刺してきた。だから、精々大きな溜め息を吐き出した。


「やるしかないのね。あぁ、面倒だわ」

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