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花々咲乱(かかしょうらん)  作者: 相上いろは
第1話~月の戯れ~
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新しい名と新しい場所

「判りました。では、舟を瓏々邸(ろうろうてい)に向かわせますね」


 努めて興味を逸らそうとして、玉虫の表情が硬くなる。

 そんな様子を見ていると、むずむずと玉蟾はからかいたくなってくる衝動に駆られた。


「お願い。久しぶりに、婀瓏孅(あろうせん)と酒も飲みたいのよね。丁度酒なら積んでるわけだし」

「これ以上飲まないでください!」

「冗談よ」


 思った通りの反応で、玉蟾は無邪気に喜ぶ。対して、遊ばれたことが判っている玉虫は、面白くなさそうに、また拗ねた様に少しだけ唇を尖らせた。

 玉虫が話さなくなったと見ると、玉蟾は少女へと振り向く。


「ねぇ、ルルノ」


 声を掛けられたことに驚き、少女は僅かに揺れた。


「あんたはこれから、人間を喰う妖怪の屋敷で生活をすることになるわ。生き残りたければ、嫌われないことね」

「あ……はい」


 恐れた様子はない。だが、平然としているわけでもない。

 困惑しているし、諦め気味な顔。その癖、生きる方向に進むことには躊躇っていない。枯れている癖に水を吸うことを止めない木の様な、そういう強さを玉蟾は少女から感じていた。そしてそんな曖昧で掴めない部分を持つ少女を、玉蟾は気に入った。


「ルルノ、私の名前は?」


 不意に、玉蟾は自分を指差し、少女に問う。


「ぎょく、せん」


 対して、言葉を出すことに詰まりはしたが、少女は淀みなく答えた。


「このっ! 玉蟾様を呼び捨てに!」


 そんな今にも抜刀しそうな玉虫を、玉蟾は刀の柄を押さえて黙らせる。それに従い、苦い顔のままで玉虫は渋々と引き下がった。

 そして、引き下がった玉虫を指差して再度問う。


「あれは?」

「たまむし」


 この回答を聞いて、自分が呼び捨てにされたことでまた少し玉虫は不満を覚える。だから、玉虫は少しばかり、少女が婀瓏孅(あろうせん)に食われてしまえと願った。


「これから行く場所と、そこにいる相手の名前は」

「ろうろうていに、住んでる……あろう、せん」


 その回答に満足したのか、にかっと笑い、少女の手を引いて舟へと向かう。


「生きたいって気持ちがあるわね。貪欲。それに度胸もあるみたい。そういう変な子は好きよ。美味しくなりそうだから」


 この状況で、あの歳で、生き残る為にしっかりと他人の話に耳を向けて理解している。そしてそれを、物怖じずに言葉にできる。そんなところに、玉蟾は尚更興味を覚えた。

 軽やかに舟に乗ると、戸惑う少女に手を伸ばし、舟へと乗せる。


「さぁ、行くわよ。そしてそこで、新しい名前と共に生きてみなさい」


 そう言うと、玉蟾は雑に少女の、ルルノの頭を撫でた。

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