拾いものの少女とその往く先
「玉蟾様、まさかこれを育てる気ですか?」
言いながら、玉虫は少し困った顔をする。そんな玉虫に、玉蟾は笑みを返す。
「そんなことをするわけないでしょ。他の奴に預けるわ」
それを聞いて、玉虫は安堵の表情を作る。玉蟾は面倒臭がりで、更にとても飽き易い。そうなれば、生き物の世話などできるはずがないと理解していた。
一方で、そんな性分を玉蟾自身も自覚しており、最初から自分で育てる気などはない。
この子供に興味を持った瞬間から、玉蟾はもう誰に預けるかを決めていた。この少女を、育てさせたくて堪らない相手がいる。生き物を育てるとか愛でるとか、そういうことをしてこなかった奴がいる。あいつに育てさせたら、それはきっと面白いことになるだろう。そんな、嫌がらせの様なことを考えて、ふふふと笑う。
「他の方と言いますと……図讖戯様ですか?」
「あら、嫌よ。面白くもない。あんな奴に育てさせたら性格が歪むでしょう」
あまりな否定に、玉虫は一瞬反応に困った。同意するのも否定するのも気が引けて、とりあえず沈黙を保つ。仕方ないので次の候補を挙げ様とするが、しかし、思いつかない。
首を傾げ、玉蟾が預けようとしている人物の名前を訊く。だが、玉蟾は答えを言わず、答えを導き出す為の材料だけを押しつけた。
「飯事の似合わない女に押しつけるつもりよ」
悪い笑みを浮かべながら、くすくすと笑う。その言葉に、玉虫は再度首を傾げた。
「はて、飯事の似合う方なんて玉蟾様のお知り合いでいらっしゃいましたっけ?」
そう言われると、玉蟾はむっとした。自分に飯事ができないと言われた様に聞こえたのだ。確かに少しもできないし、玉虫も無意識とはいえそういう含みを持たせてしまったわけなのだが。
玉蟾の表情に、自分の失言を察した玉虫は慌てて否定しようとするが、それよりも早く玉蟾が答えを口にする。
「薬売りよ」
投げやりに。
それで誰だかを把握した玉虫は、僅かに驚く。
「あ、婀瓏孅さんですか」
「そう」
ほとんど答えを言っておきながら、玉虫が正解すると玉蟾は嬉しそうな顔をした。
「……菜食主義ですけど、人間も食べますよね、あの方」
育てられないだろう、と遠回しに玉虫が言う。そして玉蟾は、それに対してそういうこともあるだろうと頷く。
「危機感があって良いでしょ」
くすりと笑いながら、それが娯楽であると言い切った。
そんな様子に、少しばかりぞくりと玉虫の背が震える。
「最初から育てる気ないんですか」
「嫌ねぇ。そんなことないわよ、そんなことをしても少しも面白くないでしょ。それなりに期待していることもあるの。それにこれは、きっとあれに必要な刺激になると思うし。あいつはもう少し、自分の弱さを自覚すべきだわ。何かを愛でる余裕も必要ね」
少女を通して遠くを見つめながら、そう口にする。それを聞いた玉虫は、玉蟾の考えを酌みきれないことに僅かな口惜しさを感じていた。
「婀瓏孅さんは良いとしても、彼女の弟子が食べてしまうのでは?」
自分への口惜しさから、無意識に玉蟾へ八つ当たりをしてしまった。気付いて気まずそうに少し顔を伏せたが、玉蟾は特に気にした様子もなく言葉を返す。
「婀瓏孅が止めるわよ。それなりに愛着が湧いてればね」
確信があるのか、玉蟾の言葉に淀みはない。
「難しいのではないでしょうか」
米に愛情を持って、食べることを戸惑うようなものだ。と、玉虫は思う。
「ま、どっちに転んで損もないし、どうでも良いのよ。やってみたいだけ」
手をひらひらと振りながら、軽い言葉で締め括った。
だが、その言葉に、玉蟾が一体何を見て、何を思い描いているのかということが、玉虫にはとても気になった。けれど、それを口に出して訊くことはできなかった。




