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花々咲乱(かかしょうらん)  作者: 相上いろは
第1話~月の戯れ~
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玉蟾の思い付き

 どこか壊れているような少女に、玉蟾は興味を持った。舞う様な足取りで少女に近寄ると、その周囲をくるりと回る。


「んー、痩せてるわねぇ。それに小汚くて、うん、美味しくなさそうね。どれどれ」


 舐め回す様に見渡してから、玉蟾は少女の手を掴んで強引に立たせた。そして腕を軽く舐める。


「ぎょ、玉蟾様! 拾い食いをしてはならぬと先程から!」


 玉虫が慌てて少女を遠ざけようとするが、玉蟾は少女を抱え上げてひらりと避けると、少女をゆっくりと地面に立たせる。


「ふふ。不味い。とても食べられたものではないわね。でも、これはこれで嫌いじゃない味だわ……あら? 何、疲れてるのかしら? お腹が空いているの?」


 少女は話さない。それどころか、眉一つ動かそうともしない。目線が動いていなければ、死んでいるようにさえ見える。

 ふと、玉蟾は少女が何かを握りしめていることに気付いた。


「よっしょ」


 その何かを、玉蟾はあっという間に奪い取る。


「っ!」


 自分の手の中身を奪い取られたと気付くと、少女は初めて怯えた顔を浮かべた。そして、取り返そうとゆっくり手を伸ばす。だが、それは弱々しくしがみつく動作にしかならず、木の板に手は少しも届かなかった。

 少女の手に握られていた木の板には、小さく文字が刻まれている。


「えっと。ルル・ノヤーシュ……何の名前かしら。村?」


 読める文字だが、玉蟾には意味が判らない。

 少し首を傾げていると、少女を玉蟾から取り上げることを諦めた玉虫が、玉蟾の手の中を覗き込んだ。


「それは、それの名前じゃないでしょうか?」


 少女を指差しながら言う。


「あぁ、なるほど」


 板を取り上げられた少女は、どこか困惑したような表情のままで、ひしりと玉蟾に抱きつき手を伸ばしている。妖怪に襲われること以上に、この少女にとってそれを奪われることは重大であった様だ。

 玉蟾はそんな少女の様子を観察してから、もう一度板切れに目をやる。


「玉虫」

「はい?」


 玉虫が返事をすると、玉蟾は手に持っている板を指で弾き高く放り投げた。


「二つ」

「はい」


 言葉の意味を理解すると同時に、玉虫は苦労して納刀した刀を抜刀し、板を両断した。


「あっ」


 少女の小さな声。同時に、枯れた頬をなけなしの涙が伝った。

 真っ二つになって地面に落ちた板きれを玉蟾は拾い上げ、それを満足そうに眺めてから少女に向き直った。


「あなたの名前は、今からルルノ・ヤシュよ。いいわね」


 有無を言わさぬ言葉。意味の判らない少女は、ただ沈黙の中で不安そうな雰囲気を出す。

 長い沈黙を経て、やがて少女はゆっくりと頷いた。

 少女は頷いてから、板を取り返そうとはせず立ち尽くしている。それを見て玉蟾は満足そうに頷くと、玉蟾は木の板から興味を失いぽいと放り投げた。それにびくりと少女は体を震わせたが、取りに行こうとはしなかった。

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