玉蟾と少女
「おい、お前らいったい」
「それで玉蟾様。この三方は御知り合いですか?」
玉虫もまた妖怪の言葉に興味などはない様で、無視をして玉蟾に問う。
「こんなに美味しくなさそうな知り合いはいないわね」
そう言って、溜め息を一つ。
ここまで相手にされない経験などはなく、背の高い妖怪はついに敵意を剥き出しにして怒鳴り上げた。
「おい、小娘ども!」
手を伸ばし、妖怪は玉蟾に触れようとした。その刹那、鋼よりも堅い鱗で覆われていた妖怪の腕が、体からいとも容易く離れ、空を弾んだ。
「……あ?」
玉蟾と玉虫を除く三人には、その光景が瞬時には理解できなかった。
「知り合いでないのなら、玉蟾様に容易く触れるな」
玉虫の言葉と眼光から溢れ出す殺意。焼けた鉄の様に熱く、重苦しい程に濃密な怒気。先程までの緩さは微塵もない。その玉虫の手には、刀身の長い、飾り気の乏しい刀が握られていた。先程妖怪の腕を切断したそれは、少しも血に汚れた様子がない。
大柄な妖怪は固まって動くことができず、小柄な妖怪は思わず二、三歩退いてしまう。そんな中で、少女は相も変わらぬの無表情で、じっとその様子を眺めていた。
そんな様子を、玉蟾だけは楽しげに観察していた。
ふと、足下に転がってきた妖怪の腕を、玉蟾は拾い上げ、少し服で砂を拭いてから囓る。が、不味かったのですぐに投げ捨てる。
「美味しくないわ」
「落ちてるものを食べないでください!」
「ちゃんと拭いたわよ。砂はついてないわ」
目線も向けずに叱ってくる玉虫に、けらけらと笑いを返す。そうじゃないのに、と、反論したい気持ちを、ぐっと玉虫は呑み込む。
「はぁ……玉蟾様。この妖怪、どう致しますか」
幾らか目尻は穏やかになったものの、怒りの色は未だ鮮やかで、熱く赤々と燃えていた。
理性でどうにか感情を抑えている玉虫を見て、その様子が面白いのか、玉蟾は絶えずけらけらと笑う。
「そうねぇ」
短く笑ってから、ふんわりとした唇に指を添えて、特に悩んだ様子もなく、口を開く。
「子供には興味があるわ」
その言葉を二人の妖怪が理解するよりも早く、二人の妖怪の体は糸の切れた人形の様に崩れて落ちた。手を、足を、腹を、顔を、最早二体いたのかどうかさえ判らぬ程に細かく、妖怪であったものは分断された。
斬られるのが一瞬だったからか、崩れる身体から血は跳ねず、全ての欠片が地面を転がってからようやく血だまりを広げていった。
「それで、その子供はどうされるんですか?」
文字通り二人を瞬殺すると、長い刀を、刃を摘まみながら不格好に鞘に収めつつ問い掛ける。
そんな光景を見ていた人間の少女は、妖怪がいなくなったというのに動こうとはしない。ただ、じっと二人を見つめていた。




