28話 命の恩人になった(n回目)
「この依頼ですか......」
良さそうな依頼はないかなと思って冒険者ギルドに来たのだが、俺が依頼を受けようと受付に行くと、受付嬢が顔をしかめた。
「何か駄目なことがあるのか?」
「いえ、大したことではないですが。既にこの依頼はあるA級の冒険者が受けているんです。少し大変な依頼なので、他にもう一人か二人ほど追加で受けてもらおうと思って張り出していたのですが、中々受ける人がいないのでもう剥がそうと思っていたんです」
「? それを俺達が受けるのになんで渋るのかわからないのだが......」
「元々はB級かA級の冒険者が数人で受けるように設定した依頼でして、コーキさんたちが受けるには......」
「...なるほど。S級には簡単すぎる、という建前で、本音はお前らがやるとそのA級冒険者の仕事を奪いかねないと言いたいのか」
「は、はい...」
でも確かに俺達のせいで仕事を奪ったら申し訳ないな。
今回は別の依頼を受けるか。
そう思って受付嬢に言おうとした時、エンシーが言う。
《行った方がいいかと思います》
エンシーがそんなこと言うなんて珍しいな。
なんで行った方がいいと思うんだ?
《マスターが行かなければおそらくその冒険者は死ぬでしょう。そして、行くとマスターにとって得になることも起きると予想しています》
〈全知〉はあらゆる知識を持つ人格を所持できるというスキルだ。
その人格に俺はエンシーと名付けた訳だが、そんなエンシーも未来予知はできない。
あるゆる知識を持つというくらいだから、なんでも知ってて未来くらいわかるんじゃないかと思ってしまうが、そんなことはない。
あくまで人間が知りうる知識を持つというだけで、宇宙がどうやって出来たかと問われればビッグバン説が有力ですとしか答えられない。
まぁ未来予知は出来ないと言ったけど、エンシーの予想はほぼ100%当たるから未来予知できるみたいなもんだけどね。
今あるあらゆる情報を整理して、未来になにが起こるのか予想する。
曇ってきたから雨降るかもな、なんて俺でもできる簡単な予想を、何万倍もの精度かつ何万倍もの規模でやっているだけだ。「だけ」という表現が正しいかはわからないが。
ともあれ、知り合いという訳ではないが、人が死ぬのを助けられるのに助けないというのは後味が悪い。それに得になることというのも気になるし、行くことにするか。
「でもこの依頼は受けさせてくれ。まぁその冒険者一人で出来るのなら横取りするような真似はしないからさ」
「そうですか......。わかりました、ではお願いします」
こうして俺達は依頼を受けた。
依頼の内容は、盗賊の討伐だ。
王都から離れた場所、キオス王国に近いところにある村の付近に、盗賊がアジトを作った。食料や生活必需品などを村から奪ったり、村を監視して占領しているそうだ。
盗賊の人数は10数人。それぞれがC、B級冒険者ほどの力を持っているらしく、依頼の難易度はランクAだ。
先に依頼を受けたという冒険者は、数時間前に王都を出て村へ向かってしまったらしい。
今は朝の早い時間帯だが、村までは大分あるので着くのはお昼頃になってしまうだろう。......普通に行ったら。
『もしもーし、ご主人様ですよー』
『コーキ様、お久しぶりです。連絡をもらえるのを待っていましたよ』
『ごめんごめん、中々長距離を移動することはなくてさ』
『では、今回もどこかへ赴くのですか?』
『依頼でとある村に行くんだよ。距離は前と同じくらいかな』
『左様ですか。ところで、先程エリートワイバーンを狩ったのですがお持ちしますか?』
『え、えりーとわいばーん?』
『ワイバーンの上位種です。この間狩ったドラゴンよりかは強いですね』
『あ、そうなの。じ、じゃあ持ってきて』
『畏まりました』
そう、ご存知ペガサスのペルさんに乗せてってもらうのだ!
ところでエリートワイバーンってなんだよ。お前はもう少し自重しろ。
念話を切ったあと、すぐにペルがやってくる。
この前〈アイテムボックスα〉を共有しておいたので、前回みたいに体に対して不自然にでかいものを咥えている変な画ではない。
何もない空間からワイバーンの死骸を出し、「どうぞ」というように一歩下がる。
「流石、早いな。ワイバーンもありがとう」
『いえいえ』
「じゃあ早速よろしく」
そう言って背中にまたがろうとした時、後ろから声がかけられる。
「ちょっと待って。一旦待って。ホントに待って」
「ん? どうしたリク」
「ペルが突然現れたのは前もあったからいいとして、その魔物はなに。そしてなんでコーキは平然としてるの」
「あ、これはエリートワイバーンって言って並みのドラゴンよりかは強いらしいワイバーンだぞ」
「うーん、そういうことじゃないんだけどなぁ......」
何を言っているのだろうか。
......あ、リクとネリーは〈念話〉のこと知らないのか。
「ごめん、言い忘れてたわ。〈念話〉っていうスキルがあってだな...」
〈念話〉のことを説明すると二人が目を見開く。
「そんなスキルがあったんですか!? ご主人様はそれで従魔と意志疎通してたんですね。私も欲しいです......」
「共有しようか?」
《マスターは〈念話α〉を持っているため共有せずとも〈念話〉を渡すことができます》
そういえばそうだった。
『もすもす。聞こえるー? これが念話なんだけど』
「「わっ」」
突然聞こえた声に驚く二人。
『二人に一緒に話しかけてるんだけど』
『これが念話かぁ...。不思議な感覚だね』
『凄いです......』
『これで二人とも〈念話〉を獲得できたと思うよ。ペルに話しかけてみたら?』
俺の言った通りにペルに話しかけ、流暢な言葉と紳士な口調にまた驚く。
「ペルってこんな性格だったんだ......」
二人が色々と驚いている間にワイバーンをアイテムボックスに入れ、背中にまたがる。
「よし、〈念話〉の説明もしたことだしさっさと行くぞ」
「あ、そうだね。村の皆さんを助けないと」
「はーい」
「あ、ペル、前より遅くしてね。頼むから」
『承知しました』
前は誇張とかなしに死にかけたからな。
ペルが飛び立つ。
今回は丁度良い速さだ。〈騎乗〉のおかげで振り落とされることもない。
今度こそ快適な空の旅を楽しもう。
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目的の村から少し離れたところにペルが降りる。
ペルにお礼と別れを告げて村まで歩いていると、何やら戦闘の音が聞こえてきた。
見れば、一人の赤髪の青年が10人ほどの大人に囲まれている。
一瞬で察した。恐らくあの青年が依頼を受けたA級冒険者で、彼を囲んでいるのが盗賊だろう。盗賊は皆、剣や胸当てなどの基本的な装備に帽子を被っている。
「おらぁッ!」
「おいおい、一人でこの人数に敵うかよ」
あっ! 死亡フラグ立てた!
これは助けに入らなくても勝てるんじゃないか?
まぁ助けるんですけれどもね。
盗賊の一人が青年に剣を振るう。俺はその間に入り、防ぐ。
「なっ!? 誰だお前は!? どっから来やがった!」
「貴様に名乗る名はないっ!(ドヤ」
問答無用で切り捨てる。
「くそっ! 殺してやるっ!」
続いて斬りかかってくる盗賊も順番に殺していく。
《〈剣術〉がレベル8にアップしました》
すると、体格の大きいリーダーのような男が立ち塞がった。
「おい、部下を次々に殺しやがって。なんなんだ貴様は」
「貴様らに名乗る名はないって言ったと思うんですが。人の話はちゃんと聞けよハゲ」
「えっ口悪っ」
おっと、YouT○beのコメント欄によくいる謎に喧嘩腰で情緒不安定な人みたいになってしまった。
「と、とにかくお前は生かして帰すわけには行かねぇ。俺をこいつらと同程度の強さだと思って掛かってきたら後悔するぞ」
へぇ。リーダーだけあって強いのか。
一応ステータスみておこ。
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コイオス 219歳 男
種族 魔族
職業 秘密捜査員
レベル72
〈スキル〉
気配察知 威圧 暗視 身体強化5 体術4 剣術7 物理攻撃耐性4
─魔法─
無魔法3
〈称号〉
魔王の部下
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............へっ?
219歳? 魔族? 秘密捜査員? 魔王の部下?
ツッコミどころが多すぎる。
「おい、恐怖で声が出せなくなったのか? 張り合いのねぇ奴だ。さっさと死ね」
俺が盗賊のリーダー、コイオスのステータスに驚き絶句していると、変な勘違いをして攻撃してきた。
「っと危ない。お前、魔族なのか?」
「あ? どうして分かっ...、お前もしかして、〈鑑定〉を持っているのか? それに、万一鑑定された時の為に魔王様が偽装してくれたのにそれを看破したってことはお前...俺より強いって訳か!?」
お、頭は良いんだなコイツ。
「くそったれぇ!」
やけになって荒い攻撃を仕掛けてくる。
俺は軽くいなし、斬る。
コイオスが倒れると、被っていた帽子が取れて頭の角があらわになった。
本当に魔族だったのか......。
よく見ればさっき俺が倒したコイツの部下もみんな頭に角が生えている。
あ、色々と聞きたいことあったのに手加減が効かないで殺しちゃった。まぁいいか、てへぺろ。
「流石ですご主人様!」
「コーキが負けることはないっていうのはわかってるけど、心臓に悪いから何も言わずに急に飛び出すのは止めてよ......」
「ごめんごめん。でもそれで助けられたんだから結果オーライでしょ」
リクは心配性だねぇ。でも心配してくれたのなら嬉しいけど。
と、赤い髪の青年が言う。
「た、助かったぜ。あんたの助けがなければ今頃五体満足じゃいられなかった。マジで命の恩人だ」
「困っている人がいたら助ける。冒険者として当然の行いさ」
「(え、何そのキャラ)」
「ん? どうしたリク」
「......いやなんでもない」
リクが何か余計なことを言ったがそれは置いておいて。
「俺はコーキ。こっちはリクとネリーだ。よろしく」
「俺はティムスだ。こちらこそよろしく頼むぜ」
ティムスか。良い名前だ(誰)。
そんなティムス君にちょっと失礼して、鑑定!
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ティムス 15歳 男
種族 人族
職業 A級冒険者
レベル33
〈スキル〉
危険察知 縮地 暗視 身体強化5 狂戦士化 体術4 剣術6 短剣術3 物理攻撃耐性3
─魔法─
無魔法4 四大魔法3 蘇生魔法
─ユニーク─
強靭
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〈強靭〉...強靭な肉体と精神を得る。体力と防御力が大幅に上がる。
「15!? 15でA級って、凄いな」
「ユニークスキルのおかげで昔から硬さだけはあって......って、なんで俺が15だって知ってるんだよ?」
「あぁ、〈鑑定〉を持っててね。ごめん、勝手に見ちゃった」
「鑑定か......。スキルの名前は聞いたことあったけど、実際に持っている人を見るのは初めてだぜ」
冒険者はこの世界の成人、15歳からなれる職業だ。
つまり一年も経たずにA級まで登り詰めたということだから、それはもう凄い。
「自分のこと棚に上げんな」と、どこからともなくツッコミの声が聞こえてくる気がするが無視しておこう。
「よし、一応アジトの方にも行くぞ。まだ盗賊がいるかもしれないからさ」
「おう」
「わかった」
「わかりましたー」
エンシーに道を訊き、アジトへ歩くこと数十分。
洞窟が見えてきた。恐らくあれがアジトだろう。
《中に魔族が一人と亜人が一人います》
亜人? 人質的なやつだろうか。
とにかく警戒して入ろう。
入口の近くまで来ると、確かに人の気配がする。
《〈気配察知〉を獲得しました》
おっ。なんか獲得した。
まぁいい、そんなことは後だ。
入口から入ると、さっきの魔族たちと同じ盗賊の格好をした男が一人と、奥に縛られた女が一人いる。
「うわっ、人族!?」
「お前はさっきの奴らと同じく魔族だな?」
念のため鑑定すると魔族だとわかったので、遠慮なく斬りかか......ろうとしてやめた。
「うわあぁぁあ! ごめんなさい、無理やりやらされてたんですっっ!!」
予想外にも命乞いをしてきたからだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
コーキ
〈スキル〉
気配察知new 剣術6→8




