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隠された魔神の目覚め


「あああああっ!」

「ラフィッ!!」


 遮二無二ケンはラフィへ向けて飛んだ。

 白い渦のような魔力がラフィを取り囲み、その中で彼女はもだえ苦しんでいる。


「あく……」


 渦の中で彼女が、ガクンと首を落とした。

だらりと垂れ下がる腕は死人さながらで、ケンに嫌な予感を過らせる。

その時、ラフィの瞳が金色の輝きを発した。


「ガアアアッ!」

「ッ!?」


 ラフィから、彼女のものとは思えない咆哮が聞こえ、思わず飛び退く。

そして彼女の足元から黄金の輝きがじわりとあふれ出た。


 その輝きに触れた草木は一瞬で風化した。

 僅かに残った廃墟の瓦礫は土台が崩れ始めた。

 周囲に散らばっていた白骨も同じだった。


 ラフィの足元からあふれ出る金色の輝きは、全てを一瞬で風化させ、粒子の細かい”砂”へと変化させてゆく。


『あの光に触れるな! 砂に飲み込まれるぞ!』


 アスモデウスの声が響く。

ケン自身、今目の前で何が起こっているのか分からないし、危険であるのは承知もしている。

だが、ここで引き下がるという選択肢は、彼の中には無かった。


 彼女の存在があったからこそ、今のケンがあった。

出会い方は最悪で、まさかこんなに深い絆で結ばれるとはになるとは思ってもいなかった。

それでもあの日、ラフィに出会えたことはケンにとっての転換点だった。

そして今や、彼女は彼にとってなくてはならない存在になっている。


――ラフィのためなら俺は命をかける! 俺はそう決めたんだ!


 自身へそう強く言い聞かせ、ケンは砂の中心にいるラフィへ向けてひた走る。

全てを砂に変えてしまう光など恐れず。

ただひたすらに。まっすぐと。

 しかしそんな彼の意思に反して、身体が外からの力で後ろへ押し戻された。


「ケン、バカ! 何考えてる!?」


 ケンに正面から飛びついたリオンが叫び、


「リオンちゃんの言う通りです! 下がってください、危険です!」


 ムートンもまた彼をラフィから引き離していた。

ラフィとの距離がグングン離れ、彼女が遠ざかる。


「離せぇ!」

「あう!」

「うわっ!?」


 ケンは胴にくっついたリオンと、肩を押すムートンを払い除け、自由を取り戻す。

 もはや今のケンにはラフィしか目に入ってはいなかった。


――あの光がやばいってんなら、こうすりゃ良いんだろうが!


壁召喚サモンウォール!」


 『星廻りの指輪』輝かせ、ケンは足元へ石壁を召喚させた。

 壁をステップに飛び、着地点へ新たな壁を召喚して、再び飛ぶ。

ケンは次々と壁を召喚して、その上をひた走った。


 召喚したての壁であっても、ラフィからあふれ出る光に触れた途端、根元から砂に代わりに崩れて行く。

 足元は一切安定しない。

 それでもケンは壁を召喚し、その上を踏んで、確実にラフィとの距離を詰めて行く。


 すると光と砂の中心にいたラフィがゆらりと首を上げた。

金色に輝く瞳で彼を捉え、姿が忽然と消失する。

 気取ったケンは壁の上で踵を返し、拳を凪ぐ。


 ぶつかり合った拳と足。

 ラフィはいつの間にか背後に回り込み、空中から蹴りを繰り出していたのだった。


 技の鋭さはラフィのものと感じて間違いない。

だが目の前にいるのはラフィの姿をした別の何か。

異質な雰囲気を発する、他の存在。


「てめぇ、何者だ?」

「……」

「お前は誰だ! 答えろ!」

「感じるぞ……」


 滞空を続けているラフィは問いに答えず、口元を妖艶に歪ませる。


「お前の強い愛を。甘美で、純粋な、この”器”への思慕……良いぞ、見せろ、感じさせろ人間。貴様の愛を、この余に!」

「だからてめぇが誰かって聞いてるんだろうがぁっ!」


 魔力を込めた左腕から鋭いフック。

だがそれは”ラフィの形をした何か”を捉えられず、避けられた。


 ラフィはふわりと木の葉が舞い降りるよう静かに砂の上へ立つ。

途端、砂の浸食がぴたりと止まった。

 ケンは倒れかかった壁の上から飛び、砂の上へ降り立った。


「さぁ、砂漠化は止めてやった。だからみせろ、もっと感じさせろ人間! 貴様の愛を! 全身全霊をかけて、その魂をも燃やし尽くして!」


 嬉々とした形相で、ラフィが迫る。

 繰り出される連脚を拳で応じ、全てを受け流す。

 素早く、鋭い連脚は、一発でも貰ってしまえば、今のケンであってもただでは済みそうもない。

 反撃に出て、蹴散らしたい気持ちを山々。


――飛翔針砲で動きを封じるか? もしくはここは破壊閃光で一気に畳み掛けるべきか? 灼熱壁射で無理やりこっちの都合のいい方へ誘導し方が良いか?

いや、ダメだ! いずれにしてもラフィを傷つけることになっちまう!


 だがラフィの形をした何かは、容赦なくケンへ襲い掛かる。


――何か手は無いのか。この状況を打開する手は何か!?


「ッ……アグッ!」


 突然、ラフィは連脚を止めた

頭を抱えながら、フラフラと後ろへ下がってゆく。

 再びラフィから金色の輝きがあふれ出る。

しかしその輝きを浴びても砂の浸食は発生しない。


「おのれ、迷宮め……やはりこの余を再び……!」

「お、おい、一体どうし……」

「アグ……嗚呼嗚呼!」

「ラフィッ!」


 ケンの目の前でラフィは輝きに飲まれて姿を消した。

金色の光となった彼女は矢のように飛んで行く。

その光は遥か彼方に佇み序列56位迷宮グレモリーを擁する岩山へ飛んで行き、光を霧散させたのだった。


「こいつは想像以上の力だな、はは……」


 背後からミキオの震えた声が聞こえた。

ケンは怒り任せに踵を返す。


「てめぇ、ラフィに何をした! あれはなんなんだ!」


 ミキオの前に立つアイス姉妹が眉間に皺を寄せた。

ウィンドは爆弾を手に取り、シャドウは剣を構えて赤い双眸を輝かせる。

だがミキオはにっこりと笑顔を浮かべて、仲間達を落ち着かせるのだった。


「序列56位魔神グレモリー。その力を蘇らせただけさ。グラシャラボラスや、バルバトスの時と一緒……もしかして君、知らなかったのかい? 君の愛する人が体の中に魔神を宿していたことを?」

「ラフィが、魔神を……?」

「まっ、細かい理由は俺も良くわかんないけどね。でも、シャドウのアンドロマリウスが確かにあの娘からグレモリーの反応を探知したんだ、間違いないよ」

「……ッ!」

「今、君の愛しのあの子は魔神と一緒に迷宮に施された呪印によって引き戻された。早く追っかけないと、迷宮はグレモリーごと、あの娘を序列迷宮に封印しちゃうぜ?」


 荒唐無稽なミキオの話に、ケンは唖然と通り越し、怒りさえ覚えた。

この原因を作ったのはミキオ。今すぐにでも再起不能になるまで殴り飛ばしたい。

だが奴の言うことが事実ならば、急ぐ必要があった。

迷っている場合では無かった。


「チッ!」


 ケンはミキオを始め、グリモワールの面々へ背を向けて走り始めた。

 何が起こっているのかは分からない。

しかし事実としてラフィは姿を消した。

 このまま彼女を探さずして、どうして戦えようか。

今は荒唐無稽な戯言であろうと、信じるしかなかった。

 それだけケンにとってラフィはかけがえのない存在だった。

だからこそ彼ははグリモワールを無視して迷宮に向かう決断をしたのだった。


「ケン、待つ!」


 慌ててリオンが飛び、


「ケンさん、一人では危険です!」


 ムートンも後を追う。

だがケンは二人の声をまるで耳に入れず、風の如く疾駆を続ける。


 そんなケンの後姿を見て、ミキオは笑みを浮かべた。


「さぁ、時間はできた! みんな、行こう。俺たちの悲願を叶えるべく!」


 ミキオの一声でグリモワールの面々は踵を返す。

そしてケンとは反対方向へと歩き出すのだった。


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