表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/128

逆襲! モンスターハウス


 迷宮クラゲを火炎放射のスキルで焼き尽くし、ゴブリンやオークはレベル99の膂力に物を言わせ粉砕。

 32場面目の魔神アスモデウスと同化した、ケンは破竹の進撃を続ける。


 やがて彼の鼻孔が、重なり濃度を増したモンスターに匂いを捉える。

 鼓膜を揺さぶる不快で醜悪な声。


 しかしケンはそんなプレッシャーに臆することなく、再び【モンスターハウス】へと踏み込んだ。


「カカッ!」


 瞬間、ケンを察知したスカルウィザードが、顎を鳴らしながら振り返った。


 無数のゴブリン、オーク、ヴァンパイアバット、迷宮クラゲなど多様で多数のモンスターが一斉にケンを睨みつける。


 そんな中、ケンは薄ら笑いを浮かべた。

 自分を死の淵へ追いやったスカルウィザードとゴーレムは健在。

 これは千載一遇のチャンス。


「お礼参りに来たぜ、化け物どもッ!」


 ケンはダッと地を蹴り、モンスターハウスへ飛び込んだ。

 スカルウィザードの指示を受け、モンスター軍団は一斉にケンへ向かって動き出す。 

 前衛は迷宮クラゲ。

後続としてオークとゴブリンの集団が続く。


「喰らえぇッ!」


 ケンは『スキル:火炎放射』を前衛の迷宮クラゲへ放った。

 火炎は渦を巻き、迷宮クラゲを予定通り飲み込んで、焼き尽くす。

 そんな燃え盛る迷宮クラゲを踏み台にして、ケンは飛んだ。


 目下のオークとゴブリンが見上げる中、彼は拳を構えて司令塔であるスカルウィザードへ突き進む。



――絶対不可視発動ッ!


 星廻りの指輪が、ケンからHPを吸い取り、ケンを煙のように消失させる。


「カカッ!?」


 目前で敵を見失ったスカルウィザードはたじろぐ。

 その隙に懐へ潜り込んだケンは、スカルウィザードの腹へ「星廻りの指輪」が嵌る右手を押し当てた。


――【スキルライブラリ・サーチ発動!】


……が、迷宮クラゲの時のように知識の収束が起こらない。

むしろ、たじろいでいたスカルウィザードが窪んだ、深淵の双眸そうぼうをケンへ向けていた。


『わりぃ! 言い忘れてた! 【スキルライブラリ】と【絶対不可視】の力は同時に発動できねぇから! やったら、どっちも解除されちまうから!』

「チッ! そういう大事なことはチュートリアル中に云えよ!」


 スカルウィザードを蹴り飛ばし、距離を置く。

 瞬間、スカルウィザードが反撃で放った、暗色の魔力の閃光がケンの髪をかすめる。


「危ねぇッ!」


 間一髪、スカルウィザードの魔法を避け、地面へ降り立ったケン。


「カカカカカッ!」


 スカルウィザードは杖をかざして指示を出す。

オークとゴブリンの群れが一斉に襲い来る。


「おっと!」


 オークの斧を回避し、

後続のゴブリンの手から蹴りでショートソードを弾き飛ばす。

 レベル99のケンにはゴブリンやオークの斬撃など、スローモーションのようにしか見えていなかった。


「いいもん持ってるじゃねぇか!」


 ケンは膝を曲げて飛び、ゴブリンから弾き飛ばしたショートソードの柄を手にとった。

着地と同時ショートソードを逆手に構えて、地面を蹴る。

 


 鮮やかな斬撃が迷宮空間に軌跡を描き、群がるオークとゴブリンの集団は、順番に首を跳ねられバタバタと倒れてゆく。


「そらそらどうしたぁ! その程度かぁ!」


 ケンは次々と、そして確実にオークとゴブリンを仕留めてゆく。

その時脇から鋭い殺気を感じて身をひるがえした。


「クルアァァァ!」


 モンスターハウスにある側道。

そこから武器を手に持った屈強なトカゲ人間がゾロゾロと姿を現す。


 リザードマン。

 オークやゴブリンの遥か上を行く強敵。

 全身を覆う硬い鱗は鋼の刃さえも阻む。


「おらっ!」


 しかし今のケンに恐れる者は何もない。

腕へ渾身の力を籠め、遮二無二、逆手に構えたショートソードを過らせる。

だが、刃は首の鱗で受け止められ、首は飛ばず。


――勢いだけじゃ駄目か! だったら!


 そのままの体勢でケンはリザードマンの腹へ触れ、【サーチ】を発動させた。

 【スキルライブラリ】の膨大な知識が収束を開始する。



【サーチ完了】


●スキルライブラリ提示:切れ味増強



「ずおぉーりゃっ!」

「クルっ……ギャッ!?」


 スキル:切れ味増強で鋭さを増したショートソードは、硬い鱗で覆われたリザードマンの肉へ沈み込み、骨を絶って、首を飛ばす。

 仲間の斬首に、リザードマンはたじろいでいる。


「こいつは良い!」


 ケンは舌で唇を湿らせ、リーザドマンヘ突っ込む。

 もはや強敵であるリザードマンでさえ、ケンの敵ではなかった。

 

 夢中でショートソードを振るうケン。

そんな彼へ、無数のヴァンパイアバットが鋭い牙を差し向ける。


 ゴブリンを切り倒し、余裕を作ったケンは、接近するヴァンパイアバットの群れへ飛び込み、指先で翼へ触れた。



【サーチ完了】


●スキルライブラリ提示:岩石召喚



 概念の中のトリガーを引いて、スキルを発動させる。

すると、風が吹きすさび、迷宮のあらゆるところから砂が集まり始めた。

集合した砂は瞬時に巨大な岩石を形成。

 岩石は接近するヴァンパイアバットを叩き落とした。


 モンスターハウス


 一度踏み込めば最後。

生きて序列迷宮から出ることは叶わない、

ランダムで現れる最悪のフロア。

しかし、そんなフロアはたった一人の男に蹂躙され、モンスターの阿鼻叫喚へ包まれていた。


「カカカカカッ!!」


 周囲のモンスターを一掃したケンへ、スカルウィザードは杖の先端へ鎌のような魔力を宿らせ急降下してくる。


「そんな気配で背中を狙うだなんて、なってねぇぜ?」


 しかしケンは、魔力の鎌を素手で掴み受け止めていた。

 レベル99の実力を解放した肉体は、レベルで格下のスカルウィザードの魔力を受け止めるなど造作もないこと。

 これは好機と、ケンはスカルウィザードへ手を押し当てる。

 サーチを発動させ、スカルウィザードの知識が頭の中で渦を巻いて寄り集まる。



【サーチ完了】


●スキルライブラリ提示:光属性魔法lv1



「やっぱアンデットには光属性、ってなぁ!」

「カカッ――――ッ!?」


 ケンの腕から放たれた白色に輝き、紫電を纏う光線はスカルウィザードを一瞬で飲み込んだ。スカルウィザードは閃光の中で灰になり、塵となって、モンスターハウスから姿を消す。

 ほとんどのモンスターはこれで駆逐完了。


 残ったザコモンスターは、司令塔であるスカルウィザードを失ったことで恐れを成して、モンスターハウスから次々と退散してゆく。


――だが、未だだ。


 既に歴戦の猛者となっていたケンは緊張感を緩めず。

その時背後に大きな爆発音が聞こえ、踵を返す。


「フシュ―ッ!」


 モンスターハウスの地面を割り、全身から蒸気を吹きながら岩の巨人ゴーレムが姿を現す。


 ケンの胸は興奮と憎悪がない交ぜになった感情で震え思わず舌なめずりをした。


「よぉ! ようやく会えたな……さっきは散々嬲ってくれたな。覚悟しやがれ!」

「フシュ―ッ!」


 ゴーレムは全身から蒸気を放ちながら、巨体に見合わない俊敏な動きでケンへ接近して来る。


「おっと!」


 ケンは華麗にステップを踏んで回避。

 しかし間髪入れず、ゴーレムの拳が地面を穿つ。

衝撃は地面を激しく揺らし、風圧は気を抜くと身体が吹き飛ばされそうなほど凄まじかった。


 それでもケンは回避を繰り返し、ゴーレムの拳をかわす。

 避けることは造作もない。

だが、激しいゴーレムの連撃は、それ以上の選択肢を与えてくれない。


 これまで【サーチ】を繰り返してきて、発動と読み取りまで若干の時間があると体感していたケンは、現状そんな隙が無いと判断していた。


 【絶対不可視】を使ったところで、地面の揺れと衝撃で吹き飛ばされればそこまで。

懐へ潜り込むことはできない。


――どうする? この状況を打開にするにはどうすれば?


『おい! 集中しろ!』

「あっ?」


 アスモデウスの声でケンは我に帰る。


「フシュ――――ッ!」


 気が付くと地面をしっかりと踏みしめたゴーレムは、巨腕きょわんをケンへ向けていた。

バックステップを踏もうとしたがもう遅い。

 ケンを迷宮の最下層まで叩き落したゴーレムの最強技、腕をロケットのように発射する飛翔拳が放たれる。


「おらぁっ!」


 ケンもまた地面を踏みしめ、巨大なゴーレムの飛翔拳へ自分の小さな拳を叩きつけた。 

 轟音を立てながらゴーレムの放った飛翔拳が粉々に砕け散る。

 

『ひゅー、あぶねぇ。あんま油断すんじゃねぇぞ。いくらレベル99だからっていったって即死級の攻撃を喰らっちゃきついぜ』

「悪い悪い、次は気を付けるよ」


 しかし参ったとケンは感じていた。

無茶苦茶で隙のない攻撃、即死級の攻撃。


最強に感じられたレベル99の膂力、スキルライブラリと絶対不可視の力。

いずれもゴーレムを倒すための決定的な一撃には思えない。


――どうする? どうしたら?


 ケンは考えながら、ゴーレムが再び放った飛翔拳を回避する。

 豪速で一気に距離を詰め、間髪入れずに相手を粉砕するゴーレムの技。

 その時だった。


 これまでの状況、そしてゴーレムの飛翔拳が閃きを齎す。


「おい、アスモデウス。一つ確認したい。スキルの発動ってのは同時にできるのか?」


 相変わらずゴーレムの拳を回避しながら、頭の中でアスモデウスへ聞く。


『スキルだったら大丈夫だぜ。なんか考えでもあるのか?』

「まぁな! ちょっと試してみるわ!」

「フシュゥゥゥ――ッ!」


 ゴーレムの剛腕を飛び上がって回避するケン。

 十分距離が取れたことを確認し、一拍おいて呼吸を落ち着け、そして分類済みスキルの一覧を開いた。



【分類済みスキルライブラリ一覧】


★魔法系


 光属性魔法lv1


■技能系


 切れ味増強


▲特殊攻撃系


 火炎放射

 岩石召喚



 その中から【岩石召喚】を選択し、力の宿った『星廻りの指輪』の嵌った左手を地面へ押し当てた。

 全身全霊を掛けて地面へ力を流し込み、迷宮の至る所から砂や石を集める。


 砂は石に、石は岩になってどんどん肥大化。

 仕舞にはケンの足元さえも盛り上がる。

 現出する巨岩。

 それはまさに、【巨大な岩の拳】


「フシュ!?」


 ケンが形成した巨大な岩の拳を前に、ゴーレムはたじろぐ。

 そんなゴーレムを見下ろしながらケンはニヤリと笑みを浮かべた。


「目には目を、歯には歯をってな……!」


 ケンは再び星廻りの指輪を足元の岩の拳へ押し当てた。

 分類済みスキルから【火炎放射】を発動させる。

 すると、拳の後ろから火炎が噴き出す。

ダメ押しで【光属性魔法lv1】を発動。

 光と熱の魔法で勢いづいた火炎が一気に爆ぜた。


「砕け散れッ! 岩石野郎ッ!」


 火炎に押されて、岩の拳がロケットのように飛んだ。

 加速は瞬時。

 岩の拳は空気を引き裂きながらゴーレムへ向けて突き進む。


「フシュ――ッ!?」


 火炎放射に押されて、勢いよく飛び出した岩の拳が、一気にゴーレムを粉々に粉砕。

 もろくも崩れ去るゴーレムの姿が目下に見えた。


『ひゅー! こりゃスゲェ! よくこんなこと思いついたな?』


 頭の中に驚きと興奮のアスモデウスの声が響く。


「ゴーレムの飛翔拳を見てたらなんとなくね。こういうこともできるんだな」

『おうよ! しかし、まぁ、なんだ、これって所謂「飛ばせ鉄拳、ロケットパンチ」ってやつだよな? 魔神だけに?」

「そんなとこだ。これならサーチの消費を抑えられるだろ?」


【サーチ】から【スキル】の流れよりも、【スキル】を重ね掛けした方がHPの消費が少ない。

これまでの戦いでそう体感していたケンの導きだした答えがこれだった。


『ははっ! OKOK、気に入った! お前さんが作り出した合体スキル……名づけて

魔神飛翔拳ロケットパンチ】! とっときな!』




【分類済みスキル一覧】


★魔法系


 光属性魔法lv1


■技能系


 切れ味増強


▲特殊攻撃系


 火炎放射

 岩石召喚


●***(未分類1)


 【魔神飛翔拳】NEW!




 アスモデウスのハイテンションに苦笑いなケン。

 そんな中、またしても横穴や地面から、無数のモンスターが湧いて出てくる。


――こんな連中にいつまでも付き合ってるわけにはいかない。


 そう判断したケンは召喚した岩の拳へ飛び乗った。


「薙ぎ払えっ!」


 拳はケンの意思を受け、再び飛び出す。

 岩の巨大な剛腕は、モンスターを蹴散らし、迷宮回廊を強引員掘削し突き進む。

 豪速で突き進む岩の拳の前に敵は無い。



――ラフィ、待っててくれ! あと少しで!


 ケンは魔神飛翔拳に載り、帰りを待つラフィへ想いを馳せるのだった。

 

本日はここまでです。


ありがとうございました!


お愉しみ頂けたのなら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ