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最強の魔神の力:「レベルカンスト」・「スキルライブラリ」・「絶対不可視」


「これは一体……?」


 ケンはくまなく自分の体を見渡す。

モンスターハウスで受けた傷、ゴーレムの飛翔拳を喰らって殆どただの肉塊となっていた身体が、

まるで時間が遡ったかのように無事。


元通り、という表現はいささかおかしい気がする。


むしろ以前よりも血管の中を流れる血は滾るように熱く、筋肉は今すぐに激しく動かしたいほど活力に満ち溢れていた。


それでも心はどこか静かで、焦燥感は無く、穏やかで開放感に溢れていた。


『ケン、お前はこの俺、32番目の魔神アスモデウスと契約して魔神の力を手に入れた! もはや人間程度の器じゃねぇからな。そこんとこ宜しく!』


 頭の中へ、瀕死状態だった彼へ語り掛けていた、アスモデウスと名乗る何者かの声が響き渡る。


「どういうことだ?」

『そうだな、まぁ、お前ら風に云えば、DRデビルレアクラスのアイテムを手に入れた……いや、そのアイテムと同化して、序列迷宮を司る魔神と同化したって言った方が良いか?」


 ケンの左の指には、赤紫の輝きを放つ、禍々しくも美しい指輪がはめられていた。


『こいつは俺様との契約の証! DRアイテム『星廻りの指輪』!』


DRデビルレアアイテム】


 この世界に72個存在する序列迷宮。

その最深部にある最高位のアイテム。

SRスーパーレアLRレジェンドレアを超えるこの世界の至宝。


 序列迷宮へ潜る者は等しくそれを求め、危険へ挑む。

 だが多様な危険の潜む序列迷宮でそこに到達する存在はほぼ皆無に等しい。

少なくとも、ケンが働かされている探索ギルド「アエーシェマン」では、存在しなかった。


『論より証拠! まずは足に目一杯力を込めて、天井の穴へ向けて飛んでみな』


 頭の中へアスモデウスの声が響き。

 普段だったら何のことだと首を捻っただろう。

しかし今は何故かアスモデウスの言葉は信用できる。


 そう感じたケンは云われた通り、膝へ力を込めて、遥か上にある天井の穴を睨んだ。


 飛翔。


 遥か昔、超人的な身体能力を持ったアニメやコミックの登場人物みたく、ケンはたった一飛びで天井の穴を潜り、迷宮の階層を一段昇る。


「おわっと!?」


 しかし驚異的な力に頭が追い付いていないのか、若干足元が狂うのだった。


「す、凄いな……」

『まぁ、この能力は元々お前さんが持ってたものだけどな』


 ケンの疑問に頭の中でアスモデウスが応える。


「俺の力?」

『正直びっくりしたんだけど、おめぇ実はとんでもねぇレベルに上がってるんだぜ?』

「レベル? ゲームとかでよく見るあれか?」

『そそ。この世界には能力の段階を明確にするために”レベル”って概念があるんだ。知らなかったか?』

「この世界に来てからずっと居住地と序列迷宮との往復しかしてなかったからな……」

『なるほど、それじゃ仕方ねぇ。まぁ、でもレベルの意味は分かってるっぽいから説明を省くぜ。この世界じゃ上限が99なんだが……もう、お前さんその域に達してるんだぜ?」

「マジか!?」

『おう! レベル99っていやぁ、この世界じゃ伝説の英雄・稀代の勇者だ! お前さん、今まで何してきたんだ?』

「ただ命じられるがまま序列迷宮に潜っていただけだが……」

『まぁでも、その経験が自然とレベルを上げていたってことだな。もうお前さん縛る呪いは、この俺様の『星廻りの指輪』が解除した! もう自由だ! これからは力を存分に振るってくれ!』


 漲る力といつの間にかレベル99に達していたという事実。

 それらはケンに勇気と希望を与え、心を明るく照らし出す。


『さぁ、こんな陰気な場所にはさよならして、さっさとラフィちゃんとやらのところへ帰ってやろうぜ』

「ああ!」


 ケンはアスモデウスへ力強く答え、そして一歩を踏み出した。


 薄暗く湿っぽい序列迷宮を、ケンは進んでゆく。

 やがて嗅ぎ慣れた生臭い匂いと、ぬめりを感じさせる独特の歩行音が鼓膜を揺らす。


 ケンの目の前に現れたのは、序列迷宮で危険種と名高いスライム属のモンスター。

数多くの奴隷兵士を喰らい、ケンを何度も死の淵へ追いやろうとした【迷宮クラゲ】


――だが今の俺はレベル99。もう迷宮クラゲなど恐れる必要は無い!


 武器は無い。

 だが拳で十分と判断。

 目の前へ現れた迷宮クラゲを睨みつけ、構えを取る。


『ちょーっと待ったぁ!』


 っとそこでアスモデウスの叫び声。


「なんだ? 急に煩いぞ?」

『丁度良い、ここで俺様の本領! 【スキルライブラリ】と【サーチ】のチュートリアルだ!』

「チュートリアルって、お前……」

『だってこの方がこれから何するか分かりやすいだろ?』

「まぁ、確かにそうだが……」


 分かりやすいのは確かだった。

 しかし緊張感に欠けるのもまた事実だった。


『よぉーし、まずは第一段階! これからお前さんの頭の中に【サーチ】って文字を送る。それを認識したら、迷宮クラゲへ触れてくれ』


 程なくして概念として頭の中に【サーチ】の文字が浮かぶ。

 アスモデウスの云う通りその状態で迷宮クラゲへ意識を集中させ、

地面を蹴った。


 LV99の脚力は迷宮クラゲが反応するよりも早く、ケンの体を懐へ潜り込ませた。

 掌が粘着質な迷宮クラゲの体表に触れる。


「ッ!?」


 途端、心臓が一拍激しい鼓動を上げた。

 「星廻りの指輪」が輝きを放つ。

 身体からわずかに力が抜け、頭の中に膨大な情報が、嵐のように渦を巻く。


  軟体モンスター……毒針……スライム族……帆の取引値……体長……

膨大な迷宮クラゲの情報が収束し、一点に集まる。



【サーチ完了】


●スキルライブラリ提示:火炎噴射

 


『最適スキルは火炎噴射か! 後は流れに任せろ! スキルの放ち方は既にお前さんの体が理解している!』


 アスモデウスの云う通りの感覚だった。

飛び退いて一旦距離を置き、再び迷宮クラゲへ手をかざす。

 かざした掌へ熱く燃えるような感覚が沸き起こる。

 ぼんやりと感覚の中に浮かぶ、”銃のトリガー”のような概念。

 臨界を迎えた熱の感覚に合わせて、ケンは概念の中の”トリガー”を引く。


「ッ!」


 ケンの腕から空気中の水分を蒸発させる、火炎が放たれ、迷宮クラゲを一瞬で飲み込む。


「Kiyaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 迷宮クラゲは金切り声を上げて、立派な帆の刺胞から、無数の毒針を放つ。

 だがケンの腕から放出され続ける火炎は迷宮クラゲの毒針を一瞬で溶かし、迷宮クラゲ自体をも焼き尽くす。

 ものの数秒。

 激しい炎はこれまで苦戦を強いられた迷宮クラゲを一瞬で焼き尽くし、蒸発させたのだった。


「す、凄いな、これ……」


 ケンは思わず声を震わせながらつぶやく。


『俺様が保有する約10万個のスキルの塊【スキルライブラリ】から、お前さんのHP(体力)を消費して、今必要なスキルを瞬時に探し出しす――これが【サーチ】だ。どうだい、便利だろ?』


「あ、ああ。HP(体力)を消費したから少し疲れを感じたのか?」


 ケンは額にうっすらと滲んだ汗を拭いながらアスモデウスに聞く。


『そうさ! 【サーチ】は勿論、【スキルライブラリからスキル発動】もな。ただし、自分の掌で触れなきゃ駄目だからな』


「体力を犠牲にして、敵に触れて、最適な攻撃(スキルが選べ放てる。これで合ってるか?」


『大正解! ちなみに【サーチ】は、スキルライブラリからスキルを瞬時に選び出す、いわゆるショートカットを作るみたいなもんだ。勿論、サーチを掛けなくてもスキルを探すことはできる。そん時必要なのは約10万あるスキルの中から最適なものを探し出す根気と時間だけだ』


 レベル99の実力に、体力は削られるものの10万ものスキルを自由に使える力。

 これほど頼もしいものはないとケンは感じる。


『だけど俺様と契約して得た能力はこれだけじゃないぜ。さっ、さくっと俺様の力パート2! 「絶対不可視」の力のチュートリアルを始めようぜ』


 もはやアスモデウスの話し方に慣れ始めたケンは、


「ああ。そうしよう」


 迷宮クラゲの灰を踏み越えて、迷宮を進むのだった。



●●●



 序列迷宮においてオークと並ぶ個体数を誇るモンスター:ゴブリン。

 小鬼然とした奴らは一個体でこそ脅威とはなりえない。

だがゴブリンの力の真価は群れを成すことにあった。

 数に物を言わせ、迷宮へ潜る愚者を嬲るのがゴブリンの戦い方。

 数多くのゴブリンに睨まれたなら最後。

迷宮の深淵へと連れ込まれ、男ならば嬲り殺しに、女ならば群がるゴブリンの慰みものにされた後、その生涯を閉じる。


 個は最弱、群は最強。

群がれば迷宮クラゲ以上の脅威。

 しかしそれはあくまでゴブリン達が敵を認識し、狙いを定められれば、である。


「グエェェェェ!」


 序列迷宮の少し開けた空間へ、ゴブリンの雄たけびがこだまする。

 ゴブリンの群れの足元には、先ほど捕らえ散々弄んだ後、用済みと惨殺した女奴隷兵士の死骸が転がっていた。

 あらゆる快楽を満たしたゴブリン共は、満足げに醜悪な顔を喜びで歪ませ、奇声を上げ続ける。


「グエッ!」


 突然、短い悲鳴が聞こえたかと思うと、一匹のゴブリンの首から上が、風船のようにはじけ飛んだ。

 一瞬、頭がはじけ飛んだ仲間を唖然と見上げるゴブリン共。

しかしモンスターの勘がすぐさま危険を察知した。

 ゴブリンの群れは一斉に、殺した奴隷兵士や冒険者から奪ったショートソードや、トマホークを手に持ち、臨戦態勢を取る。


「グゥエッ!」


 また一匹のゴブリンの頭がはじけ飛ぶ。

だが襲撃者の姿は愚か、気配や足音さえも聞こえない。


「ギエッ!」


 三匹目の犠牲。

不可思議な仲間の死に方に、ゴブリン共はいよいよ戦慄する。

だが敵がどこにいて、どうやって攻撃を仕掛けてきているのか分からない以上、

動きようが無い。


 そんな中でも四、五、六……次々とゴブリンは飛沫を散らしながら、

迷宮の地面へ崩れてゆく。


 群では最強、個では最弱。

狙う先が無い集団はただの烏合の衆でしかなく、ゴブリンの群れは見えない襲撃者へ蹂躙され、そして水泡のように消えてゆくのだった。



●●●



「これも凄い力だな」


 ケンはあっさりと駆逐したゴブリンの死骸を見下ろしながら、

正直な感想を漏らす。


『そしてこれが俺様アスモデウスの真骨頂! 便利な能力パート2! 「絶対不可視」の能力だ!』


 ギャンギャン煩いアスモデウスの声がケンの頭へ響く。

でももうアスモデウスのハイテンションにすっかり慣れたケンは、そのまま説明を聞くことにした。


『「絶対不可視」の力が発動している時、お前さんは相手には干渉できるが、その相手は一切お前さんのことを感知できない。姿、息遣い、足音、気配さえもな!』


「なるほど。だけどこれも結構疲れるな」


『そりゃ当然HPを頂いてるからな。消費は大体【サーチ】と【スキルライブラリからのスキル発動】を足したぐらいって思ってくれ。だからあんまし多用するとすぐに息が上がるから気を付けな』


 アスモデウスの説明を聞きながら、さすがに疲れを感じ始めたケンは、腰のポーチからポーションの入った小瓶を取り出し飲み干す。

 体の疲労感が大幅に和らぎ、火照った体が急速に落ち着きを取り戻す。


「しかしどれも凄い力だな。こんな力を使わせて貰って、お前に何か得はあるのか?」


『だからお前はHPを消費してるんだ。お前さんたちのHPは、俺ら魔神にとって最高のご馳走。スキル発動は、その代償のお釣りみたいなもんだな』

「なんだか怖いな。命を吸われてるってことだろ?」


 そう問いかけると、何故か目に見えないアスモデウスがニヤリと笑みを浮かべたような気がした。


『まぁそう云いなさんな。生き物みんな生きてるってことは、日々命を燃やして死へ向かってるわけだし。生きることは命っていう燃料を燃やしてる。それじゃお釣りなんてでないけど、優しい俺様は【特別な力】っていうお釣りを返してやってるんだから良いだろ?』


「確かにそうだが……日々死へ向かってるって表現はなんだか嫌だな」

「真実だからしかたねぇよ。それにほら、別に俺様が頂くお前さんのHPはポーションで回復できる程度だし問題ねぇよ』

「そういう問題か?」


『びびりなさんな。別にこうして一緒にいることでお前さんの命を全部吸い取ってやろうってわけじゃねぇから。俺はあくまでお前さんの【ラフィのところへ帰りたい】って願いに共鳴して力を貸してぇって思っただけだからよ!】


 とりあえずアスモデウスの言葉に悪意を感じなかったケンは、


――まぁ、そういうことなら良いか。


『おっし、じゃあチュートリアルの最後だ!』

「なんだ未だあるのか?」

『これで最後だから我慢してくれ。そいじゃ行くぜ!』


 アスモデウスの声に合わせて、星廻りの指輪が輝きを放つ。

 するとケンの頭の中に文字が浮かんだ。



●登録済みスキル●


 ★火炎放射



『こうして一回敵を【サーチ】して見つけ出したスキルはこうしてすぐに使えるよう登録されるぜ。ってことは、一回対峙して【サーチ】をかけた相手にはもう【サーチ】する必要は無いんだ』


「一度【サーチ】で見つけたスキルは以後、自由に使えるってことだな?」

『大正解! もちろん時間がある時、根気よく見つけたスキルもここへ自由に加えられるからな。以上、これにてチュートリアルは終了! お疲れさん!』


 ケンはここまでの解説で自分の得た能力を整理することにした。



・自分の【レベルは99】でカンストしている。


 このレベルはこの世界では英雄クラスらしい。


・約10万のスキルが存在する【スキルライブラリ】


 未知の敵と出会った場合は【サーチ】を駆使して、

最適なスキルを探し出して放つ。

 その際に出て来たスキルは登録され、いつでも好きな時に発動できる。

 加えてサーチを使わずとも、時間と根気さえあれば、欲しいスキルを探すことができる


・【絶対不可視】の力


 自分の姿や気配さえも消せる力。


 しかしいずれにしてもHP(体力)を消費することを留意すべき。



 まとめ終えてケンは、自分のことながら少し恐ろしさを感じた。

 脅威のオンパレード。


【最強の三つの力】


 確かに今のケンは人間の域を超え――それこそ魔神と呼ぶにふさわしい。


――だが魔神でも構わない。今日もラフィのところへ帰れるんだったらそれで!


 ケンは決意を改めた。


 彼はゴブリンになぶり殺しにされた女奴隷兵士の躯へ、自分の羽織っていた襤褸の外套をかぶせる。


「お前の仇は必ず」


 ケンは残酷な異世界で二度目の死を経験した同僚の躯へそう伝え、冥福を祈る。

 そして立ち上がり、迷宮を進んでゆくのだった。


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