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花嫁奪還


「来い、ムートン!」

「はい、師匠!」


 ムートンはベールを脱ぎ捨て、床を蹴った。

だが、すぐさま天井から忍者のような格好のホムンクルス兵が現れ、ムートンの行く手を塞ぐ。

ホムンクルス兵は狙いをケンへ定め、腕に鋲止めされた鉈爪を振り翳す。

すると、ケンの姿がまるで煙のように消えた。

 

「ッ!!」


 動揺するホムンクルス兵の一人が、背中から鋭く切り付けられ倒れた。

一人、また一人と、ホムンクルス兵は鋭い刃に切り裂かれ、ばたばたと倒れてゆく。

 ほんの一瞬で全てのホムンクルス兵は床の上に崩れ、式場にいた誰もが言葉を失った。


 そんな中ケンは【絶対不可視】の力を解除して姿を現す。


「き、貴様ぁ! 俺と妻の神聖な儀式を汚すなぁ!」


 花婿のワンは祭壇から奪うように、燭台を手に取りケンへ殴りかかる。

 が、ケンは瞬時にワンの振り上げた腕を掴んだ。

そして気づいた時には足は床から離れ、巨体がふわりと宙へ舞う。

ワンはケンの頭上で綺麗な弧を描いて、背中からヴァージンロードへ叩きつけられた。


「誰が妻だ。まだ宣誓すませてねぇだろ?」

「その通りです!」


 ケンの脇にいたムートンはぴしゃりと言い放つ。

しかし当のワンは口から泡を吹いていて、意識を失っていた。


「ちょっと失礼するぜ」


 ケンはムートンの首に嵌められた赤い首輪を指で弾く。

”呪印解除のスキル”が込められた指先はレベル100の力も相まって、首輪を切り裂いた。

 ムートンは久々に解放された首をさすって、満足そうだった。


「ホント、師匠にかかればこんなの朝飯前なんですね?」

「まぁな。さぁて、」

「あっ……」


 ケンはムートンの膝を腕を回し、背中から方へ腕を通して抱きかかえる。

ムートンは顔を朱に染めながら、迷うことなくケンの首へ腕を回した。


「それにしても師匠、ちょっと遅かったですね?」


 ムートンがちょっといじけ気味にそう云うと、


「悪い悪い。やっぱ流石結婚式だな。警備が予想以上にきつくてよ」

「もうちょっとで神様に嘘を付くところでしたんだから」

「一応間に合っただろ? 許してくれよ、なっ?」

「もう……まぁ、でもこうして約束は果たしてくれました。許します!」

「サンキュ。でもこっからが本番だからな!」

「はい!」

「じゃあ、行くぞ! 今回こそしっかり口閉じてろよ!」


 ケンは祭壇に背を向けて地を蹴る。


「は……ひぎっ!」

「んったく……言わんこっちゃない」


 ケンはムートンを強く抱きしめ、そして矢のように飛んだ。

 扉を飛び出し、更に床を蹴る。

頭上に見える彩り鮮やかなステントグラスを突き破り、外へ出た。

 そして予想通り視界には、城壁の上で杖を構える、警備の魔導士の姿が映った。

 魔導士は一斉に杖を振りかざし、先端の宝玉を輝かせ、魔法の発射体勢に入る。


「ぐわっ!」


 視界の隅で魔導士が一人倒れ、杖が城壁の上から落ちる。

 宣誓の塔の天辺。

そこに陣取った”リオン”は正確な弓使いで、魔導士の杖を次々と撃ち落とす。

 そして更に城壁の上をひた走る、黄金色の人影。


 隠れ潜んでいた”ラフィ”はリオンが魔導士から杖を撃ち落とした瞬間、拳や足を放つ。

 ラフィの華麗な体術の数々は、ケンとムートンへ狙いを定めていた魔導士を全てなぎ倒す。


 やがてケンとムートンの姿に気が付いたのか、城壁の上のラフィは、諸手を上げてぴょんぴょんと跳ねた。


多段矢ハイドラ!」


 リオンの叫びがカベルネ城の上へ響き渡ると、矢が雨のように降り始めた。

 無数に降り注ぐ矢は城壁や中庭へ落ちると、鏃に込められた魔力を爆ぜさせる。

 爆風は壁をよじ登っていたホムンクルス兵を吹き飛ばし、魔導師には防御魔方陣を敷く以外の選択を与えない。


 その隙にムートンを抱きかかえたケンは、再び靴底でステントグラスを割り、下の階層へ降り立った。


 ケンが回廊へ現れると、そこに居た従者たちは、アリを散らす様に逃げて行く。

そんな従者たちの間から、またしてもホムンクルス兵が、ケンへ真っ直ぐ向かって来ていた。


「悪いなムートン、ちょっくら飛んでてくれ!」

「え? ……ひゃあぁっ!?」


 ケンは思いきりムートンを上へ投げ飛ばすと、回廊の絨毯を蹴った。


 【絶対不可視】の力でホムンクルス兵の間へ滑り込み、腕に纏った氷の刃【冷鉄手刀】を振う。

 鋭い氷の刃はホムンクルス兵の鋼の爪を飛ばし、体表を切り裂き、無力化させる。


 ほんの数瞬でホムンクルス兵は絨毯の上へ倒れ伏す。

そしてタイミングよく、宙を舞っていたムートンが、再びケンの腕の中に納まるのだった。


「もう、師匠は相変わらず乱暴なんですから」

「悪い悪い」

「私だって、その……一応、ラフィと同じ女の子なんですからね。丁寧に扱ってもらわないと困ります」


 意図せず”ラフィ”の名前を出され、

ケンは腕の中のムートンを”女”とし意識し、心臓が高鳴る。


「そ、そうか。悪かった。気を付けるよ」

「ふふ、可愛い」

「なんか言ったか?」

「いえ……先、急ぎましょう!」

「ああ!」


 ムートンに促され、ケンは更に先を進む。

回廊の先にあった扉を蹴破ると、そこは広いダンスホールのようなところだった。

 そんなホールの壁面に据えられていた甲冑がカタカタと震えだす。

そして、まるで中に人が入っているかのように次々と動き出した。


――リビングアーマーってやつか。さすがは魔術師の城だ。


 気が付けば無数のリビングアーマーが剣や盾を構えて、ケンの行く手を塞いでいる。


「よいしょっと」

「お、おい!」


 突然ムートンはケンの首から手を離し、床の上へ降りた。


「さすがの師匠でもこのままじゃ脱出は難しいと思いましてね」


 ムートンは花嫁衣裳を鷲掴み、破る様に脱ぎ捨てる。

そして肌着姿となった彼女は強く床を踏みしめた。


「我が元へ戻れ! 聖剣「エール」、「ダルジャン」!」


 ムートンの命を受け、LRクラスアイテム青い宝剣「エール」と「ダルジャン」が転移して来た。

 二振りの宝剣はまるで自らの意思を持つかのように、ムートンの手の中へ自然と収まる。


聖鎧装着キャスト・オン!」


 瞬転、とはまさにこのこと。

ムートンは一瞬で重厚で、荘厳な、彼女を聖騎士足らしめん、立派な鎧を装着させる。


「やっぱお前はその格好の方が似合うな?」

「私もそう思います! さぁ、師匠、共に参りましょう!」


 リビングアーマーが一斉に動き出し、ケンとムートンへ迫る。


「って、お前、相変わらず攻撃当たらないだろ?」

「ですけど!」


 ケンは腕に纏った氷の刃を、ムートンは二振りの宝剣を繰り出し、ほぼ同時のタイミングでリビングアーマーの斬撃を防いだ。


「弾除けぐらいにはなります!」

「ははっ、ちげぇねぇ!」


 ケンとムートンは再び同時に得物を押し込む。

その力は凄まじく、リビングアーマーはまるでガラクタのように次々と崩れ去る。

 しかし手ごたえが感じられなかったケンは構えを解かず、ムートンも同様に宝剣を構え続けた。


 二人の目の前で崩れてばらばらになったリビングアーマーが、風に巻き上げられた砂のように渦を巻く。

渦はやがて一つに固まり、形を成し、ケンとムートンへ巨大な黒い影を落とす。


 二人の目の前には見上げるほど巨大なリビングアーマーが出現した。


「おっと!」


 リビングアーマーの振り落とした巨大なサーベルを、ケンとムートンは左右に分かれて避ける。

そして脇に回り込んだケンは、翳した腕から、スキルウェポン【破壊閃光フラッシュブレーカー】放った。


「こいつもおまけだ! とっときな!」


 更に飛翔針砲ニードルミサイルを重ね掛ける。

しかし破壊閃光はリビングアーマーの装甲に弾かれた。

リビングアーマーは飛翔針砲の爆発をものともせず、サーベルを振り回し続ける


――図体がでかい割に早い斬撃だ!


 ケンとムートンは暴れまわる、リビングアーマーのサーベルをかわし続ける。

が、それだけ。リビングアーマーはケンとムートンへ息つく暇を与えない。


――だったら魔神飛翔拳で吹っ飛ばすか? いや、アレの発動には時間がかかる。


 ケンはリビングアーマーの動きを封じつつ、何か攻撃する手段は無いかと考える。

すると、以前ベヒーモスと対峙した時のことを思い出し閃いた。


「ムートン!」

「はい! プロテクトシルト!」


 阿吽の呼吸でケンの目の前にムートンが躍り出て、蒼い障壁を張り、リビングアーマーのサーベルを受ける。

 一瞬、リビングアーマーの動きが止まった。

 その隙をケンは見逃さない。


――壁召喚サモンウォールに、火属性魔法を加える。これこそ!


 叫ぶとの同時に床へ掌を叩きつけた。

彼の指に嵌るDRアイテム「星廻りの指輪」が炎のように赤く輝く。

輝きは床を伝って、巨大リビングアーマーをぐるりと円状に取り囲んだ。

 刹那、無数の”壁”が現れ、リビングアーマーをその中へ閉じ込めた。


「地獄の熱で灰になれ! 【灼熱壁射ウォールバーン】!」


 瞬時に発熱し真っ赤に染まった壁から、熱線が放たれた。

四方八方の壁から放たれる熱線を受け、巨大リビングアーマーが飴細工のように溶けてゆく。

召喚した壁が消えると、その向こうには一切原形を留めていない、鉄塊があるだけだった。


 ケンとムートンは溶けたリビングアーマーを横切り、先の扉へ飛び込む。

二人が外へ飛び出ると、抜群のタイミングで城門が、ホムンクルス兵もろとも吹っ飛ばされた。

 マルゴの運転する装甲馬車が犇めくホムンクルス兵をなぎ倒しながら突き進んでくる。

そしてケンとムートンの前へ滑り込むように止まった。


「お二人とも早く!」

「ナイスタイミングだ、マルゴ! 行くぞ、ムートン!」

「はい!」


 ケンはムートンの手をしっかり掴んで荷台へ乗り込む。

マルゴはすぐさま手綱で鎧を着た馬の腹を叩き、発進させた。

 装甲した馬は起き上がったホムンクルス兵を突き飛ばしながら、城門を潜った。

ケンとムートンを乗せた馬車は迷宮都市とカベルネ城を繋ぐ水道橋をひた走る。

事前打ち合わせの通り、水道橋のホムンクルス兵はラフィとリオンによって倒され、警備は薄い。


「師匠、あれは!?」


 突然ムートンが空を指さし、視線を上げる。

二人の頭上を真っ赤な火の玉が、物凄い速さで飛んで行った。

それは吸い込まれるようにカベルネ城へ向う。

そしてさっきまでムートンの婚礼の儀が行われていた”宣誓の塔”の頂上へ落ちた。

高い塔はもろくも崩れ、城の中庭へ落ちてゆく。


すると今度は無数の”飛竜ワイバーンが飛来し、カベルネ城に群がり始めた。


「まさかこれも師匠が!?」

「いや、違う! なんだよ、これ……?」


 突然馬が唸りを上げて、馬車が急停車する。


「あ、兄貴、こらぁなんですかい?」


 唖然とするマルゴの視線の先。

そこには奴隷兵士で、ムートンの側用人の”メイ”を中心とした兵士達が徒党を組んで行く手を塞いでいたのだった。


 

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