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リーダー オブ グリモワール


『オイラたちの負けだ……だから一緒に逝こうぜ……なっ! 相棒!』

『ウィンド……!』



 グリモワールの荷物係ポーターの少年ウィンドと、忍者然とした暗殺者アサシンのシャドウは”水晶玉の中”で光に飲まれて消えた。



『『私たちはいつも一緒! 一緒に消えられるなら本……ギヤァァァァっ!!』』



次いで現れたのは魔導師アイス姉妹の最後。

消失した姉妹の姿を最後に水晶玉から光が失せる。


淀んだ水晶玉の表面。そこへ静かな怒りの様相を呈する白と黒の魔導師:アイス姉妹の顔がぐにゃりと映った。


「クソッ!」


 くぐもった声が響き、乱雑に積み上がっていたアイテムの山が、蛇の剣で切り裂かれ、崩れた。

それでも怒りが収まらないのか、暗殺者アサシンのシャドウは言葉無く、それでも激しくアイテムの山を剣で切り付け壊す。


「まぁまぁ、シャドウそう怒るなっての。のオイラは無事なんだからさ」


 と、シャドウへ声を掛けたのは五体満足な、探検家風の衣装を来たグリモワールの荷物係ポーターのウィンドだった。

 しかし兜の奥にあるシャドウの赤い双眸は爛々と怒りの炎で燃え盛っていて、アイテムへの八つ当たりは終わらない。


「例え”リーダーの幻影”だろうと、オレはウィンドを守れなかったのが悔しい!」

「そうね、シャドウの言う通りよね。例え”ミッキーの幻影”だろうとオウバがあのような仕打ちを受けたなど、許しがたいことです」


 シャドウの意見に応えたのは、やや眉間に皺を寄せる、黒の魔導師、姉のシャギ=アイス。


「姉様、ありがとうございます。私も気持ちは姉様と同じ。例え”ミキオ様の幻影”だろうと姉様が殺されたのは我慢なりません!」


 妹で白の魔導師オウバ=アイスは静かに、しかしはっきりとした怒気を含んだ声を吐く。

 グリモワール四人のうち、三人が激しい怒りを見せていた。

 唯一平然としているのはウィンド。


 彼は所詮幻影は幻影で、家族同然のシャドウ本人には何も起こっていないので怒りを覚えてはいなかった。


――だけどこの空気なんかヤダな。


 なんとかこの暑苦しい空気を払拭したいウィンドだったが、


――シャドウは基本堅物、アイス姉妹はヒステリーだからなぁ……

こんな時”ミキオ兄ちゃん”がいてくれれば……


「よっ! みんな、たっだいまー!」


 グリモワールが根城としている序列71迷宮ダンタリオンの最深部に、軽快な青年の声が響いた。

 するとシャドウはぴたりとアイテムへの八つ当たりを止め、憤怒の形相だったアイス姉妹の瞳が丸みを帯びる。


 グリモワールメンバーの視線の先、そこには煌めく白銀の髪を持つ、

法衣のような衣装を着た好青年が爽やかな笑顔を浮かべて佇んでいた。


「ミキオ様! お帰りなさい!」


 真っ先に飛び出したのはアイス姉妹の妹:オウバ。

彼女はロングスカートを振り乱し、玉のように跳ねて、一直線に銀髪の青年――ミキオ――の逞しい胸元へ飛び込む。


「ただいま、オウバ。元気にしてかい?」


 ミキオは少年のような笑顔を浮かべながらオウバを強く抱き寄せる。


「はい! でも寂しかったです……」

「ごめんな、寂しくさせて」


 ミキオは更にオウバを抱きすくめる。

腕の中の白い魔導士は顔を真っ赤に染めた。

吐息は荒く、スカートの中では少女の太腿が疼きを堪えるように震えている。


「ずっとずっとミキオ様のお帰りを待ち焦がれておりました……ですからミキオ様、どうかこの寂しさを埋めてください。久々に可愛がってください。もう我慢できません……」

「あら、オウバ? 姉を差し置いてさっそくミッキーへ夜這いのお誘いかしら?」


 冷ややかな黒の魔導士:姉のシャギの声が聞こえ、オウバは血相を変えて振り返る。


「ね、姉様! こ、これはその……」

「ただいまシャギ。相変わらず君はオウバに厳しいね」


 しかしミキオが言葉を挟むと、シャギの怒りはどこ吹く風か、消えてなくなる。


「私は姉ですもの。妹の無礼を正すのは当然ですわ」

「あはは、じゃあその様子じゃシャギは寂しくなかったと?」

「いえ……」


 妹とは対照的にシャギは妖艶な笑みを浮かべながら、ゆらりとミキオの腕に絡みつき、形の良い存在の感のある胸を押し当てた。


「勿論、寂しかったに決まってるではないですか」

「やっぱし?」

「ええ。幾夜も、何度もミッキーのことを想って姉妹で慰め合ったか分かりませんわ。ねぇオウバ?」

「姉様の仰る通りです……ミキオ様、もはや私たちだけではこの疼き、止められません」


 アイス姉妹は揃って顔を赤く染める。


「ではミッキー、」

「今夜はどうか、」

「「離れていた分私たちをいつも以上に可愛がってくださいましね」」

「分かった! 任せな! 愛してるよ、シャギ! オウバ!」


 ミキオは精一杯アイス姉妹を力強く抱きしめた。


「おい、おまえらばっかずりぃぞ! オイラにも兄ちゃんに挨拶させろよ!」


 と、そこで声を上げたのは荷物係ポーターのウィンド。

アイス姉妹は忌々しそうにウィンドを睨む。

しかしミキオが腕の力を抜くと、姉妹は大人しく離れるのだった。


「よっ、ミキオ兄ちゃんお帰り!」


 ウィンドが拳を突き出し、


「おう、ただいまウィンド! 儲かってるか?」


 ミキオも拳を突き出す。

パチン、と拳がぶつかり、ミキオとウィンドはニカっと微笑み合った。


「勿論儲かってるよ! 兄ちゃんは?」

「そりゃもうガッポガッポさ! 面白いアイテム沢山手に入れたから後で仕分けよろしく!」

「はいよ! へへっ、どんなアイテムかな? 楽しみだな」


 そんなミキオとウィンドを暗殺者アサシンのシャドウは静かに見つめていた。

 ミキオはシャドウの方へ向き、笑顔を浮かべて手を出しだす。

するとシャドウは音もなく、ミキオの差し出した手を固く握りしめた。


「リーダー、無事帰還、祝う」

「ただいまシャドウ。俺が居ない間、家族を見守っててくれてありがとな」

「感謝返礼。ソレがオレの役目」

「そんな実直なお前のこと好きだぜ、シャドウ!」

「感謝。ところでリーダー、帰還したということは準備完了か?」

「ああ!」


 ミキオはシャドウから離れると、無造作に積まれたアイテムの山へよじ登る。

そして彼は法衣のような衣装の袖から、黒い瘴気を放つ太い鎖を取り出して掲げて見せた。


「この通り、序列25位グラシャラボラスのDRアイテムは回収してきた。これで”呪印”の解除はばっちり! ともちゃんと話は着けて来た! 俺たちの悲願まではあと少しだ!」


 ミキオの突き抜けるような爽やかな声に、グリモワールの面々は笑みを浮かべて頷く。


「ってことで、最後の一押しをする! パーティー編成はシャギ、オウバ、ウィンド! 君たちは九位迷宮パイモン! 俺とシャドウは六位アモン! 出発は明日だ。みんなまるっときっちり支度頼むよ!」

「うえぇ……姉妹とかよ……」


 ウィンドは小声でいったつもりだったが、うっかり口から出てしまった言葉はきちんとアイス姉妹に届いていた。


「私達だって嫌ですわ。ねぇ、オウバ?」

「姉様の仰る通りです。ガキのお守など願い下げですね」

「んだと! やる気か!?」

「まぁまぁ落ち着いて三人とも」


 ミキオの声で一触即発の空気は消し飛ぶ。


「パイモンの攻略にはシャギとオウバの魔法の力と、ウィンドの回収力が必要不可欠なんだよ。こっちはこっちでアモンに詳しいシャドウの協力が欲しいしさ。ちゃんと意味がある編成だから堪えてくれ、頼む!」


 ミキオが手を合わせて拝むようなポーズをとると、ウィンドは「まぁ、兄ちゃんがそう云うんじゃ……」と納得し、アイス姉妹はため息をついた。


「リーダーのミッキーがそう決めたのなら仕方ないわね」

「姉様の仰る通りですね。でもただでは困りますよね?」

「分かってるって。後でまるっときっちり一晩掛けてシャギとオウバには奉仕させて貰うからさ」


 アイス姉妹は妖艶な笑みを浮かべ、


「言ったわね? 聞きましたわねオウバ?」

「はい、確かに。ならば宣言通り、今宵は精も根も尽き果てるほど私たちを満足させてくだしましね」

「「うふふふふっ……」」

「おいおい、お前等だけで何かしようだなんてずりーぞ! オイラも混ぜろよ!」


 そう声を上げたウィンドへアイス姉妹は冷ややかな視線を送る。


「ウィンド、貴方私達とミッキーが何をするか理解していらっしゃる?」

「うふふ、きっとしてませんわ姉様。子供はこれだから困りますわね?」

「子供子供うるせぇーな! 大体シャギもオウバもオイラとそんなに歳違わないじゃないか!」

「そう吠えるところが、」

「ガキ、ですわね」

「「うふふふっ……」」

「だからなんでオイラがガキなんだよ! だったら何するか位教えてくれたって……」


 不毛なアイス姉妹とウィンドのやり取りに、ミキオはどう応えて良いか分からなかった。

 しかし救いを求めるようにシャドウへ視線を飛ばすと、


「ウィンド、済まないがこの後オレの探索に付き合いを所望。幾つか素材が足りず。お前の力が欲しい」

「そうなのか?」

「頼み、聞いてくれるか?」

「あったぼうよ! 相棒の頼みを断ったりはしないよ!」

「感謝。早速準備、頼む」

「はいよ! じゃあまた後でな!」


 意気揚々とウィンドは駆け出し、最深部エリアの岩壁につけられた自室へ続く扉の中へ駆けこんでゆく。


「いつも悪いな、シャドウ。助かったよ」


 ミキオの礼にシャドウは赤い双眸を明滅させて応える。


「リーダー、明日出立。くれぐれも体力の温存を願う」

「俺はそうするつもりなんだけどさぁ……」

「願う」

「だったらシャドウからシャギとオウバにも言って貰えると助かるなぁ……だってあいつ等、散々してもう限界なのに俺へ回復と狂戦士化バーサーカーの魔法かけて無理やり続けさせるんだもん……」


 ミキオは苦笑い気味にアイス姉妹を見やる。

すると姉妹は再び揃って妖艶な笑みを浮かべた。


「ならば魔法が使えなくなるほど私達を満足させれば良いだけではないですか。ねぇオウバ?」

「はい、姉様の仰る通りです。さっ、ミキオ様、」

「「参りましょう! 今宵は眠らせませんわよ、うふふ……」


 姉妹に左右の腕を取られたミキオは苦笑し、


「あはは、お手柔らかに頼むよ」


 シャギとオウバの私室へ連れ込まれるのだった。


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