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一章エピローグ:そしてこれからのこと……


「お帰りケン! ……あうぅ~お酒くさい……」


 家の扉を開いて早速、リオンが出迎えてくれたが、顔をしかめてさっさと離れる。


「おはようございますケンさん。随分と遅いお帰りでしたね?」


 今度は穏やかな顔だが、どこか冷ややか雰囲気を感じるラフィがケンを見下ろす。


「あー、いや、これは……」

「羽を伸ばしたいのはよくわかりますけど、今日はすっごく忙しいんですからほどほどにしてくださいよね!」

「すまん……」

「クンクン……ムーの匂いする。なんで?」


 リオンが怪訝そうな目をして、ケンの心臓が一気に跳ね上がった。


――マズイ、マジやべぇ……


「あ、いや、これは、その……昨日、あいつとこの間の祝杯をだな……」


 背筋が凍り付き、冷や汗が浮かぶ。


「へぇ、ムーさんと……」


 ラフィの声が凄く冷たく感じる。

 するとラフィはため息を吐いた。


「全く、ムーさんも……ケンさん? ムーさんに迷惑かけてないでしょうね?」


 まさか何も無かったとは言え、ムートンの膝の上で一晩明かしたと云えないケンは、


「あ、ああ! そりゃ勿論!」

「なら良いんですけど……今度はわたしも誘ってくださいよね? 二人だけなんてズルいですよ?」


 と、ラフィはすねた様子を見せた。

 改めて、ラフィがどれだけ自分のことを信頼してくれているのかと思い知る。


――アスモ、次はねぇからな。頼むぞ。

『……わかったぜ兄弟。つうか、ムートンとの酒の席はお前に任せた』

「僕も! ムーとケンばっかずるい!」


 すっかり懐くようになったリオンの髪を、ケンはくしゃりと撫でた。


「そうだな。次はみんなで行こう」

「あう! えっへへ~」


――リオンも良い顔をするようになったな。


 アイス姉妹の呪印に囚われていた頃は、もっと殺伐とした雰囲気をしていた。

 しかし今は、年相応のあどけない表情を浮かべている。


「さっ! もう時間ありませんよ? 支度してください! リーちゃんも!」

「おう」

「あう!」


 身支度を済ませ、隣部屋のムートンと合流し、ケン達はギルドへ向かっていった。



●●●



「ケン=スガワラ! 貴殿とそののパーティーは序列迷宮より2つものDRアイテムを持ち帰った。ギルド総代表:ダルマイヤック=シャトーに代わり貴殿の栄誉を称える!

そこでパーティーメンバーへは各人へは昇格を、貴殿には最高位:”ブラッククラス”の称号を授ける!」


 ケン恭しく頭を提げ、アントル地方のギルドマスターが差し出した、漆黒のバンドを受け取り、腕へはめる。

 途端、集会場の中央にある祝賀会場は歓声に包まれた。


 この世界では史上六番目、グリモワールのメンバーに次ぐ、ブラッククラスの誕生にその場は沸きに沸いていた。


 ブラッククラスパーティー:グリモワール。


 その裏の顔を、未だケン達以外は知らない。

 元々彼らは迷宮の奥深くへ潜っていることが多く、バルバトス迷宮ではDRアイテムをケン達に取られたものの、他のDRアイテムを求めて他の迷宮に潜っている、というのが、巷に流れている彼らの噂だった。


 だが既にブラッククラスパーティー:グリモワールはこの世界に存在しない。

それに今更彼らの”裏の顔”を語ったところで、悪い状況しか生まないのは明らかだった。

 だからこそケン達は彼らの裏の顔を語るまいと、心に強く決めていた。


「師匠、おめでとうございます!」


 ホワイトクラスからルビークラスへ、二階級も特進したムートンは拍手を送り、


「ケン、凄い! 僕も頑張る!」


 ルビークラスからブラッククラスの一つ下、オランジュクラスへ昇格したリオンは意気込みを語る。


「おめでとうございますケンさん! やりましたね!」


 ルビークラスのラフィは、笑顔で賞賛してくれた。


「それではこれより祝賀会を……」

「悪い! それはキャンセルだ! 行くぜ、お前等!」

「あ、ちょっと!」


 ギルドマスターの声を振り切って、ケンを先頭に、ラフィが、リオンが、そしてムートンが駆け抜けてゆく。


「お待ちしてましたぜ、兄貴! 行きやしょう!」


 集会場に横付けされていたマルゴの馬車へ飛び乗り、メールの町を出て、森の中へ分け入る。


 本当はブラッククラスへの昇格授与式は、もっと立派なところでやることになっていた。

 でも、その後のこともあるし、堅苦しい式典に出るよりも、ケンにはやるべきことが沢山ある。

 そう判断したケンは、身近なところで授与式を済ませ、新天地へ向けて馬車を走らせていた。



 やがて馬車は森を抜けそして森を切り開いて作った、大きな広場へ出た。


 そこではマルゴ一家が家を造り、リオンの子供たちが手伝って、準備を着々と進めている。


「だんだんと村らしくなってきましたね」


 馬車を降り、隣のラフィが感慨深そうに呟く。


 ケン達はここでリオンの集めた孤児たちと暮らすことに決めていた。

いつまでもあんな洞窟で生活させたくはない。

 一時辛い生活を送っていたケンはそう判断し、今に至る。

ここまでで稼いだ金の殆どを使うことになったが、財布の寂しさよりも、心の満足感の方が大きかった。


――それにまた稼げば良いしな。


「おいムートン、予定より資材が足りねぇぞ!?」

「えぇっ!? まさかそんな……あ、あれ? おかしいなぁ……」


 向こうでは既に、建設の指揮を執るムートンへ、現場監督のマルゴが相談を持ち掛けている。

 ムートンもまたここで一緒に生活をしてくれるらしい。


「みんな、一緒に持つ! せーの!」


 リオンは孤児たちと一緒になって資材を運んでいた。

ケンの度重なる呪印解除と、そしてDRアイテムを手にしたことで、彼女に掛けられた呪いはほぼ効力を失っている。

もはや彼女が、呪印に苦しめられることは無い。


「良いところにしよう。俺たちの力で。必ず」

「はい!」


 ケンの言葉にラフィが気持ちよく答える。


 奴隷兵士というろくでもない形で、この世界に転移転生しょうかんさせられたケン。

 だけどこの世界で、大事にしたい仲間と、そしてかけがえのない人と出会うことができた。


――だからこそこれからも守ってゆく。

獲得した魔神の力を使って!


 そう決意を改める。


 そしてこれからのことを考えて、もう一つ決着を付けようと心に決めた。


 ずっと自分の気持ちが良く分からなかった。

だけど、離れて、危ない目にあって、取り戻して、そしてようやく気付くことができた。

 だからこそ、その気持ちを今伝えるべき。


『決めたれ、兄弟!』


 もう随分慣れたアスモデウスの声にケンは、


――任せとけ!


 少し体を傾ける。

そしてラフィの横顔を見つめた。


「ラフィ、今更なんだけどさ……」

「はい」

「俺の、本当の家族になってくれ」


 そう告げるとラフィは仄かに頬を朱に染め、笑顔を浮かべてこう言った。


「ありがとうございます……貴方のお陰で、わたし今、すっごく幸せです!」


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