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決戦 グリモワール 【前編】


 扉の先は森のような迷宮バルバトスとは違い、円形のまるでスタンド席の無い、ドームのようなところだった。

 そんなドーム状の最深エリアの至る所には、煌びやかに輝く金銀財宝や、異様な空気を放つアイテムが山積みにされている。


「「「あああ、うう、ああ……」」」」


 そして響き渡る怨念めいた不気味な声の数々。


「し、師匠! あれを!」


 声音を震わせるムートンが指をさす。

 そこには壁に埋め込まれ、やせ細り、呻きを上げ続ける無数の人の姿があった。

 そんな醜悪な岩壁の中で唯一、艶やか肌を持ち、項垂れているラフィの姿を見つける。


「ラフィッ!」


 ケンが叫ぶと、蛇のようなもので手足を拘束されているラフィが、ゆっくりと顔を上げた。


「ケン、さん……?」

「今助けるから……ッ!?」


 飛び出そうとしたケンの前へ突然、黒と白の稲妻が落ち視界を奪う。


「「お待ちしておりましたわ、ケン様」」


 視界が戻ったケンは目の前には既に、互いに手を取り合って佇む黒と白の魔導士:アイス姉妹がいた。

 その左右には暗殺者アサシンのシャドウ、荷物係ポーターのウィンドも居て、ケン達へ殺気だった視線を送っている。


「グリモワール! てめぇら、ラフィに何するつもりだ!」

「何とは、ねぇ、オウバ?」

「勿論、他の方々と同じく命を頂くだけですよね、姉様?」


 不敵な笑みを浮かべるアイス姉妹にケンは嫌悪感を覚える。


「命を、だと?」

「ええ。先刻も、このバルバトス迷宮にお出でになった沢山の冒険者の方々からオウバを助けるために命を頂きましたわ。もしケン様、貴方がオウバへあのような仕打ちをしなければこうは成らなかったのですよ? ですからこの事態は貴方が招いたこと、うふふ……」

「何を云うか! 貴様らの所業が師匠を怒らせたのだろうが!」


 黒の魔導士シャギの言葉へ、ムートンはケンよりも早く怒りに満ちた声を上げる。


「吠えなさい、イノシシ聖騎士。貴方が吠えたところで、」

「全く怖くありませんわ」

「クッ、云わせておけば……!

「ウーッ! 酷い! 許さないッ!」


 リオンもまた怒りを露わにする。


「ふふ……リオンさんも大人しく私たちのお人形で居れば良かったものの……」

「でも安心してください。後でリオンさんも、貴方の大事な子供達もみんな一緒に姉様と私の魔力にして差し上げます。これでリオンさんと子供たちはずっと一緒。良かったですわね」

「「うふふふ……」」


 アイス姉妹の邪悪な嘲笑が最深部エリアに響き、


「へへっ……オイラ達だって、一度ぶっ殺された礼がしたいさ。なっ、シャドウ?」


 探検家風の荷物係の少年:ウィンドが聞き、


「殲滅……!」


 忍者のような装いの暗殺者:シャドウは兜の奥で赤い双眸を明滅させる。

 そんな中、宝の山の中から光り輝く一本の【弓】が浮かび上がってきた。


 羽のような意匠が施された【弓】はアイス姉妹の目前でぴたりと止まる。


「「楽に死ねると思うなよクソ野郎ども! さぁ、出でよ、四魂しこんを持つ、魔神バルバトスの化身!

フォースヘッド地獄龍ヘルワーム!」」

 

 アイス姉妹が黒と白の魔力を【弓】へ浴びせかけた。

 魔力を浴びた【弓】は紫電を浮かべ、輝きの密度を増し塵のように砕け散る。

 すると、突然、立ってはいられないほどの振動がケン達の足元を襲った。

地の底から頭の中まで響き地鳴りが聞こえ、そして最深エリアの地面が割れた。



「「「「キシャァァァッ!!!!」」」」



 ケン達を地の底から現れた巨大な地龍ワームの影が覆った。

 金色の太い胴の先が四つに分かれた巨大な化け物。

ヘルワームは全てを一瞬で飲み込む、巨大な口腔を開き、一直線にケン達へ迫る。

 がケン達は咄嗟に飛び退き、四つ首ヘルワームの突進を回避した。


爆破矢ヘルファイヤ!」


 リオンは飛び退き様、引ききった弓から、翡翠の魔力が宿った矢を放つ。

 すると、ヘルワームの頭の一つが動き出し火炎を吐いた。


「あうっ!?」


 火炎に飲み込まれた矢は、その場で爆散しリオンを吹き飛ばす。


「たぁぁぁっ! ……うわっ!?」


 果敢にもムートンは宝剣で切りかかるが、ヘルワームの胴の先端が彼女を叩き、突き飛ばす。

 だが、その隙を付いてケンは飛び上がった。


「喰らえッ!」


 腕に纏うは巨大な氷の刃。

氷属性魔法lv2で強化し、巨大化したスキルウェポン:冷鉄手刀をヘルワームの首の一つへ目掛けて叩き落す。


 直撃。

しかし全く手応えが感じられない。


 切り付けたヘルワームの体表が泥のようになって氷の刃は水を切るようにすり抜ける。


『こいつ、地属性に変化しやがった! 冷鉄手刀ブリザードカッターは効かねぇぞ!』


 アスモデウスの声が響く。

 ケンは舌打ちをして、ヘルワームと距離を置く。


「だったらこれでどうだッ!」


 ケンは一気に魔力を収束させ地面から巨大な岩の拳を召喚。

 一撃必殺のスキルウェポン:【魔神飛翔拳】を放つ。

 すると、ヘルワームの首の一つが動き土管のような口から竜巻を吐き出す。


 密度のある風は飛翔する岩の拳を押しとどめたばかりか、岩を砂に、砂を塵にまで分解した。

 唖然とするケンの目の前で、かつては巨大な岩の拳だったものが、はらはらと舞っている。



『今度は風属性……この化け物、恐らく四元素を全て扱いやがるぜ。厄介だな……』

――だったら、【スキルライブラリ サーチ】を掛けるまでだ!


「リオン、ムートン! 援護を頼む!」

「はい!」

「あうっ!」


 後ろで体勢を立て直していたリオンとムートンは応答し、ケンよりも先に飛んだ。

 次いでケンもヘルワームへ飛ぶ。


「おっと! そうはさせねぇよ!」


 リオンとムートンの前へ立ちふさがったのはポーターのウィンド。


「出てい来い、殺人蜂キラービー!」


ウィンドのバッグから次々とキラービーの群れが湧いて出て、リオンとムートンを押しとどめる。


「殲滅ッ!」

「うわっ!!」

「んっッ!?」


 突然彼女たちの脇へ暗殺者のシャドウが現れ蹴りを放った。

 リオンとムートンは悲鳴を上げる間もなく突き飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。

 そんな二人へ向けてウィンドとシャドウのコンビは迫撃を掛けようと迫る。


「リオン! ムートン! てめぇら!」

「ご自分のご心配も、」

「した方が宜しくてよ?」


 背後から殺気を感じて飛び退く。

 先ほどまでいたところに黒い稲妻が落ち、地面を穿ち、焦がす。

 だがアイス姉妹は魔力を放ったばかりで空中に浮かんだまま停滞していた。


「おらぁっ!」


 ケンは振り向きざま、アイス姉妹へ向け、

氷の刃を纏った手刀を繰り出した。


「あああっ!」


 しかし悲鳴を上げたのは、岩壁へはりつけにされているラフィの方だった。


 アイス姉妹は手をかざし、魔方陣を浮かべ、ケンの手刀を受け止めていたる。


「うふふ。わざと当たって差し上げましたわ」

「姉様の仰る通り。この力はあちらにぶら下がっている不浄の一族から頂いているもの」

「「ケン様、貴方の可愛いペットちゃんの命を魔力に変換させて応対させて頂きますわ!」」

「チィッ!」


 ケンはアイス姉妹の魔方陣から手を引き距離を置く。


「アースブレイド」


 白の魔導士オウバの宣言を受け、地面から岩の剣が無数に生え、ケンを襲う。

 すると今度はケンの脇に黒の魔導士シャギが現れた。


「死ねよぉ!」


 シャギは邪悪な笑みを浮かべつつ、魔力で形成した黒い鉤爪を構え、襲い掛かる。

 ケンの体は反射的にシャギの腕へ向けて手刀を薙いだ。


「うっ、あっ!」


 ケンの手刀はシャギの魔方陣で受け止められ、ラフィが悲痛な悲鳴を上げる。

 注意が一瞬、対峙するシャギから逸れた。


「うふ、余所見はダメですよ?」

「ぐわっ!?」


 シャギが振り上げた鉤爪に引き裂かれ、岩壁まで吹っ飛ばされる。

 そんなケンを見て、再び手取り合ったアイス姉妹は妖艶な笑みを浮かべた。


「あらら、お弱いこと。これがDRデビルレアアイテムの所持者ですか?」

「姉様の仰る通り。やはり「星廻りの指輪」持つのは私たちグリモワールを他においてありませんわ」

「「そうね! その通りよね!!  あはははっ!」」


「ケンさん! わたしのことは良いです! だから構わず戦ってください!」


 ラフィが涙を流しながら必死に叫んでいる。


「んなことできる……!?」

「「だから、余所見なんてしてんじゃねぇよ、バーカ!」」


 気が付くと、目前にアイス姉妹がいた。

 接近の気配は無く、まるで突然現れたかのような、不可思議な現象にケンは戸惑いを覚える。

そして黒と白が混ざり合った魔力の衝撃波が放たれた。

 更に吹っ飛ばされたケンは、再度最深部エリアの岩壁へ叩き付けられた。


「畜生……!」


 ケンは一旦体制を整えようと、「星廻りの指輪」へ力を注いで、【絶対不可視】の力を発動させようとする。


「ッ!? こ、これは!?」


 しかし気づいた時にはもう、ケンの体は放り投げられたように宙へ舞っていた。

目下では手を取り合ったアイス姉妹が腕をケンへ向けかざす。


「「脳味噌まで黒焦げになっちまえ! ギガサンダぁー!」」


 激しい稲妻が頭上から降り注ぎ、ケンを羽虫のように叩き落された。


「く、クソォ……なんなんだよ、一体……!」

「あら? 流石はレベル99だけはありますわね。ねぇ、オウバ?」

「そうですね姉様。なんて丈夫なお体なんでしょう。でもHPは残り僅か。これでは自慢のHPを消費して発動させるDRアイテムもただの古ぼけた指輪ですわね」

「「貴方のことはリオンさんを通じて徹底的に調べました。もはや、貴方の力など襲るるに足りません。うふふふ」」


――奴ら、これが狙いだったのか。


『兄弟! しっかりろ! おい!』

「ギャンギャンうるせなアスモ……大丈夫だってよ……」


 ケンはよろりと立ち上がる。しかしダメージが想像以上に重く、意識が判然としない。

 アイス姉妹の云う通り、今の状況でHPを消費するDRアイテムの力を使うのは危険極まりない。

 そもそも、突然目の前に現れるアイス姉妹に触れるどころか、近づくことさえできていなかった。


――立て直すしかない。


 急いでハイポーションへ手を伸ばそうとするが、指先に力が入らない。


「くっ……!」


 意図せず身体から力が抜け、膝を突いてしまう。

 そんなケンを見てアイス姉妹は邪悪な笑みを浮かべながら、揃って腕を翳す。


 シャギの持つ本が黒の輝きをオウバのロッドが白い魔力を発して、混ざり合い、渦を巻く。

 

「させませんわ。そしてこれが、」

「ケン様、貴方の終焉……」


 アイス姉妹が呼び起こした魔力は、収束し、眩い輝きを現した。


「「さぁ、これでお終いだクソ野郎! 塵一つ残さず、魂ごと因果の彼方まで消滅させてやる!

レイ・ソーラ!」」


 動く間もなく、考える間もなく、アイス姉妹から即死必死の、山をも一撃で蒸発させる、暴力的な光属性の魔法が放たれた。

 輝きは地面を抉り、膨大な熱と光を伴いつつ迫る。

 避けたい気持ちはあるが、身体が云うことを聞かない。

 ケンはただ迫る光の渦を前にして佇むしか無かった。



●●●



「ケンさん! 立って! ケンさんッ!」


 ラフィの叫びを上げても、

ケンはアイス姉妹の放った光属性の魔力の前に、茫然と佇んでいた。


――こんなの嫌だ!


 このままケンがただ光に飲み込まれるのを黙ってみてるわけには行かない。

 助けたい。救いたい。

今度は自分の番。

 今こそ、ケンへ新たに命を注いだ時と、同じ力を使う時。


――わたしがどうなろうと構わない。ケンさんを助けられるなら、それで!


【不浄の一族】


 古の時代、迷宮のモンスターと人が混じり合い生まれたと云われる種族。

人は彼女たちの異形の姿を邪悪な血脈として差別し続けた。

しかしそれは真実を隠すために、嫌悪というベールを被せただけ。

ただ人は恐れていた。

 彼女たちの本当の力を。


「うっ……わぁぁぁぁっ!!」


 ラフィは叫びをあげ、彼女の中にある、魔力を高め、爆発させた。

 人よりも多大な魔力を持ち、自由に行使する。

 それこそが【不浄の一族】が忌み嫌われた訳。

人には成せぬ人知を超えたわざ

 しかしそれは彼女自身の命を燃やす行為。

 だがラフィは躊躇わず命を燃やし、それを魔力に変え、自分の手足を拘束していた蛇を強引に引きちぎった。


――ケンさん、今行きます!


 決意の元、ラフィは飛ぶ。

最愛の人を助けるために。



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