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リオンの真実


「調子はどうだ?」

「……気持ち良い……」


 ケンの膝へ頭を預けたリオンは少し眠たげな声で答える。

 リオンに施されている呪印は強力。

自由を奪われ、存在としての尊厳を踏みにじるソレに強い嫌悪感を覚えているケンは、早くリオンを解放したいと、必死に呪印解除のスキルを施し続けていた。


 対決を終えたケン達は、リオンと彼女が守っていた孤児たちの住処である横穴の洞窟に案内されていた。


 むき出しの岩肌と、冷たい空気。

 岩壁には恐らく拾ってきただろう粗末な生活用品と寝床用のくたびれた藁が引かれているだけ。


 迷宮探索ギルド「アエーシェマン」の奴隷兵士だった頃、ケンとラフィも同じような、みじめな生活を強いられていた。

気持ちが分かる以上、できることはしたい。

そう思い、今に至る。


「さっきは思いっきり蹴り飛ばして悪かったな。痛かっただろ?」

「痛み、感じなかった。代わりに川の向こうに大尉キャプテンとみんなが見えた」

「そ、そっか……で、でぇ、その大尉キャプテンってのは誰なんだ?」

「大尉は大尉。僕のいたオーブ小隊の隊長だった人」


 呪印の影響が薄れているのか、この間よりも少しリオンが饒舌なような気がした。

だからこそこの機会に色々と聞いておこうと、ケンは思った。


「お前はどこから来たんだ?」

「……分からない。でも、ここじゃないどこか」

「そうなんだ。実は俺も、なんだ」

「ケンも?」

「ああ。俺が前に居たところは、でっけぇ建物が沢山あって、魔力やスキルじゃないもので動く機械ってのがあって、便利な道具がそこら中にあったところでな」

「機械、知ってる。僕のところもあった……でも、ほとんど壊れてばっかり」

「どういうことだ?」


 リオンは一瞬口を噤み、息を飲む。


「空はいつも真っ赤で、周りは壊れた機械ばっか、死んでる人ばっかのところ……此処いせかいよりも、もっと酷いところ……」


 リオンの言葉を聞いて、ケンは幼いころ、何度も見せられた凄惨な”戦場”の光景を思い出す。


――だからこいつ、レーションとか軍人の階級を口にしてたのか。


 リオンは自分とは違う、酷い戦争が起こっている場所から、奴隷兵士としてこの世界に転移転生しょうかんさせられたのだと理解した。


「気づいたらここに?」


 リオンはコクリと頷く。


「僕、作戦の途中だった。そして撃たれた。たくさんの弾が僕の体をハチの巣みたいにした。血がいっぱい出て、身体が寒くなって、でも僕はみんなの仇を討とうと思って立とうとして、だけど立てなくて……そしたら僕、いつの間にか暗い洞窟の中に居た」

「誰だ? お前が転移転生こっちへ来た時、近くに居た奴は?」


 ケンは確信に迫るべく聞く。


「それは……あうっ……んんっ……!」


 すると突然、リオンの顔が仄かに赤く染まり、

苦しそうな吐息を漏らしながら、太ももを擦る。

 下腹部から仄かに呪印の発動を示す、

妖艶な輝きが漏れ出していた。


「わりぃ」


 ケンは意識をスキル発動へ集中させた。

呪印解除が僅かに呪いの力を上回り、力を抑え込む。

リオンの顔から朱が抜け、呼吸が安定を始める。


「楽になったか?」

「うん……ねぇ、ケン」

「なんだ?」

「どうして僕、助ける? 僕、ケン狙った。僕は敵。なのにどうして?」

「まぁ、なんつーか、その……お前は確かに敵だけど、俺の家族にとっちゃ大事な友達だし……」

「僕を助けたのはラフィのため?」

「あーいや、別にそれだけじゃ……」

「良くわかんない……」

「ひやぁーっ!」


 ムートンの悲鳴が後ろから聞こえた。

 

「おえー! きょだいもんすたーををにがすなぁー!」

「つかまえた奴にはほうしょぅきんだすぞー!」

「私、モンスターじゃないから!」


 何故かムートンはリオンの孤児たちに追いかけ回されていた。

 孤児の男の子たちは、ムートンに懐いたようだった。


「し、師匠ー! お助けぇー!」

「がんばれー。飯の時は呼んでやっから」

「そんな……きゃっ! へ、変なところ触るなっ!」


 一方、洞窟の入り口の方では、ラフィと女の子たちが、たき火を囲んでいた。


「お姉ちゃんこう?」

「そうそう上手! 上手(うまいね」


 孤児の女の子たちはラフィに懐いて料理の仕方を習っていた。

リオンを担いでラフィに料理を習っている女の子たちのところへ連れて行く。


「リオンお姉ちゃん、大丈夫?」

「うん。大丈夫、ありがとう」


 リオンがそっと髪を撫でると孤児の女の子たちは嬉しそうに笑う。

 子供っぽく感じられていたリオンが少しお姉さんのように感じられるケンだった。


「リーちゃん、身体の方は大丈夫?」


 ラフィが優しくそう聞くと、


「大丈夫。ご飯食べたい」

「うん。丁度できたところだよ、みんなで食べようね。さぁ、みんな手伝って!」

「「「はぁーい!」」」


 リオンの子供たちは元気よく返事をして配膳を始める。


「美味しい?」

「ん! もっと!」

「はい、じゃあ、あーん」

「あーん」

「リオン姉ちゃんばっかりずるい! 僕たちも!」


 食事中、リオンは相変わらずラフィに食べさせて貰い、そんな様子をみた子供たちは口々に「ずるい! ずるい!」と云ってラフィを取り囲む。

 子供たちはみんなでラフィとリオンを取り囲みケンとムートンはすっかり蚊帳の外だった。

 しかしケンはこうしてラフィが沢山の人に愛されて彼女自身が笑っているのが嬉しくてたまらない。


――ラフィのこと、子供みたいだって思ってたけど、少し考えを改めないとな。


 ずっと後ろに付いてくるだけだったラフィが人の輪の中で中心になっている。

 それだけ彼女が大人になったのだとケンは感じる。

それは嬉しいことなのだが、同時に少し寂しいようなそんな風にケンは思うのだった。


「妬いてますか?」


 ふと、隣に座ってラフィや子供たちを眺めていたムートンが呟く。


「あ? なんだよ急に?」

「あ、あれ? 違いましたか?

「違うって、何がだよ?」

「やっぱ師匠とラフィって良くわかんない関係ですね」

「何言ってんだ、お前?」

「あははは……で、リオンちゃんのこと何か分かりましたか?」

「わかったことは、アイツが誰かの奴隷兵士ってこと位だな」

「そうですか。あんな小さな子を……許せません」


 ムートンの声にいつも以上に真剣みと静かな怒りを感じる。

流石は慈愛と公平を司る天空神:ロットシルトの聖騎士だと思った。


「兄ちゃん、勝負!」


 しかしそん少し張り詰めな空気は目の前に現れ、妙な構えを取る孤児の男の子が吹き飛ばす。


「僕も!」

「俺も!」

「みんな! ダメだって!」


 次々とケンの前に立つ子供達を止めようと、慌ててラフィが立ち上がるが、


「だってラフィ姉ちゃんが一番好きなの、この兄ちゃんなんだろ?」

「!! ちょ、ちょっと! それは!」

「じゃあ一番じゃないの?」

「あ、あっ、えっと、その……あうぅ~……」


 ラフィは顔を真っ赤に染めて涙目を向けてくる。

 間接的とはいえ、ラフィに一番と云ってもらえたことは嬉しい。

でも、このまま放置するのも良くないと思ったケンは、


「良いだろう、お前たちの勝負受けてやるぜ! だけど、簡単には勝負させねぇ。なんてたって俺はボスだからな! いきなりボスに挑むたぁ無理なことだ。だから俺の愛弟子!この聖騎士ムートンを倒せ! ムートンを倒した奴だけに、俺への挑戦権を与えてやる!」

「どぅえ!? し、師匠!?」


 急に振られたムートンが素っ頓狂な声を上げた。


「わりぃ、ちょっと気になることがあるんだ。頼むよ、お前にしか頼めねぇんだ」


 そうそっと耳打ちをすると、


「むぅ……わかりました! 師匠の頼みとあらば!」


 ムートンは立ち上がり勇ましい構えを取った。


「こ、来い! この聖騎士ムートンが、ケン殿に代わってお相手致す! さぁ、どっからでも、って! あひゃぁー!」

「でたな! きょだいもんすたー!」

「おっぱいもめー!」

「こいつ、リオン姉ちゃんよりもあるぞー!」

「わぁ! ぽよぽよで柔らかい……」

「や、やめ! ふわぁっ!」


 ムートンはすっかり子供たちに群がられ、逃げ惑う。

ケンはその間にラフィとリオンのところへ向かった。


「なぁ、リオン。この子たちは一体なんなんだ?」

「僕の家族、僕の子供」

「リーちゃんが産んだわけじゃないよね?」


 ラフィが聞くと、リオンは首を縦に振った。


「モンスター、迷宮、たくさん人死ぬ。この子達、残された子達。だから僕、みんな守る決めた」

「どうして?」

「僕、ここに来る前、みんな守れなかった。みんな死んだ、僕も死んだ……だからこっち来て、決めた。家族、仲間、もう誰も死なせない。守る。そう、決めた……」


「……」


 ラフィは静かにリオンへ手を伸ばす。

そして彼女をそっと優しく抱きしめた。


「ずっと一人で頑張ってたんだね。リーちゃん凄いね。偉いね」


「ラフィ……あう……」


 リオンもまた恥ずかしそうな、くすぐったそうな表情を浮かべつつ、ラフィの胸へ頭を預ける。

 その様子はまるで親子のような暖かさに満ち溢れている。

この暖かな雰囲気を守りたい。

 そう強く感じたケンはリオンの髪をそっと撫でた。


「安心しろ。お前も、そしてお前の家族もみんな俺が守る。必ず!」


 そしてケンはおもむろに視線を上げ洞窟の入り口を見やる。


「おい、そんなところで覗き見してんじゃねぇ。用があるならさっさと姿を見せろ!」


 洞窟の入り口付近からずっと感じられていた冷たい感覚へ向けてケンは叫ぶ。

 すると、そこに二人一組の小さな影が浮かび上がる。


「「うふふ、お気づきでしたか。流石ですね」」


 浮かび上がった黒と白の魔導士は不気味な笑みを浮かべながらそう答える。


「こんなところじゃアレだ、外で話しようぜ」

「「ええ、喜んで」」


 ケンはラフィの心配げな視線に笑顔で答えると洞窟を出てゆくのだった。


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