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お帰りなさい【ラフィEND】


 十年という長い年月が流れた。

かつて存在したグリモワールという史上最凶で最悪のパーティーが引き起こした混乱。

しかし時の流れはそんな彼らの所業を風化させ、今では遠い過去のこととなりつつある。

 そしてそんな世界に未だ彼女はいた。


「こらー! ケンイチ―! 危ないからおりてきなさぁーい!」


 森の奥深くに少し怒った様子のラフィの声が響く。

彼女は尻尾を逆立てて、木を見上げていた。


「へへーんだ! だったら昇っておいでよ、お母さん!」


 太い枝の上では黒髪に、金色の長い耳を生やした少年がいて、バカにするように声を張り上げている。

しかし慢心は危険に繋がるのであって、


「わ、わあぁーっ!?」


 少年は脚を滑らせ真っ逆さまに木の枝から落ちる。

が緑の風が彼を過り、ふわりと抱いて無事に着地した。


「ケンイチ調子に乗らない! ラフィを困らせない!」

「げっ、リ、リオンさん……!」

「反省!」

「あ痛ぁっー!」


 今では史上六番目のブラッククラスであり”大弓聖”として、世界中を忙しく飛び回っているリオンにゲンコツをくらい、少年――ケンイチ――は涙ぐむ。


「ありがとね、リーちゃん。ところでケンイチ、なんでお母さんの言うこと聞かなかったのかなぁ?」


 ラフィは満面の笑みを浮かべつつ、尻尾を怒りで逆立てた。

木の上では元気だったケンイチも、ラフィに凄まれれば一瞬で大人しくなってしまう。


「まぁまぁ、ラフィ。ケンさんの子供なんだし、男の子なんだからあれぐらい元気でないと」

「ムートンさん! たすけてぇー! お母さんとリオンさんがいじめるぅー!」


 ケンイチはリオンを振り払い、ラフィを横切って、屈み込むムートンへ飛びつく。

ケンイチを抱きとめたムートンは右腕に痛みを感じて、少し顔を歪ませた。


「だ、大丈夫?」

「ううん、大丈夫。ちょっと古傷が痛んだだけだから……それにしてもケンイチまた大きくなったね」

「へへーん、でしょ? まっ、ムートンさんのおっぱいほどじゃないけど」

「こら、ケンイチ! そういう失礼なこと言わないの!」

「あいてて!」


 ラフィはケンイチの耳を引っ張る。

流石のムートンも苦笑いを浮かべつつも、ケンイチを離さざるを得なかった。


 シャトー家は崩壊したが、今はその名を捨て”ムートン=スガワラ”として、再編されたギルドの評議長とメドック地区長を務める彼女。

相変わらずやつれているが、それでも元気そうな様子だった。



 ラフィはケンの子供を産んで森の中で静かに暮らし、ムートンは世界の運営を手助けし、リオンは猛者として世界中を飛び回っている。

 

 彼を想う気持は今でも一緒だが、様々な事情から、彼女たちがこうして集まることは滅多に無くなっていた。

だからこそ、今日、久々に集まり、これまでの十年を語らおう。

そういうことになっていた。


 かつてケンとラフィが開いた孤児たちの村。

そこにはかつて時間を共にした大勢の人たちが集まっていた。


 孤児たちもすっかり大きくなって、今やこの世界で立派な冒険者などになって働いているし、マルゴ一家で唯一生き残ったジェスはリオンの助手として忙しく世界を一緒に回っている。


「相変わらずラフィ姉ちゃんの飯はうまいなぁ!」

「ケンイチってさ、だんだんとケン兄ちゃんに似て来たね!」

「おっし、リオンの姉さん、どっちが沢山飲めるか勝負だ!」

「あう! 受けて立つ。ムーもやるよ?」

「あはは……お手柔らかに頼むよ。三十路超えてからどうもお酒がね……」


 懐かしい面々の、懐かしく開かる声の数々。

 幸せで楽しい筈なのに、ラフィはやはりどこか寂しさを感じる。


――いつ帰ってきてくれるのかなぁ、ケンさんは……


 十年前、グリモワールとの決戦の時からケンは消息不明だった。

周りは、彼は死んだのだと決めつけていたが、ラフィはそうは思えなかった。


――あの人は帰ってくる、絶対に。


 どんな時でも彼は必ず帰ってきた。

必ず、彼女の下へ戻ってきた。

 今回は少しばかり時間がかかっているだけ。それだけ。


――早く帰ってきて、ケンイチを抱きしめてあげてくださいね。貴方とわたしの世界で一つだけの大事な宝物なんだから……


「ラフィ―! お酒無くなっちゃったー!」

「あ、はい! すぐ持ってきますね!」


 ムートンの声が聞こえ、物思いにふけっていたラフィは飛び出す。

 そうしてガサゴソと蔵の中でお酒を探す。

そんなラフィの後ろで蔵の扉が開き、星明りが長い影を伸ばして彼女の背を覆った。影が伸びてきた。

 背後に”ケンイチ”のような雰囲気を感じたラフィは、


「ケンイチ? どうかし……!?」


 ふわりと懐かしい匂いが香り、尻尾が喜びで触れた。

嬉しさのあまり胸が張り裂けそうに痛かった。

 ラフィは自然と涙を流した。

そして、


「お帰りなさい。遅かったですね。お疲れ様です。さっそくどうしますか? ご飯ですか? お風呂ですか? それとも……」



おわり


お疲れさまでした。これにて本作終了です。

 ここまでたどり着いていただき、まことにありがとうございます。

 貴方がここまでたどり着いてくださらなければ本作は完結にはならなかったと思います。

心から感謝です!


 また本作では沢山活用させていただいた「きゃらふと」様へもこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

次回作でも活用いたしますので、よろしくお願いいたします。


 それでは約十か月間の連載にお付き合いいただきありがとうございました!

 次回作を発表した際は、またご覧いただければ幸いです


 たぶん次の作品は本作よりも「ライト」な作風で行くことを宣言して、結びと致します。

 ではまたお会いしましょう!


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