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黒皇の決断(*選択肢あり)


「まぁ、スキルを使った俺も実は良くわかってねぇんだ。でもなんだ、グリモワールのメンバーはみんな、”かつて失った仲間たちが転生した姿”ってことだ。俺はあくまでお前たちを再び集めただけだぜ?」


 ケンはあっけらかんと事実を口にする。

事実、それ以上の回答を彼自身も持ち合わせていなかった。


「ここ最近ね、シャギ=アイスとして生きてた私の中に他の誰かがいるような気がしたの。そして思い出したの、私は森川 智でもあるって。前世の記憶ってやつかしら?」

「じゃあシャギが俺に懐いてくれたのは、智だったから……?」


 智は静かに首を横へ振った。


「私も幹夫を愛しているわ。だけどシャギ=アイスだった私も心の底から貴方のことを愛していたわ。この世界に生まれた一人の女として、救ってくれた幹夫を愛し、尽くしたいと思った。これは嘘偽りのない真実よ」

「じゃあ、他のみんなも……?」


 幹夫が視線を漂わせると、望も、風太も、景昭も頷き返してくる。


「だ、だったら、さっさとそうだって言ってくれよぉ! なんで隠してたんだよ! みんな酷いじゃないか!」

「悪い悪い。思い出したのついさっきっでな。なぁ、シャド……じゃなくて景昭?」


 風太がそう聞くと、


「済まなかった、幹夫。俺もムートン=シャトーとの戦いの時に思い出してな。すまん」


 景昭は心底申し訳なさそうに謝罪する。


「望の最後の叫びはちょっと感動しちゃったわ。自爆までして私のことを想ってくれてたからね?」


 智は妹の望へそう云うと、彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染めた。


「だ、だって、智姉さんは大事な望の姉さんですもの。それはオウバ=アイスに生まれ変わっても変わりません! 結局、黒皇さんの奥さんの中にいる子供が障壁を張ってあの人を守りましたから、望は犬死でしたけどね」

「でも、ありがとうね、望。大好きよ」

「はい、望もですよ、姉さん!」


 森川姉妹は微笑みを交し合った。


「全くご都合主義も良いところ……つか、あんたホント無茶苦茶だぜ」


 幹夫はそう穏やかに呟いて、


「おう! 俺は最強の魔神だからな!」


 ケンはそう答えた。

 幹夫は智から離れて歩み寄り、ケンの前へ立つ。


「本当にありがとう、ございます。こんな俺に、俺達にここまでしてくれて、本当に……」


 幹夫は深々と頭を下げ、心からにじみ出るかのような御礼を口にする。

 もはや今目の前にいるのは世界を破滅させようとした魔神ではなかった。

ただ仲間を愛し、愛しい人の胸の中でワンワンと泣き腫らす一人の少年がいるだけ。


「気にすんな、好きでやっただけだ」


だからこそケンはたった一言、気持ちよく答えるだけで済ませた。


「そっか……今更、こんなこと言えた立場じゃないけど……すみませんでした、あの世界へ散々酷いことをしたのに、俺達ばっかり……」


 絞り出すように幹夫は謝罪を口にした。

他の面々も複雑な顔をして俯く。

するとケンは”ポン”と幹夫の肩を叩いた。


「確かに謝って済む問題じゃねぇな。だけどしちまったことは仕方ねぇ。だからお前等はしちまったことを反省するんだ。それが傷つけた世界へお前たちができる唯一のことだからな」

「はい……」


「暗い顔すんな。大丈夫だって! 人の世界はそこまで脆くねぇよ。きっと、辛いことはあっーという間に忘れ去られて元に戻んだから。後のことはこっちの話だ。だからお前たちは迷わず前へ進め。立ち止まらず、どこまでもまっすぐと。大事な仲間達と一緒に!」


 ケンの力強い声が響き渡る。

幹夫はようやく表情を緩めた。


「ありがとうございます、拳さん……それじゃあ、俺ら、そろそろ言われた通り前に進むわ!」


 幹夫は自分の行き先を分かっているのか、笑顔を浮かべてそう云った。


「おう。元気でな」

「あんたこそ。三人の嫁、幸せにしてやれよ」

「言われなくても!」


 幹夫が拳を突出し、ケンも応じる。

パチンと拳の音が響き渡り、幹夫は踵を返した。


「さぁ、みんな、行こうぜ! 俺たちはここからまたスタートだ!」


 先頭行く幹夫の手を、智は微笑みを浮かべ、力強く握る。


「私達、また会えるわよね?」

「勿論! 例え芋虫に生まれ変わろうと、石ころだろうと絶対に智を探し出して、今度こそ幸せにする! 約束する!」

「ありがとう……待ってるわ、幹夫」


 幹夫と智は寄り添いながら輝きの中へ歩みだす。


「お世話になりました、黒皇さん。望は絶対にまた風太君と出会って幸せになりますっ! ねっ?」


望はそう聞き、


「あ、お、おうさ! お、俺だって絶対にのぞみんをみつけて、しし、幸せにしてやるさ!」


風太は顔を真っ赤に染めて、舌をかみつつ答え、


「そんな二人の邪魔する連中が現れた時は、どんな姿になろうとオレが駆逐、破壊、殲滅する!」


景昭が力強く宣言する。


「おう、幸せにな! もう悪いことすんじゃねぇぞ!」


 ケンは祝福の言葉を贈る。


「はい! あと貴方の奥さんに酷いことをしてごめんなさい。奥さんとあなたの子供は無事なはずです。安心してください!」


 望がそう云ってケンへ頭を下げると風太も、景昭も、倣った。

そうして彼らも踵を返し、光の中を進む幹夫と智に続いてゆく。



――これが【転生術】ってやつなんだな、アスモ?

『おう。魂を解放して、転生の道を歩ませる。すげぇだろ? 俺様自慢のスキルの一つだ』


 自慢げなアスモデウスの声がケンの中に響いた。


――ああ、全くだ。

『つかよ、これって”お前の想いが導き出した状況”なんだぜ?』

――俺の?


『スキルライブラリがスキルを抽出する条件に、おめぇの気持ちが強く関わるんだ。もしおめぇが本気で幹夫の野郎をぶっ潰したいって思ってたら別のスキルが提示されてたろうよ。まぁ、連中がなんで前世の記憶を取り戻したのかは、魔神の俺様でもよく分かんねぇけどな』


 もしかすると松方 幹夫がその身を売ってまでシャトー家に尽くし、100年もの長い時間を使って実験を繰り返していた”転移転生術”が実は成功していたのではないか。失敗だと思っていたのは、実はただ時間がかかっていただけではないのか。ケンはそう考えるも、その真実を調べる術は無かった。だからこそ彼は、


――んったく、とんだチートで、ご都合主義っぷりだぜ。


 と片付けるのだった。

すると、彼の内側でアスモデウスが盛大な笑みを浮かべたような気がした。


『良いじゃねぇか、チートにご都合主義。終わりよければ全て良しだろ?』

――まぁな。

『で、こっから先はどうするんだ?』


 アスモデウスの声に突き動かされ、再び幹夫たちグリモワールの背中に視線を移す。

 彼らの背中には悲しみも、憂いもない。


 しかし彼が犯した罪が消えることは無い。

世界を破壊しようとした行為。世界へ激しく怒り、憎んだ感情。

そして前世の記憶が残っていて、再会を遂げたグリモワール。

そんな彼等なのだから、そうした負の感情は再び転生したとしても残り続ける可能性はある。

幹夫達はまた足を踏み外し、邪悪の道へ進んでしまうかもしれない。


 もしケンが幹夫達グリモワールを完全に消滅させていれば、こんなことは考えずに済んだ。

元通りのラフィ、ムートン、リオンとの穏やかな生活に戻れば良いだけだった。

しかし倒すために松方幹夫の記憶に触れ、ケンはこの結末を選択した。


――これも俺の選択。情けかけちまったんだ。最後まで面倒見ないとな……


 ケンもまた幹夫たちに気づかれないよう、白の世界で一歩を踏み出す。

それは長い旅路の始まり。

 助けた少年少女たちのこれからの道を見守り、完全に邪悪から解き放つための彼なりのけじめ。


――みんな、ちょっとだけ待っててくれ。いつか必ず帰るからよ……行くぜ、アスモ!


 ケンは最強の魔神の証である”星廻りの指輪”に宿る相棒へ心の中で叫んだ。


『おうよ! 暫くは俺様と二人っきりの時空の旅を楽しもうぜ!』

――気持ち悪いこと云うなよ

『まぁまぁ! そういうなって! さぁ、出発しようぜ!』

――ああっ!


 ケンもまた光の中を歩みだす。

もう二度と松方幹夫という少年とその仲間たちが、人の道を踏み外さないよう 彼らを助けるために。

時空の果てへ、どこまでも。


 それが黒皇ブラックキングとして最強の座についたケンの決断だった。



■分岐■



 お好みのエンディングへお進みください。全て読んでも支障はありません。


・エンディング:お帰りなさい(第126部分・ラフィEND)


・エンディング:お帰りなさい(第127部分・ムートンEND)


・エンディング:お帰りなさい(第128部分・リオンEND)


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