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終局 グリモワール


多段矢ハイドラぁ!」


 緑以外の生命が存在しない空間にリオンの叫びが響いた。

蒼天に放たれた翡翠の矢は分裂し、無数の矢の雨となって降り注ぐ。

それは正確に蠢く蔦を、ミキオの幻影を打ち抜き、その場へ釘づける。


「右腕が使えなくたって! はぁぁぁぁっ!」


 ムートンは魔剣「シュナイド」を左手で握りしめ、真っ赤に燃える刀身でミキオの幻影を滅却する。

 足元から湧いて出た炎ノ矢は蔦の刃を撃ち落とし、爆炎に包みこむ。

そして真っ赤な爆炎の中を、金色の輝きを放つラフィが突き進む。


「はいぃっ!」


 黄金の脚から繰り出される鋭い蹴りは、衝撃波を生み出し、ミキオの幻影と蔦をまとめて切り崩した。


『死ね! 死ね! 死ねえぇぇぇ!』


 ミキオがどんなに蔦で攻撃を仕掛けても、幻影を生み出し当たらせても、黒皇ブラックキングを心から愛する三人の女は前へと進んでくる。


――完全にミキオの注意はラフィ達に向いている! 今がチャンス!


「ケン、今!」


 リオンが叫び、


「行ってください! ケンさん!」


 ムートンの声が響き渡った。


「ケンさん、決着を! ミキオさんを!」


 ラフィの願いがケンの胸を打った。


 ケンは爆炎に紛れて、姿は愚か気配さえも完全に遮断する【絶対不可視】の力を発動させた。

 蔦を掻い潜り、ミキオの幻影を信頼するラフィ達に任せ、彼は緑の楽園を縫うように駆け抜ける。

 激昂するミキオの上半身が浮かぶ大樹の根元に達したケンは膝へ力を込めた。

 全ての力を跳躍と、DRアイテム【星廻りの指輪】に託す。


――行くぜ、アスモデウス!

『おっし、これで御終いにしようぜ、兄弟!」


 そして彼は飛んだ。

矢のように飛び目指すは、怒り狂う哀れで孤独な白閃光ホワイトグリント


「よぉ、ミキオ」

『――ッ!?』


 絶対不可視を解除して姿を現したケンに、ミキオは目を見開いて驚く。

蔦を呼び寄せようと腕を掲げるがもう遅い。

 星廻りの指輪がはまる手は、既にミキオの胸に触れていた。


「スキルライブラリ、サーチッ!」


 指輪が妖艶な赤紫の輝きを帯び、一気に噴き出す。

それはミキオの中へ流れ込み、情報を浚って、ケンへと還元される。


 以前感じた彼の莫大な情報。幻影の分だけ存在すると言う記憶の奔流。

 まるで激流の中へ叩き落とされたかのような感覚を得る。

少しでも気を許してしまえば、菅原 拳という存在はその情報の波に飲まれ消えてしまう。


 胸が苦しく、頭に激痛が走る。


 だがそれでもケンは情報を読み続けたのは、世界のためもあったが、垣間見えた松方 幹夫という、一人の少年が体験させられた二百年の記憶に触れたからだった。


 地獄の中を必死に生き抜いた彼。

 全てを奪われ絶望した哀れな存在。

例え、最強と称えられようと、敵なしであろうと満たされることの無い愛への渇望。

そして再び手にした幸せと大事に想う仲間たち。


――そっか、これがミキオってやつなのか。こいつも俺と同じ、大事な人のために戦ってただけなんだ……


 何も自分と変わらないと思った。

ただほんの少し状況が違っただけだと思った。

倒したい、という気持が収まり、代わりに湧いた答え。

それは――



●スキル提示


【魔神化】【転生術】



――すげぇな、スキルライブラリって。なんでもあるんだな。


 情報の渦から舞い戻ったケンは、静かに地面へ降り立つ。

そして唖然とするミキオを見上げ、


「今楽にしてやる。松方 幹夫ぉっ!」


【魔神化】――文字通り、DRアイテムの全ての力を解放し、自らが魔神になる術。


 星廻りの指輪から発せられた赤紫の魔力がケンを包みこむ。

それは結び、膨らみ、再び結ばれ膨らむを繰り返し――そして、ミキオの大樹とほぼ同じ大きさの巨人が顕現していた。


 筋骨隆々な緋色の肌。

天高くつきたてられた禍々しい頭部の角。

言い表すならば、それは鬼。

 全ての恐怖の対象であり、強大の証であるデーモン

それこそ、魔神アスモデウスの真の姿。


 そしてアスモデウスと化したケンは、その名が含む意味に従って、木々をなぎ倒し、ミキオの大樹へ歩み寄る。


『く、来るな! 来るなぁぁぁ!』


 ミキオが蔦の刃を呼び出し、ケンへ差し向ける。

しかしケンは氷の刃と化している鋭い爪で全てを切り裂く。

 蔦は切り裂かれたばかりか、傷口から凍結し、根元からばらばらと崩れ去る。

凍てつく強大な力は緑の生命力さえ破壊し、無へ帰す。


 次いでミキオの幻影が降り注いでくるも、既に発生させた針のミサイルで打ち落とし無力化していた。

ケンの周囲から無限に沸いて出る”針のミサイル”は、ちっぽけなミキオの幻影を爆散させ続ける。



 破壊の化身――アスモデウスという名に含まれている意味。

かつて魔神達を封じようとした王へ唯一反逆した大魔神。

七つの一角である魔神は緑の大地を震撼させつつ進む。



 確かにミキオの攻撃は無尽蔵だった。

だが、アスモデウスは更に尽きることの無い力で全てを破壊し、突き進む。

無数のミキオを焼き払い、豊穣の大地を割り、ただまっすぐとミキオへ向かう。


『こ、この化け物が!』


 大樹に白く巨大な花が咲き、そこから激しい光の渦が放たれる。

 ケンも同じく、口から光の渦を吐きだした。


 二つの光の渦がぶつかり合い、豊穣の大地が眩い輝きに包まれる。

膨大な二つの熱と光は対消滅をして、周囲を一瞬真っ白に染め上げる。

爆風が大樹を揺らし、バエル最深層を激しく震撼させる。


『くっ……!』


 さすがのミキオも衝撃に耐えかね、怯み、眉を潜める。

だが、魔神と化したケンは微塵も揺らぎはしなかった。

 大樹の中のミキオへ狙いを定め、拳を強く握りしめる。


大岩のように巨大な拳がギリっと締まり、そこへケンは”最後のスキル”の力を付与した。



――これで終わりだ、グリモワール……松方 幹夫!


「ガアァァァァァァ!」

『ひ、ひぃ――……!』


 スキルが込められた拳は、防御のために湧いた蔦を引き千切った。

ケンの拳は緑の壁を突き破り、ミキオの上半身へ迫る。


「ガハッ! ぐ……あああ――――ッ!」


 ケンの拳に押しつぶされ、血反吐を吐き、ミキオは獣のような咆哮を上げた。

そんな彼をケンの拳から沸いた赤紫の輝きが包みこんでゆく。

 満身創痍のミキオ=マツカタは赤紫の魔力に飲み込まれ、その姿を消して行く。


 しかし消え始めたのはミキオだけでは無かった。


 バエルの最深部が、白蜘蛛が、ケンの放った拳で満たされ、溶けて行く。

緑のみの世界が、赤紫の妖艶な輝きに包まれ、その存在を消して行く。


 その中心にいるケンはラフィ達の後退を確認しつつ、また別の気配を探っていた。

バエル内部の荒野、そしてバエルの降り立った赤く染まった永久凍土の大地。


 それらの場所から魂の痕跡を探り続ける。

 そしてケンはこの世界の果てに漂う「四つの魂の痕跡」を発見する。


 ミキオを加えれば全部で五つ。


そうして見つけた五つの魂に対して【転生術】のスキルをかけるのだった。


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