表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/128

ラストバトル ラフィvsアイス姉妹(*ラフィ視点)


「死ねぇ! スト―ムスネェークッ!」


 荒野のような一位迷宮バエルの内部に、オウバ=アイスの獣のような叫びが響き渡る。

彼女が発した白い魔力は激しい竜巻となって水平に放たれた。

それは”風の大蛇”となって砂塵を巻き上げながらラフィへ迫る。


「ッ!」


 竜巻の軌道を既に見切っていたラフィはひらりと横へかわす。

すると白い竜巻はまるで生き物のように曲がり、ラフィを追跡する。


 竜巻はラフィを追いながら荒野へ砂塵を巻き上げ、空気をかき乱す。

砂塵の影響で、まるで霧の中に居るように視界が悪化する

 その中でラフィは不気味な笑みを浮かべ、手にした本型のDRアイテムに魔力を漲らせるシャギの姿を見た。


「腹の中のガキごとふっとべぇ! ギガフレイム!」

「――ッ! きゃっ!?」


 シャギから真っ黒な炎が飛び出た途端”ボンッ!”と大きな爆発が起こった。

 シャギの火炎がオウバの風を受け、更に粒子の細かい砂塵へ引火した結果だった。


 その衝撃はラフィを地面から弾き飛ばし、黒い火炎が彼女を包みこむ。

しかしすぐに魔力を解放し、炎を吹き飛ばした。

 同時にあらかじめ自身へかけておいた”自動回復オートヒール”の魔法が発動した。

それは火傷を負った皮膚を元に戻し、衝撃で罅の入ったあばら骨をすぐに繋ぎ治す。


――わたしは幾ら傷を負ったって構わない。だけど……!


 まだ生命の種が発芽したばかりの子供に、回復魔法をかけるのは危険であった。

 回復とは備わっている体の治癒力を瞬間的に向上させるもの。

 生命として発展段階のお腹の子供にそれは、自然の摂理に反して成長を促進させてしまうこと。

それがどんな結果を招くかはラフィ自身も未知のことであった。


「アースブレイド!」


 オウバの叫びよりもやや早く、ラフィは後ろへ飛んだ。

 不毛の大地が震撼し、高く太く先端の鋭い岩の剣が、ラフィを両断しようと次々と隆起を始める。


――離れてちゃダメ! 一気に決めてやる!


 そう決意したラフィは、足元に岩の剣の感覚を得つつ、身体を前に飛ばした。

岩の剣はラフィのふさふさした尻尾の近くに隆起する。

金色の毛が数本散り、紙一重の回避だった。

しかし彼女は構わず前へと飛び続ける。


「ええい、ちょこまかと! ギガサンダー!」


 今度は上空のシャギが黒い稲妻が降らせた。


 岩の剣を回避し、できた道にラフィは否応なしに誘い込まれる。

そこへシャギは狙いを定めて黒い稲妻を落とし続ける。


 見事で息のあった姉妹の連携。

もはや目で観切って避けるのは無謀であった。

だからこそラフィはかつて迷宮で磨いた”勘”に身を委ねることにした。


 長耳に響く僅かな音。肌で感じる空気の震え。

そうした変化を敏感に感じ取り、あとは体の動くまま。


飛んで、走って、避けて、砕いて。


 かつての彼女ならば、きっと全ての岩の剣を砕いて直進し、黒い稲妻を真正面から受け止めて、接近していた。

身体の傷を無理やり回復魔法で治して一直線に突き進んでいた筈。


しかし今やラフィの身体は、彼女だけのものではない。


 不要なダメージはお腹の子供に悪影響を及ぼす。

まだ発達段階の命が宿る体に、過剰な回復魔法をかけるわけには行かない。


 お腹に宿った新たな命。愛する男との未来への希望。


だからこそラフィは飛んで、走って、避けて、砕いて、突き進む。

身体のダメージを気にし、極力回復魔法を使わないよう、慎重に。


 かつて傷を負うことを厭わなかった「格上殺し」の姿はそこには無かった。

今ここに存在するのは未来への希望を守る一人の強い「母親」


 すると突然、ラフィの頭上を荘厳な白色の輝きが照らし出す。


「「消えてなくなれ! レイ・ソーラ!」」


 獣のように叫ぶアイス姉妹から、全てを焼き尽くす脅威の光属性魔法が放たれた。

輝きは空気を焼き、ラフィをお腹の子供共々滅却しようと迫ってきている。


――グレモリー、力を!

【良かろう。魅せよ、貴様の愛を!】


 ケンを想い、そして――これから生まれて来る子供への深い愛情。


 その強い想いとラフィ自身の魔力が融合し、彼女の手に金色の杖が握られた。

56位魔神グレモリーが宿るDRアイテム「愛憎の杖」

 ラフィは杖を握りしめ、迫る光属性の渦に相対した。


「――ッ! はいぃーっ!」


 気合を込めた掛け声と共に上段から、杖を振り落とす。

光の渦は真っ二つに両断された。

その先にいるアイス姉妹は、揃って驚愕のためか目を見開いている。


 ラフィは迷うことなく杖を地面へ突き立て、膝へ力を籠めた。

 杖を軸にラフィは高く舞い上がる。鮮やかな放物線を描きながら一気にアイス姉妹との距離を詰め、上を取る。

見上げるアイス姉妹を目下に収める。

そして杖に込めた魔力を一気に解放した。


「てやぁぁぁーっ!」


 遠慮が一切ない魔力の籠った杖のフルスイング。


 横に薙いだ杖は的確にアイス姉妹を殴打した。

姉妹は悲鳴を上げる間もなく地面へ叩き落された。

砂塵が巻き上がり、姉妹の姿が砂煙の中に消える。

だがラフィは迷うことなく、背中で魔力を爆ぜさせ加速し、足を突き出して急降下を仕掛けた。


「かはっ!?」


 ラフィのつま先が、地面に叩きつけられたオウバの腹を鋭く穿つ。


「死ねぇぇぇ!」


 脇から魔力で形作った黒い爪を装備したシャギが飛び出してくる。

しかしラフィは、首だけを少し動かして避けて見せた。


「はいぃっ!」

「あぐっ!?」


 神速の回し蹴りを繰り出し、シャギを砂煙から叩きだす。

更に素早く杖を掲げた。


「気配を殺せてなかったね。そんなんじゃいくら背後を狙ってもダメだよ?」


 ラフィの杖に魔力で形作った鉄球を受け止められたオウバは悔しそうに舌打ちする。

ラフィは鉄球の鎖を掴み思い切り引っ張り、オウバを引き寄せる。


「がはっ!!」


 そして顔面へ鋭く裏拳を叩きこんだ。

オウバは白目を向いて、その場に崩れて行く。

 ラフィは止めの一撃を叩きこもうと膝に力を込めたが――だが、しかし上空からの危険を察知して、その力を後方へ飛び退くのに使った。


 黒い稲妻が降り注ぎ、ボロボロのシャギが姿を現し、慌てた様子でオウバを抱きしめる。


「しっかりなさい、オウバ!」

「うっ……ね、姉さん、いつもすみません……」


 満身創痍のシャギ。すると彼女は眉を潜め、オウバを覗き込む。


「オウバ、覚悟は良いわね?」


 静かだが凄みのあるシャギの声。

オウバは力強く頷き返し、


「はい、姉さん。もとよりオウバも同じ気持ちです。覚悟はできております!」


 シャギとオウバは互いに手を取り合い、不毛の大地を踏みしめる。

 ラフィに嫌な予感が去来し、鳥肌が浮かぶ。 


そしてアイス姉妹がそれぞれ所持するDRアイテムから、緩やかな波のように魔力があふれ出た。


 流れは穏やかだが、邪悪で強大なその力の雰囲気にラフィの尻尾は逆立つ。

アイス姉妹から発せられる異様なプレッシャーの前に、身動きが取れなくなった。

そして姉妹は揃ってアイテムを頭上へ放り投げた。


「見せてあげるわ!」


 シャギの黒い爪が本型のDRアイテム「悪魔軍教典デモンズバイブル」を引き裂き、


「オウバ達の覚悟と力を!」


 オウバの鉄球がDRアイテム「崩壊塔棒バベルロッド」を粉々に砕く。


 そして破壊されたDRアイテムから漆黒と純白の輝きがあふれ出て、世界から色を奪った。


「「この命に代えてもてめぇをここでぶっ殺す! ミキオの邪魔はさせねぇぞぉぉぉっ!」」


 一面白色の世界。

 その中にラフィは見た。

 禍々しく変貌する双子姉妹の姿を。


 やがて世界が輪郭を取り戻し、色づき始める。

ラフィは真正面から強大な気配を感じて更に後ろへ飛ぶ。


 彼女の目下を”黒い爪を生やした、龍の首のように長い腕”が過っていた。

すると、今度は脇から別の気配を感じる。


 ラフィは遮二無二、手に握る金色の杖を鋭く掲げる。

 杖は白色の巨大で鋭利な”蟹の爪”に挟まれていた。


「うふふ、この爪は物理攻撃だけではなくてよ?」


 蟹の爪の間に素早く白色の魔力が収束し、それは線状になって放たれた。

 危険を察知したラフィは杖から手を離す。

 頭上では線状の光が杖を粉々に撃ち抜いていた。


「姉さん、今です!」


 オウバの声が響き、ラフィは慌てて踵を返す。

そこに居たのは禍々しい変貌を遂げた、シャギ=アイス。


 シャギの腕は黒一色に染まり、彼女の身の丈よりも遥かに長く伸びていた。

その先端にある禍々しい爪は地面へ深く食い込んでいる。

背中にも黒一色の翼が生え、雄々しく広げられている。


 当に漆黒の悪魔であった。人を捨てた、人の成れの果てといっても過言ではなかった。

そんな異様な変貌を遂げていたシャギは双眸を真っ赤に輝かせる。


「消えて居なくなれ! ギガソニック!」


 シャギの咆哮のような声が響く。

彼女の口から、存在感のある胸の双丘から、三つの黒い稲妻が押し出された。

三つの渦はすぐに重なり合い、一つの激流となって地面を砕きながらラフィへ迫る。


――避けきれない!?


 ラフィは慌ててポケットから魔力障壁の術を封じた青い魔石を取り出し、迫る渦へ向けて放り投げた。魔石が爆ぜ、蒼い盾のような形作られた。

それは黒い強大な渦とぶつかり合い、紫電を浮かべながら、押しとどめる。

だが、それもほんのわずかの間のこと。


 障壁はあっという間に砕かれ、激しい衝撃がラフィに襲い掛かる。

直撃は避けられたものの、彼女は腹を必死に庇いながら、無様に地面の上を転がる。


「ッ!?」


 息つく暇も無く、ラフィは体を転がし、頭上から穿たれた白い蟹の爪をかわす。そして飛び起き、もう一人の”人を捨てた存在”を前にした。


 背中から白色に輝く巨大な二本の”蟹の爪”を生やしたオウバ=アイス。

 青い瞳は色味を増していて、不気味な輝きを発していた。


「死ねぇ! 小娘ぇ!」


 オウバが吠え、白い爪が迫る。

 ラフィはそれを飛び退き、紙一重でかわす。

しかし次の瞬間にはもう一方の蟹の爪が迫っていた。


「はいぃっ!」


 ラフィは接近する蟹爪へ、全力を込めたハイキックを放った。

ジンと骨が軋み、思わず顔をしかめる。

確かに爪は受け止められた。しかし砕けない。

オウバの蟹爪は想像以上に硬く、まるで鋼のような、それ以上だった。


「きゃっ!?」


 もう一方の蟹爪の間から白い魔力を線状に速射され、ラフィのわき腹を打ち抜き、焦がす。

 危険と判断したラフィは脇腹を押さえつつ、再び後退した。


――なんなのこれ!? グレモリー、分かる!?


思わずラフィは体に宿るグレモリーへ問うた。


『以前、余が貴様にしたのと同じ。いや、これは逆だな』

――逆?

『余は貴様を取り込んだが、アイス姉妹はDRアイテムに宿る魔神を自ら吸収したのだ。並みの人間には成せぬ業よ。誠、恐ろしい姉妹だな、彼女達は』


 つまり今のラフィは人のアイス姉妹ではなく、強大な力を持つ”二体の魔神”となったアイス姉妹の相手をせざるを得なくなっていた。

 絶望的な戦力差に、ラフィの気持ちが一瞬折れかける。

 だが自分の敗北は世界の終わりを、なによりもお腹にいる子供の未来を潰すことに他ならない。


――それだけは嫌! 絶対に!


 ラフィは弱気を押し潰し、気持ちを強く立て直す。


「あはは! 良いわ! 良いわよ! 踊りなさい! 踊り狂いなさい! きゃははは!」


 オウバは狂ったように笑いこけながら、爪で地面を穿ち、線状の魔力で執拗にラフィを狙う。


――ダメだ、距離を詰められない!


 爪のリーチは異様に長い。

例え一方の爪の物理攻撃を凌いだとしても、線状の魔力が迫撃を仕掛けて来る。


 接近すればラフィの独壇場にはなる。

だがリーチ差は歴然としている。


――どうしよう。どうしたら……


 高く飛びあがり、オウバの爪を回避する。

 別のプレッシャーが頭上を抑え込んで来た。


「あはは! 隙だらけよ、小娘ぇ!」


 遥か頭上に黒い翼を使って滞空しているシャギは長い腕を鞭のように振り落とす。

ラフィはまるで羽虫のように地面へ叩き落された。


「あ、ううっ……くっ……!」


 落下の衝撃で痺れる体に鞭を打ってラフィは、地面に深く刻まれたクレーターの中で立ち上がる。


「さぁ、お終いにしましょう姉さん」


 背後から巨大な蟹の爪を生やしたオウバが歩み寄り、


「そうね。この小娘の首と挽肉ミンチにしたお腹の子供を黒皇に見せつけて、彼を絶望させてあげましょう」


 上空のシャギは邪悪な笑みを湛えて、ラフィを見下ろす。


 鬼気迫るアイス姉妹。人を捨て魔神と化した存在。

禍々しく、邪悪な、破壊の権化――だが、そんな彼女達から、ラフィは自分と良く似た感覚を得た。


 冷たく、暗い魔神の力の中でも燦然と輝き、そして支えとなっている想い。



【全ては愛する彼のため。”死をも恐れず一人の男を愛する”気持ち】



 命を賭してでも尽くしたいという純な想い。それは理解できた。共感もできた。

しかし彼女はここで負けるわけには行かなかった。


――お腹の子供のためにも。この子が暮らす世界のためにも!


 ラフィは静かに立ち上がる。

そして強く腕を突き出した。


「グレモリー、悪いけど貴方の全部をわたしによこして!」


 ラフィはDRアイテムである杖を召喚し、そして強く握りしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ