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未成年の主張(*リオン視点)


「ぶっとべぇ! 糞ガキがぁっ!」


 小脇に抱えた次元背嚢ディメンションザックからビー玉程の大きさの魔石爆弾を取り出したウィンドは、それを無造作に投げ放つ。


 小さな爆弾が永久凍土に落ちた途端、その大きさからは想像できない程の、激しい光と熱が周囲を席巻する。辺りはあっという間に爆音と、水蒸気に包まれる。

だがそんな方向感覚を失ってもおかしくは無い状況で、その中を華麗に突き進む小さな影が一つ。


 リオンは自慢の良く聞こえる耳と、良く見える目を駆使して、爆発の間を縫って駆け抜ける。確実にウィンドへ迫りつつ、八位魔神バルバトスの宿る「反逆の弓」へ矢を番える。

そして水蒸気から飛び出し、高く飛んだ。


「なっ――!? マジかよ!?」


 驚愕するウィンドの頭上を過り、弦を引き切り背後を取る。

番えた矢が眩い翡翠の輝きを帯びた。


「消える、ウィンド! 爆発矢ヘルファイヤ!」


 燃えるような翡翠の輝きを帯びた矢が、鋭くウィンドの背中を狙う。

するとウィンドは口元に笑みを浮かべた。


「なーんちゃって。出ろぉ! 鉄巨人アーマージャイアントぉーっ!」


 次元背嚢の蓋が独りでに開き、そこからバッグの容積を全く無視した”巨大な鋼鉄の腕”が現われた。腕はリオンの放った翡翠の矢を掴み、握りつぶす。

”ボンッ!”と爆発が起こるも、腕には傷一つ見受けられず、僅かに蒸気を上げるのみ。

腕は地面を掴みそして、


「マッシッ!」


 見上げるほど巨大な鉄のゴーレムが現われ、リオンへ黒々とした影を落とす。

 ウィンドは鉄巨人の肩へと飛び乗った。


れ! 鉄巨人! 糞ガキを捻りつぶせぇ!」

「マッシッ!」


 鉄巨人の拳が氷の大地を穿ち、寸でのところでリオンは飛び退く。

そんなリオンの目に上から降り注いでくる、数えきれない程の魔石爆弾が映る。

その一つがリオンの肘に僅かに当たった。

瞬間、リオンの視界は魔石爆弾の放った眩しい閃光で白一色に染まる。


「あうっ!?」


 一つ爆ぜれば、二つ、三つ、四つ――連鎖して爆発した爆弾の炎と衝撃が、一斉にリオンへ襲い掛かる。リオンは無我夢中であらゆる力を解放して、氷を蹴って、後ろへ飛んだ。


 DRアイテム由来の「魔力ブースト」、そして一時的に身体能力を向上させる「獣化」

その重ね掛けは爆弾の衝撃が到達するよりも早く、リオンに回避行動を取らせていた。


 安全圏まで一旦下がったリオンは、再び地を蹴った。

素早く弦を引ききり、鉄巨人を飛び越え背後を取る。

そして再び矢を巨大な鋼の背中へ向けて放った。


 しかし矢は次元背嚢から別の鉄の腕が現われ、矢を握りつぶされた。新たな鉄巨人の召喚に着地したリオンが身構える。

だが次元背嚢から新たな鉄巨人が現われる様子は無かった。


――こいつ、きっとこのおっきいの一体しか呼び出せない。でも、あのDRアイテムの中にはいろんなものがたくさん入っている。だったら!


 リオンは瞬時に、これからすべきことを順を追って頭の中で組み立てた。


 先日、村でのザンゲツデーモンの戦いの時、リオンは感情が先走りケンに迷惑をかけた。子供な自分の愚かさを反省した。だからこそ彼女は、今度はその逆で行こうと心に決めていた。


 それは全て、愛するケンに相応しい女性となるため。

 優しいラフィや賢いムートンと肩を並べられる、もう一人の彼の妻としての自覚。


 リオンは緊張感を漂わせたまま氷の大地を踏みしめた。

そしてゆっくりと振り返ってきた鉄巨人の肩に乗るウィンドを睨みつけた。


「お前、なんで世界壊す! 世界壊せば、孤児沢山出る! なんでそれ分からない!? そんなお前こそ、糞ガキッ!」


 リオンはわざと大声で、煽るように主張した。


「こんのぉ……てめぇの方が糞ガキだぁ!」


 ウィンドは顔を真っ赤に染めて叫び、腕を振り落とす。

鉄巨人はその動きに従って、リオンへ鋼の腕を振り落とした。


「あうっ!?」


 ひらりと避けたが、予想外に鉄巨人の拳の圧力が強く、体重の軽いリオンは紙切れのように吹き飛ばされた。

 バランスを崩して氷の上へ、球のように跳ねて転がる。


「おい、どうした糞ガキ? 煽った割になさけねぇな、おい」

「こ、こんなの序の口……アイス姉妹にされてたことより、苦しくない!」


 リオンは痛みに耐えて、そして再び立ち上がった。


「世界を壊して、孤児をたくさん出そうとするグリモワール、許さない! お前はここで僕が倒す!」

「るぅーせぇなぁ! 例え世界が今のまんまでも孤児は生まれるし、減りもしない。だからオイラが審査してやってるのさ!」

「審査?」


 再び鉄巨人の巨大な足がリオンへ影を落とす。

今度こそリオンは風圧さえも予測に入れて、後ろへ飛び退いた。


回避成功。


しかし鉄巨人は新たに拳をリオンへ向けて来る。

 リオンは鉄巨人の物理攻撃と、その風圧に全神経を集中させて、回避に専念した。


「おうさ! 孤児として生き残り、ブラッククラスにまでなったオイラがこれからの世界で生きてく価値があるかどうか審査してやんだよ! この世界の連中、全てをなぁ!」


 ウィンドは目を血走らせながら、夢中で主張する。


「それ傲慢!」


 リオンはぴしゃりと切り捨てた。

するとまるでウィンドの怒りを表したかのように、鉄巨人はひと際重い拳を放った。

鈍重な拳は永久凍土に亀裂を発生させる。

だがあまりに衝撃が強かったためか、一瞬硬直した。


――今!


 リオンは一気に飛び、凍土に穿たれた鉄巨人の腕の上へ降り立つ。

一気に駆け上がり、腰に装備したショートソードを逆手に握りしめ、迷わずウィンドへ抜き放った。しかしリオンの斬撃は、ウィンドが次元背嚢から取り出した”マシェットナイフ”によって受け止められた。


「お前自分が不幸だったから何をしても良いと思ってる。その考え餓鬼!」


 刃の向こうにいる愚かな少年へ、リオンは言葉をぶつけた。


「るぅせぇ!」

「あう!?」


 すると次元背嚢から鞭のようにしなる触手が飛び出してきてがリオンのショートソードを弾いた。

 身体がよろめくも、辛くもバランスを取り戻し、リオンは再び構える。


「てめぇに何が分かるってんだ! オイラはずっとこの世界に蔑まれてきたんだ。殴られ、蹴られ、奪われ!」

「それ、僕も一緒!」


 リオンの声の圧力にウィンドは言葉を詰まらせる。


「一緒じゃねぇ!!」


 何本もの触手がリオンへ襲い掛かる。

しかし彼女は、その動きを冷静に観察して、ショートソードで的確に弾き続けた。


「僕、ここに来る前、ずっと戦ってた! 優しくしてくれた大事な家族いた! でも守れなかった。僕も全部無くした! だけど!」


 全ての触手を切り裂き、リオンは自らの獣の血を蘇らせる。

爪と牙が伸び、獣と化したリオンはウィンドへ飛びかかった。


「不幸に胡坐かいたことない! だって決めた! もう無くさない! 離さないって! みんな守る! 大事な全てを! 悲しむのはもう僕だけで十分だから!」

「ぐわっ!?」


 リオンはウィンドもろとも、鉄巨人の肩から飛び降りた。


「うるせぇなぁ! ガキの癖に生意気なこと言ってんじゃねぇ!」

「あぐっ!?」


 ウィンドの拳がリオンの腹を激しく穿つ。

 リオンは放物線を描いて吹っ飛び、氷の大地へ叩きつけられる。


「かはっ、げほっ、ごほっ……、あう……!」


 迫撃を予想して、リオンはむせび込みながら立ち上がる。

しかし目前のウィンドは目を血走らせ、肩を震わせて佇んでいるだけだった。


「オイラには世界を自由にする権利があるんだ……はは、そうなんだよ……! こんな糞見てぇな世界に呼び出されて、何もかもを奪われて……転生したからって、それでも……だから良いんだよ、オイラは、オイラ達は特別なんだよ。そうなんだよ! そしてオイラはまたのぞみんと……!」


 ウィンドはブツブツと呪詛のようにそう主張しながら、次元背嚢ディメンションザックをリオンへ向ける。


――良かった、感情的になってくれて。


 もし先ほどの場面でウィンドが主張をせずにリオンに攻撃をしていたら危なかったと思った。感情よりもリオンの殺害を優先して、冷静に攻撃を仕掛けられていたら絶対に回避は不可能だった。


「理想ばっかり叫ぶてめぇはうぜぇんだよ! てめぇをこの次元背嚢ディメンションザックに封印して、オイラのコレクションにしてやるぜぇ!」


 ウィンドの感情が爆発し、叫びとなって氷の大地に響く。

 リオンはニヤリを笑みを浮かべた。


――この瞬間、待ってた!


 リオンは密かにため込んでいた魔力を解放し、素早く弓を引く。

瞬時に鏃へ膨大な力が集まり、氷の大地を明るく照らす。


「なっ――!?」


たじろぐウィンドをリオンは翡翠の輝きの中で憐れむように睨んだ。


「どんな境遇でも、世界を壊す、人を不幸にする、ダメ絶対!」

「――ッ!?」

「もう、お前負け。お前の餓鬼な主張はうんざり。これで終わり……必滅アパッチ長弓射ロングボウゥッ!」


 全ての力を込めた、荘厳な翡翠の矢が放たれた。

それは音を、光を超えてまっすぐと突き進み、開け放たれた次元背嚢の中へ吸い込まれる。


 アイテムは愚かモンスターさえも無限に格納し、瞬時に呼び出せるDRアイテム次元背嚢ディメンションザック

 その中には数多のアイテム、モンスター、更にウィンドが作成した数えきれない程の魔石爆弾が格納されていた。

 

 次元背嚢の中で翡翠の矢が爆ぜ、輝きを放つ。

その輝きはアイテムを、モンスターを、そして魔石爆弾を飲み込こんだ。

 ウィンドが小脇に抱えている次元背嚢が、風船のように膨らみ、そして、


「のぞみん! か、景昭ーっ!」


 次元背嚢と共にウィンドは翡翠の輝きの飲まれ、爆散した。


「やった……勝ったよ、ケン……! だから、ラフィやムーみたいに、僕とも、あーとか……うーとか……する……」


そして全ての力を使い果たしたリオンもまた氷上に倒れるのだった。


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