★ムートンを選ぶ
直向きに自分を愛してくれたムートン。
そんなこれまでの彼女の気持ちにケンは応えたいと思った。
だからケンはムートンに視線を合わせる。
「えっ……? わ、私、ですか……?」
しかし彼女は目を白黒させるばかり。
ケンが首肯すると、
「行ってください、ムーさん」
「ムー、ちゃんと行くー!」
「わわっ!?」
ラフィとリオンが背中を押し、じたばたしながらムートンが前へ出た。
喜びと困惑のためか、綺麗な流線型を描く肩は小刻みに震えていた。
蒼い宝石のような瞳は落ち着きなく右往左往し、うっすら涙さえ浮かべている。
そんなムートンの後ろではラフィがガッツポーズと取って見せ、リオンもその場でぴょんぴょんと跳ねている。
――ちゃんとエスコートしてやれってことね。わぁってるよ。
「ひゃっ!?」
ケンが肩を抱くと、ムートンは飛び跳ねるように身体をびくつかせた。
「落ち着け。シャトー家でみんなの前に立ってるときは、お前もっと凛としてるじゃねぇか」
「あ、いや、だって! 状況が全然違うと言いますか……あ、あの、ケンさん、なんで私なんかを……?」
「不満か?」
「い、いえ、で、でも、ケンさんはラフィがそれにリオンちゃんも……あ痛ぁ!」
デコピンをされたムートンはして大げさなリアクションで仰け反った。
「前にも言っただろ? 俺はラフィと同じか、いや、もしかするとそれ以上……俺はお前のことを必要としているのかもしれない。こんな俺をまっすぐ愛してくれたムートンのことをな」
「ケン、さん……」
「ありがとうムートン。これから俺とお前との思い出、たくさん作って行こうな」
これまでの感謝と、未来への希望を言葉に乗せて、真摯にムートンへ贈る。
すると彼女の震えがぴたりと止まった。
「い、良いんですね? 本当に私なんかで……」
「なんかとかいうな。お前が良いんだよ、ムートン」
「……はい! ありがとうございます……本当に……ひっく、ああ、もう、今日は最高の日だなぁ……!」
にっこり笑顔のマルゴは真っ赤なリングピローをケンとムートンの前へ差し出す。
二人はそれぞれ指を手に取って、左手に薬指に嵌めて行く。
ラフィは優しい笑みを浮かべて、リオンは目を煌めかせていた。
「ムートン」
「ケンさん……!」
ムートンは自らつま先を伸ばした。
「ッ!?」
ムートンは自分から艶やかな唇をケンへ寄せる。
あまりに突然で、思考が追い付かず、ケンは僅かに怯んでしまう。
そんな彼の様子がおかしかったのか、ムートンは頬を真っ赤に染めながら、クスクス愛らしい笑顔を浮かべて離れた。
「お、お前なぁ……こういうのは俺からだろうが……」
「私、エッチな女ですから。私を選んだ以上、毎夜くらいは覚悟してくださいね?」
妖艶な笑みを浮かべるムートンにケンの心臓は破裂しそうなくらいに高鳴る。
幸福は絶頂を迎え、ケンは改めてムートンの存在にありがたみを感じるのだった。
「「「ケンさん!」」」
ラフィ、ムートン、リオンは一斉に飛び出し、ケンへ飛びついてきた。
ケンは大きく腕を開き、彼女達を優しく抱き留めた。
「必ず幸せにする。だから絶対に帰って来よう。またここへ、俺たち四人で!」
明日はこの世界の命運をかけた最終決戦。
しかし恐れることはない。
ケンには彼女達が、そして彼女達にはケンがいるのだから。
式場は万雷の拍手に包まれ、彼らを祝福する。
――必ず帰る。そして彼女達を幸せにする。必ず!