★ラフィを選ぶ
この世界に来てからずっと支えてくれたラフィ。
そんな彼女を選ぶのは当然といえば当然だった。
ケンはラフィへ視線を合わせ、
「ラフィ、来てくれ」
しかしラフィは動き出さず、代わりに隣に居たムートンへ目配せをする。
心優しく、自分の事よりも他人のことを気にしてしまう彼女らしい行動を、ケンは黙って見つめる。
「安心して。私なら大丈夫だから」
ムートンは微笑みながらそう答えた。
陰りも、嘘も感じられない、笑顔にラフィの尻尾がふわりとしたスカートの中で触れた。
「ラフィの幸せは私の幸せだからね。さっ!」
「ラフィ、行くー!」
リオンもその場でぴょんぴょんと跳ねてラフィを後押しした。
「はい! ありがとうございますムーさん、リーちゃん!」
ラフィは力強い一歩を踏み出す。そして丸く愛らしい瞳にケンを写した。
この眼差しに何度助られたことか。
彼女が注いでくれる無償の愛情。
こうして彼女がずっと傍に居て、見つめ続けていてくらたから、想い続けてくれたから、彼はこの日まで生き延びることができた。
今日この日を迎えることができた。
そんな大切に想う彼女には、たぶん周りがうんざりするぐらい感謝と愛情を言葉にして伝えてきたことだろう。
何度もお互いを確かめ合ったりもした。
もはや一緒にいるのが当たり前で、彼女に関して知らないことなどほとんどない。
だけど今でもこうしてラフィの目の前にすると、胸が高鳴る。
まるで初恋のような、胸の高鳴りが起こり、耳と頬が熱くなる。
最近は少し慣れてしまったのか、口うるさいところにうんざいりすることはあるけれど、それも生活の一部であり彼女の愛情の表れ。
だからそんなところも含めで、これからも彼女の全部を愛してて行く。
ケンはそう心に決める。
ケンは喜びで震える身体を律し、きちんと彼女を見据えた。
「ラフィ。お前が居なかった俺はきっとずっと前に生きる気力を無くしてたか、死んでいたよ。でもお前がいつも帰りを待ってくれていたから。信じて待ち続けてくれていたから、今俺はここにある。だけど、もう待たせないよ」
「はい」
「一緒に歩いて行こう。同じ道を二人で。これからもずっと!」
「はい! わたしどこへでも付いて行きます! 大好きな貴方がいるところなら例えどんなところでも!」
にっこり笑顔のマルゴは真っ赤なリングピローをケンとラフィの前へ差し出す。
二人はそれぞれ指を手に取って、左手に薬指に嵌めて行く。
ムートンは優しい笑みを浮かべて、リオンは目を煌めかせていた。
「ラフィ」
「ケンさん……」
ケンは彼女の肩を抱き、そして小さな唇に触れた。
柔らかく温かい、これからも大事にしてゆきたい人の熱。
幸福は絶頂を迎え、ケンは改めてラフィの存在にありがたみを感じるのだった。
「「「ケンさん!」」」
ラフィ、ムートン、リオンは一斉に飛び出し、ケンへ飛びついてきた。
ケンは大きく腕を開き、彼女達を優しく抱き留めた。
「必ず幸せにする。だから絶対に帰って来よう。またここへ、俺たち四人で!」
明日はこの世界の命運をかけた最終決戦。
しかし恐れることはない。
ケンには彼女達が、そして彼女達にはケンがいるのだから。
式場は万雷の拍手に包まれ、彼らを祝福する。
――必ず帰る。そして彼女達を幸せにする。必ず!