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散る男達、そして……【後編】(*マルゴ視点)


 隻眼の男:マルゴは孤児だった。

 いつ両親が居なくなったかは分からない。

 物心ついたころから彼は一人だった。


 そして世の中はそんなマルゴにとって厳しいところだった。

 食事は自分でごみを漁ったり、盗んだりしなければならなかった。

 雨宿りをしようと家屋の軒を借りれば、家主から蹴り飛ばされ追い出された。


 自らを守るには、マルゴはまだ幼く、そして弱かった。

 お陰で大事な片目を失ってしまった。

だがある日、彼は出会った。

 彼と同じように親が無く、厳しい世の中で懸命に生きている同じような子供と。


 類は友を呼ぶとはよく言ったもの。


 いつしかマルゴは、彼と同じような孤児たちと集まって迷宮都市のスラム街に住み着くようになった。

 たった一人では無力な孤児。

しかし例え子供であろうとも、寄り集まればそれなりの力になった。

それが”マルゴ一家”の前身であった。


 世の中から見放されていた彼らにルールは無かった。

 世の中が作ったルールは、あくまでなに不自由なく暮らす人々を統率するためにだけ存在する。

 世の中から外れた彼らがそれを守る必要は無かった。守る気すらなかった。

 ルールなど糞くらえ、だった。


 一家全員でギルドに登録するも、ロクに迷宮探索などせず、盗みや新人いびりに精を出す毎日。

 親無し、宿無し。それだけで蔑まれた彼らの日々。

そんな不幸な自分たちなのだから何をしても良いと思っていた。

  数の暴力にものを言わせ、獣のように自由に生きていた。

それこそが自分たちに許された正しい生き方だと信じてやまなかった。


 しかし黒皇ブラックキング、ケン=スガワラに出会って、叩きのめされて、マルゴは感じた。


 如何に自分たちが弱く、情けない存在であったいうことを。

 自分の不幸に甘えて、男として格好の悪い生き方をしていたのだと。 



 目が覚めた瞬間であった。初めて男が男に惚れる、という体験をした。


 この人こそ男の中の男。彼を目標に強く気高くなりたい。

 それは一家全員の総意であった。


 マルゴ一家はケンを兄と慕い、従い始める。

そして彼らは出会う――彼らと同じように世の中から見放されてしまった少年少女達と。


リオンが集め、兄と慕うケンが保護をしている子供達。

正直なところ、最初は子供の面倒を見るなど、至極面倒と思うマルゴ達だった。


 言うことは聞かない、ワンワンわめく、終いにはいたずらのし放題。

 やっていられない。こんなことをするために自分たちはケンの配下になったわけではない。

 しかし迷宮都市での戦いで、マルゴ自身は自分の無力さを思い知った。

 ラフィ、ムートンにリオンのように、肩を並べて戦えない。

それでも何かケンの役に立ちたい。


 そう思い子供たちの世話を買って出た。

だからこそ我慢すべし。自分の決めたことなのだからやり通さねば。

男として一度やると決めたのだから。


 マルゴとその部下たちは最初の頃こそ、そう言い聞かせながら村での仕事に励む。

 だがやがてその気持ちに変化が表れ始めた。


 天真爛漫に生活する子供達。彼等はマルゴと達と同じ、親無し宿無しの境遇だった。

でも何故、ここまで笑っていられるのか? どうして幸せそうなのか?

 それは彼らを取り巻く、ちゃんとした大人が居たからに他ならない。


 強く気高いケン=スガワラ。

 心優しいラフィ。

 賢いムートン。

 明るいリオン。

 そして……自分たち。


 誰もが子供たちを自分の子供と思って接していた。

邪険にせず、慈しみ、愛情を注いでいた。

だから彼らは今でも元気に笑って、すくすくと育っている。


――やっぱ大人がちゃんとカッコよく背中をみせてやんないとな。


 マルゴに、マルゴ一家全員に使命感が沸いた。

 自分たちはこれまで道を踏み外し続けた。

 不幸である、ということにあぐらを掻いて、自由気ままに他者を踏みにじってきた。

 此処の子供達は優しい大人たちが傍に居るからこそ、こうして笑っていられた。

だったら自分たちができること、それは、


――子供たちを俺達みたいに間違った大人にしちゃいけない。


 その一言に尽きた。


――ラフィの姉さんのように優しく、ムートンの姉さんようにかしこく、リオンの姉さんように明るく、そして兄貴のように強く気高い大人になって貰いたい!


そのために心血を注ぐのだと決意した。


 ケン達のように強くは無いけれども、大人として背中ぐらいは見せられる。

マルゴ達はそう思った。



●●●



「ぬおぉぉぉっ!」


 マルゴの戦斧が子供達へ襲い掛かる黒い影――ザンゲツデーモンを切り裂く。

 全身へは無数の切り傷が刻まれ、赤黒い血が滝のように流れ出ている。

 視界はぼやけているし、足元もふらついている。

 それでもマルゴは倒れるわけにはいなかった。


 彼の後ろにはずっと面倒を見てきた子供たちがいる。


――あいつらは俺たちが守る! 必ず!


 それは言葉に出さずとも、マルゴ一家の総意だった。

彼らの意志だった。

 ここで投げ出したり、諦めたししてはいけない。

そんな情けない姿をを子供達に見せてはいけない。見せたくはない!


「ぎゃっ!」


 背後で部下の一人がザンゲツに喉元を切り裂かれた。

それでも最後の力を振り絞って剣をザンゲツへ叩き落し、消し去る。


 子供達を守る肉の壁に穴が空けば、また別の誰かが塞いで矢面に立つ。


 数多の血が流れ、マルゴ一家は次第にその数を減らす。

しかし誰一人逃げ出そうとはしない。

 どんなに傷を受けようと、例え腕が吹き飛ばされようとも、必死に子供たちの前に立ち、守り続ける。


 子供たちがマルゴ達の名を叫ぶ。

誰もが心配し、応援してくれている。

それは力となり、勇気となって、マルゴ達を支え続ける。


「ッ!?」


 気が付くとマルゴは複数のザンゲツに取り囲まれていた。

黒い爪が太い針に変化して、先端を光らせる。


「ぐっ……あああああっ!!」


 マルゴの肩を、わき腹を、太腿を、容赦なくザンゲツの黒い針が刺し貫く。

 彼の視界が一瞬白く染まる。しかし彼は奥歯を強く噛みしめ意識を保つ。

口の奥で、奥歯が粉々に砕け散った。


「バカにすんな! 俺も男だぁぁぁっ!」


 魂を含んだ咆哮と共に、マルゴは戦斧を横へ凪ぐ。

彼を取り囲んでいたザンゲツは全て切り裂かれ、消える。


 途端、マルゴの膝から力が抜けた。

なんとか踏ん張ろうとする意志はあった。

しかしもはや意思ではどうしようもないほど、身体は限界に達していた。

これがマルゴという男の最大であり、そして限界。


 筋骨隆々な身体が倒れ、マルゴは自らの血の海に沈む。


――ああ、くそぉ……ここまでかよ……


 マルゴ! マルゴ! マルゴ! しっかりして、マルゴ!


 遠くで子供たちの声が聞こえてくる。

その中に混じる、仲間達に阿鼻叫喚。


 悔しかった。まだ戦いたかった。

そうは思えど、もう指一本も動かす力は残されていない。


 悔しかった。まだ戦いたかった。

もっと自分に力があれば。


 悔しかった。戦いたかった。

兄と慕うケンのような力さえあれば。



【力が欲しいか?】



 不意に聞き覚えの無い声が、頭の中に響く。


――お前は?


 心の中でマルゴは聞き返す。


『私は君のことを助け、あまつさえ力を分け与えることができる。しかし代わりに君の体を半分貰う……これが”YES”の回答。このままここで死亡し、幕引きをする……これが”NO”の回答だ。今から君の頭へ直接回答を流す。どちらにするか選びたまえ』



 茫然とする意識の中、感覚的に是と否の選択肢が浮かんだ。

 この声が何なのか、マルゴには判断が付かなかった。



――だけど俺はここで終わる訳にはいかない!



 子供達を守る。ケンの役に立つ。



 ”YES”の回答。



『良いだろう。しかし貴様一人の魂では私の力を扱えん。貴様と志を共にする連中の魂ももらい受けるが良いな?』


――大丈夫だ! あいつ等だって俺と同じ気持ちの筈だ!


 迷うことなく答える。

 姿は見えないが、一家全員が首肯してくれたように感じた。



『ならば契約は成立だ。私は序列25位の魔神:グラシャラボラス! 私の力、存分に使うが良い!』


 マルゴの胸元から妖艶な輝きが迸る。

彼がずっと懐に忍ばせていたDRアイテムである鎖が、マルゴ達の魂を繋ぎ始めた。


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