栄光のブラッククラスパーティー:「グリモワール」
多数のアイテムや素材がドロップし、巨万の富を生む、世界に72個存在する序列迷宮。
そこでは今日も、一般の冒険者に交じりながら、呪印によって自由を奪われた奴隷兵士の姿があった。
この世界で売られたもの、別の世界から転移転生された者など、出自は様々。
しかし彼らは一様にして、人間扱いされず。
ただ呪印に支配され、命じられるがまま危険な迷宮へ潜り、モノのように消費されている。
人としての尊厳は無く、生きるために狂気に囚われ、モンスターを倒し、生き延びたことに歓喜する。
彼らにはそれしかなく、獲得したあらゆるモノは、上位の者へ吸い上げられ、彼らには何ら利益は齎されない。
死ねば終わり、生きれば戦い、の連続。
まさに地獄の一本洞。
数多の命がゴミ屑のように扱われる最悪の空間。
富むのは奴隷兵士を行使する一部の者だけ。
それが序列迷宮の真実。
そんな序列迷宮の一つ、アントル地方の中心に存在する序列八位迷宮「バルバトス」
その最深部エリアには数多の金銀財宝、美しい調度品、数えきれないほどの高レアレティアイテムが山のようにあった。
命を消費し獲得されたアイテムが無造作に、山のように積まれている。
そんなアイテムの山に囲まれている、良く似た顔立ちの黒と白の魔導士姉妹の姿があった。
姉妹は揃って巨大な水晶玉を深く見つめている。
水晶玉には激しい戦いを繰り広げる、ケンとシャドウの様子が写り、始終がまるで、映画のように流れていた。
無様にケンの【魔神飛翔拳】に完膚なきまでに叩きのめされたシャドウとウィンドのところで水晶玉から映像が消失する。
魔導士姉妹の片方、”黒”がため息を着いた。
「あらまぁ、大変なことになりましたね、オウバ?」
黒の魔導師が問いかけ、
「そうですね、姉様。では、申し開きを聞きましょう」
白の魔導士が応える。
「そうね、オウバ。まだ少し命の炎はあるようですしね」
黒の魔導士が視線を落とした先、そこにはウィンドとシャドウが横たわっていた。
ウィンドの上半身はあらぬ方向へ曲がっていて、シャドウの頭部は辛うじて原形を留めているだけ。
そんな醜態を晒す二人へ向けて、魔導士姉妹は揃って腕を振り下ろす。
すると壁からまるで腸管のような管が伸び、ウィンドとシャドウの亡骸を貫いた。
「ああ、うあぁあ……」
「たす、けて……」
「ううっ、ううあああぁっ……」
壁へ塗り込まれた数多の人が苦悶の声を上げ、命が管を伝って、ウィンドとシャドウへ流れ込む。
傷はかき消されるように消え、あり得ない方向に曲がっていたウィンドの上半身が腕が元へ戻り、粉々に砕けたシャドウの兜が再度集まり形を成す。
「うっ……はっ!?」
ウィンドが目を開け、
「再、機動……」
シャドウの兜の奥に赤い輝きが戻った。
「さぁ、蘇生をしてあげました。では、聞かせください負け犬のウィンドさん、シャドウさん。アエーシェマンで何があったか、をね」
黒の魔導師姉妹の冷たい視線と言葉に、死の淵から蘇ったウィンドは居直る。
「お、おいシャギ! そんな言い方はしないでくれよ! オイラたちはちゃんと仕事を! ほらさ!」
ウィンドは慌ててリュックの蓋を開く。
そこからザクザクと金銀財宝や、見るからに立派なアイテムが飛び出してきて、あっという間に山を作る。
「アエーシェマンからのSR、LRアイテムは全部回収してきたって! この傷は、予想外だったんだよ!」
「だから? それで私たちの姿を見られたことの良い訳になるとでも思っているの?」
黒の魔導士:双子の姉のシャギは冷たく言い放ち、
「姉様の仰る通りです。こんなガラクタを積まれても困ります。私たちは貴方たち二人がどうして私達【グリモワール】の栄光に傷をつけたのか、その原因は何かを知りたいだけなのですけど?」
白の魔導士:双子の妹のオウバがそう問う。
するとシャドウが首を上げ、兜の奥の赤い双眸を光らせた。
「オレの【アンドロマリウス】が強く反応。高レアリティアイテムと判断。ウィンドと協議の末、奪取を敢行。しかし所持者から抵抗にあい失敗。所持者は高レベル。相当な力。この損害はウィンドが具申した通り想定外」
シャドウの抗弁に、シャギとオウバは、揃ってピクリと反応を見せた。
「あらまぁ、シャドウの【アンドロマリウス】が強く反応するだなんて。ねぇ、オウバ?」
シャギがそう聞き、
「はい、姉様。気になりますね。それで、取り逃がした高レアレティアイテム所持者の特徴は?」
オウバが問うと、シャドウは更に、機械のように整然と姿勢を正した。
「不浄の一族の女を連れた、黒髪の男。おそらく奴隷兵士としてアエーシェマンに転移転生された者」
「なるほど。能力はどのような? アイテムの詳細は?」
「情報収集が上手く行かず不明。但し、脅威は確実」
「ふぅむ、オウバどう思います?」
シャドウの説明を聞き、シャギがオウバへ問う。
「情報収集が最優先ですね。接触できれば良いのですが、ウィンドさんとシャドウさんはお顔を見られています。おそらく、姉様と私の存在に気が付くのも時間の問題でしょう。面倒ですが、密かに、穏便に進める他ありませんね」
「そうね、オウバ。面倒だけど仕方ないわね。では、準備をしましょう?」
シャギがオウバへ視線を向けた。
「はい姉様。そして確実に盗人の殿方からアイテムを奪いましょう」
「そうねオウバ。だって、全てのアイテムは私たち【グリモワール】のもの」
「姉様の仰る通り。希少なアイテムは私たち以外所持することは許されません」
「その通りよオウバ。そして……私たちの姿を見たものは全て消さねばなりません!」
「はい、姉様。序列迷宮以外で私たちの裏の姿を見た者はいない!」
黒と白の魔導士姉妹は互いに手を取り、頬を寄せ合った。
「「私たちは皆が憧れ、見上げる至高の存在、世界で、唯一の、
栄光のブラッククラスパーティー『グリモワール』!
そんな私たちの別の姿をみてはいけないのです! 最強は私たちだけで十分です!」」
黒と白の不気味な魔導士姉妹は声を高らかに響かせる。
「シャドウ、ありがとな。助かったよ」
ウィンドは姉妹の言葉を聞き流しながら、小声でシャドウへ呟く。
「ウィンドを守るのがオレの役目」
「へへっ、頼りになるよ、相棒。しかし、キツイぜ、あの姉妹はよ」
「同感」
そんなウィンドとシャドウの会話に気付いたのか、魔導士姉妹は冷たい視線を落とす。
するとウィンドとシャドウは何事も無かったかのように、深く頭を下げ直すのだった。