破滅の予感
「それが、ハヤトさん?」
私の問いに、魔王は花が綻ぶような笑顔で頷いてくれた。きっと、本当に好きなんだなあ。
でも、あまりにもその笑顔が可愛すぎて、私はちょっとだけ心配になってしまった。
横目でちらっとアルバを盗み見る。
……よかった、とりあえず真剣な顔で聞いてるから、見惚れてデレデレってことはないみたい。
内心ホッと胸を撫でおろし、私は改めて魔王に向き合った。
「ハヤトと居ると楽しくて……私、いくらでも力が出せた。土地には力がみなぎって、色んなことが魔法で容易にできたわ。町の人もみんな魔法が使えるようになったし、私が歩くだけでも足元に花が咲き乱れるくらい、充実してた」
「すごい……」
「なのに、急に彼が、地下牢に繋がれてしまったの」
「地下牢!?」
「この神殿の最下層部にあるわ。陰気で、不衛生で……嫌な道具がたくさんあるところよ」
ひええええ、ちょっといきなり生々しい話になってきたんだけど。
「……酷かったらしいな」
お兄さんであるハヤトさんから何か聞いていたのか、賢者サマが苦々しい顔でぼそりと呟いた。
「大神官様は、ハヤトは王家の手の者だと言ったわ。私に近づいて、操ろうとしているって。でもハヤトは私に何かをお願いしたことも、無理に何かを聞き出そうとしたこともなかった。だから私……そんなのとても信じられなくて、誤解だって何度も大神官様に陳情したわ」
その時を思い出してしまったのか、感情に呼応するように彼女の体から黒い靄が立ちのぼる。そしてそれは、彼女を包む透明の丸い膜にさえぎられ、外へは漏れ出てこなかった。
これって多分、結界みたいなもんだよね……。さっき賢者サマが何か呪文唱えてるように見えたけど、これだったのかな。
「神殿の皆が、口々に言うの」
彼女の心をハヤトさんから離そうと、神殿の人々は事ある毎に彼女に言い募ったらしい。
ハヤトが王家の人達と定期的に会っている、ハヤトは書庫に入り浸ってこの神殿の謎を探ろうとしているようだ、そんな陰謀めいた話を幾度もされた。
しかも彼が投獄されたと聞いて、王都から使者がきてからはもう泥沼だった。
心労からあれほど漲っていた力が不安定になり、満足に力が発揮できなくて苦しい毎日が続く。
何を信じればいいのか分からなくなる中、彼女を何より傷つけたのは、こんな他愛もない耳打ちだったという。
「ハヤトはね、私と会った後、疲れたみたいによくため息をつくんですって」
……それは、つらい。
彼女の心情が分かりすぎて、こっちまで胸が痛くなる。自嘲するように口の端だけで笑った彼女を、龍王が心配げに見つめていた。




