落ち込んでる暇はないのよ!
「なんてこった」
話を聞き終えたヴィオは、頭を抱え込んで深い深いため息を漏らした。額を押さえた手の、指の間から私を見ては何度も嘆息する。
フーッと長い息をついたヴィオは、両手をテーブルにドンとつき、深々と頭を下げた。
「ゴメン! 事情も知らずに聖女様、聖女様って……アタシ達あんたに全てを押し付けてたんだね。この世界の人間ですらないのにさ」
「ヴィオ達のせいじゃないわよ、元々聖女についてなんて民衆には深くは知らされていないって聞いた事あるし」
「そりゃ言えないだろうね、義憤にかられる輩が出そうだ」
異世界から召喚された、なんて普通に聞いても信じられないだろうから。王の決断により教会が然るべき手段で聖女を選出し、選ばれた聖女は特別な力を持つものだと、民衆にはそう語り伝えられているのだと、第二王子だかクルクル金髪巻き毛だかが、そんな事を言ってた気がする。
今思えば、姑息な王家らしく都合の悪いことは隠したまま、自分達の権威付けになるように上手く情報を流していたのだろう。
「それにしても、本当にその……帰れないのかい?」
「今のところ帰れる見込みはゼロね」
ヴィオに話して少しスッキリした私は、現実的にそう答えた。
「よっしゃ、分かった! あんたの面倒はアタシが見る!」
「は? 何言ってんのよ」
「だってこの世界に身よりなんか居ないってこったろ? しかも一緒に行動してた奴らからも、逃げてきたんだろ?」
「まあね」
「うちは宿屋だ、あんた一人くらい養える。聖女サマに相応しいもてなしとか言われると困っちゃうけどさ、毎日美味い飯食わせられるってトコだけは保証出来るからね!」
腕まくりで頼もしく言ってくれちゃうけど、そんなつもりで来たわけじゃない。
「ありがと、ヴィオ。じゃあさ、今日だけタダで泊めて。私よく考えたら無一文なの」
「任せときな! 気がすむまで居てくれていいんだよ。落ち込んでる時に無理するとロクなことないんだから」
食いな食いなって、目の前にドンドンお皿を並べてくれるけど、そんなに入んないから。
「世界を救うなんて大仕事したんだ。ゆっくり休んでさ、元気が出たらあんたをこの世界に拉致った奴ら、ぶっ飛ばしてやりゃいいんだ」
ぷりぷり怒ってるヴィオが可笑しくって、私はようやく笑いが出た。
「バカねえ、そんな暇ないわよ! ついでに落ち込んでる暇もないの!」
「まだ何かやる事があるのかい?」
「あったり前じゃない!」
そう、ヴィオと話して元気も出たし、ホント落ち込んでる暇なんかなかったよ。
「私、日本に帰る方法探さないと! 召喚できたんだから、絶対、帰る方法だってあるわ!」