行くべきか、行かざるべきか
「ねえハクエンちゃん、昔の地形なら、祠の場所がわかるの?」
「む? まあ大まかなら分かるだろう」
その答えに、私は決意した。
「よし、じゃあ領主様のお館へいこう」
領主様だったら、古地図を持っているかも知れないもの。
そもそも領主様には先日ご迷惑をかけてしまったけれど、一介の冒険者だと思っていた時点で、身を挺して守ろうとしてくれた御恩は忘れられない。
娘さんの病気をもし私が治す事ができたら、少しはご恩返しができるかも知れないし。
「だが……少し街で様子を窺ってからの方がいいんじゃないか?」
「どうして?」
「俺とお前が今、この町でどういう扱いになっているか分からないからな」
どういう扱いって……と首を傾げかけて、思い当たる。
そっか、そりゃあそうだよね、第二王子達から監禁されてたって言うのに、領主様の館から転移で逃げたんだもん。戻ってきたら捕縛しろとか、そんな命令が下されていたっておかしくはない。
「確かに、このまま街を歩くのもまずいかもね。認識阻害の魔法をかけておくわ」
速攻で認識阻害の魔法をかける。これで私やアルバは顔の造作から別人に見えている筈だし、ハクエンちゃんもただの猫に見えているだろう。
ユレイの街でも、ハクエンちゃんに認識阻害の魔法、かけてあげればよかったんだな。私ってバカだ。正直転移に比べて認識阻害の魔法って浄化の旅の間はイマイチ使いどころがなかったから、実は使いなれてないんだよね……。
密かに自分にため息をついてから、私はもう一度しっかりと顔をあげる。
「通りすがりに情報収集するだけにして、できるだけ早く領主様のお館へ行こう。私達にかかわる人は少ない方がいい」
本当は、ヴィオにだって会いたいけど。
冒険者『キー・セイバル』としてかかわった、たくさんの人達とも、お話ししたかったけれど。
私とかかわったせいで、あとで誰かが辛い目に会うのだけは避けたいから。
「領主様の娘さん容態によっては……領主様のお館に行くのも、やめた方がいいかも。賢者サマが合流すれば、祠の場所も分かるかも知れないし」
キー・セイバルとして散々薬草系を納入してきた身としては、ただでさえ娘さんの容体についてはとっても気になる。治せるものなら治してあげたい。
でも、そのせいでただでさえ懐事情も厳しそうで、しかも私のせいで王家にたてつく発言をする羽目になった領主様がこれ以上目の敵にされるようなことがあったらと思うと。
娘さんの容態が安定してるなら、このまま姿を現さない方がいいのかも知れないもの。
……そんな消極的な思いは、町で買い物をしている僅かな時間で覆されてしまった。




