これからどうしよう
あの時、そう啖呵切ったのになあ。
日本にもはや帰れないと分かって、怒りのあまり王城から転移魔法で逃げてきたけど、一体これからどうすればいいのか。
だって、日本に帰れるって思ってたんだもん、これからの事なんか何一つ考えちゃいなかった。
ぶっちゃけ勢いだけで転移しちゃったから、何処に飛んだのかすらわからない。
フラフラと歩いていけば、なんか見覚えのある街並み、潮の香り、市場の喧騒が私の五感を刺激する。ここってきっと、旅の途中で立ち寄った街だよね。そもそも私の転移って行ったことがある場所限定だし。
ドレスなんか着ちゃってるから、色んな人が振り返って私を見る。
「もしかして」「聖女様……?」「まさか」なんて、ざわざわしてくる周囲に、もう顔を覆い隠してしまいたい。
……ああもう、泣きたい。
今、聖女だのなんだの拝まれても、笑顔でいられる自信とかないからね?
「あっらぁ、キッカじゃない!? どうしたの、こんな所で!」
なんの前触れもなく、いきなりドカーン! と右肩を小突かれて、私は勢い良くすっ転んだ。
「やだー! か弱いフリしちゃって、そんなタマじゃないでしょうよ! 大体何なのその取って付けたようなドレスは! 仮装大会?」
アッハッハ、と盛大に笑いながら私をえいやっと持ち上げて、乱暴にドレスを叩くもんだから、今度は土ぼこりでむせるむせる。
人を張り倒しといてこの言い草。このガサツさ。
「ヴィオレッタ……! 言いたい事はそれだけか……!」
「やだー、フルネームで呼ばないでって言ったじゃん、乙女っぽくって恥ずかしいんだってば」
頬を赤くして、バンバンと私の肩を容赦なく叩きながら照れるヴィオ。
知ってるよ、この仕打ちに対するちょっとした意趣返しだよ。
「ま、冗談は置いといてさ、とりあえずウチに来なよ。シケた顔しちゃってさ、なんかあったんでしょ」
「……ヴィオ……」
ちくしょう。ガサツなくせに、なんでいつもそんなに優しいの。
「はいはい、泣くのは家に着いてから! 今のあんた、目立ってしょうがない。さっさと行くよ!」
思わずウルっと来たけど、凄い勢いで手を引かれて涙も少し引っ込んだ。
今はこのガサツで明け透けな友人の、飾らない陽気さが胸に滲みる。何にも考えないで転移したらここに来ちゃったって事は、私、もしかしてヴィオに会いたかったのかな。
ヴィオが住んでいるのは、王都から歩いて半年ほどもかかる古い古い港町。
浄化の旅の中盤に、賢者の噂を聞いて立ち寄った町だった。ヴィオは、その町の一番大きな宿屋の看板娘。ガサツだけど、困った人は放って置けない姉御肌の彼女は、太陽みたいなオレンジ色の髪をポニーテールに結い上げた、元気で明るいオネーサンだ。