なんで居るのよ!
「すまん」
すぐに視線を逸らして、アルバは青い顔のまま不死王が待つ最上階への階段を上っていく。
今の……聞き間違いじゃないよね。アルバ、一緒に日本に行きたいって……言った?
あまりにも思いがけない言葉に、私はしばし混乱した。
「どうして……」
思わず漏れたつぶやきに、ハクエンちゃんがわざとらしくため息をつく。
「縁もゆかりもない世界に一緒に行きたいなんざ、理由はひとつだろう。まぁ、貴様がそれを受け入れねばならんいわれもないがな」
「ハクエンちゃん……」
「あやつにはあやつの思いがある。貴様には貴様の譲れない物がある。その中で叶えてやれる、叶えてやりたいと思うなら、考えてやればよい事だ」
面倒くさそうに前脚でお顔をちょいちょいと撫でてから、ハクエンちゃんは大きく伸びをした。
「そろそろ行かなくて良いのか? あの弱り切った状態であやつだけグレンの前に出してみろ。好きなだけ遊ばれてしまうぞ」
「ええ!?」
危ないじゃない!
私は急いで階段を駆け上がる。さすがに最上階へ続く階段はとても長くて、必死でアルバのあとを追ううちにアルバの背中が見え来た。
ハクエンちゃんもタタタッと身軽に階段を駆け上がり、あっという間にアルバの足元を追い抜いて行く。なんだかんだ言って、アルバを危ない目にあわせる気はないってことなんだろうなぁ。ハクエンちゃんって意外に面倒みがいい。
「おっと」
「待ってアルバ」
足元を駆け抜けたハクエンちゃんに驚いて、僅かに足を止めたアルバに声をかける。
だってもう階段の終わりはすぐそこだもの。
ここからは一緒に行った方が絶対に安全だ。力はそりゃあ削がれているんだろうけど、不死王グレンってなんか性格悪そうだもの。
二人して、また階段を一歩上がった時だった。
「キッカ……?」
階上から、聞き覚えのある声が降って来る。
「嘘……!?」
足音が聞こえたかと思うと、派手なくるっくるの金髪が揺れながら現れた。
「やっぱり! なんで居るのよ!」
「っあはははは! 予想通りだな、君は!」
馬鹿みたいに笑い出すクルクル金髪巻き毛にムカつきつつも、慌てて転移を使おうとしたけれど、やっぱりここでは使えない。
踵を返して階段を駆け下りようとしたら、胴のあたりに太い腕が回されて、いきなり体がふわりと浮いた。
「悪いが、逃げるのはあきらめてくれ」
「グレオスさん! ちょっと、離してよ!」
ジタバタと足を振り回してもがいても、グレオスさんの腕力の前では何の役にも立たなかった。
「キッカを離せ!」
「ごめん、アルバさん……!」
「ふん、今のお前など敵ではない……その顔の青さ、ゴーストにやられたんだろう。ロンドはともかく、お前も意外に精神は脆かったということか」
リーンに魔術で縛られて、第二王子に剣を突き付けられた痛々しい姿で、それでもアルバが叫んでいる。
アルバを見下ろす第二王子の冷たい目に、ぞっとした。
アルバが殺されてしまうんじゃないか、急にそんな不安が胸をよぎる。
その時だった。
階段の上にそびえていた重厚な扉が、軋むような音をたててゆっくりと開く。
「うるさいなあ」
この場に似つかわしくないボーイソプラノに、その場にいた全員が動きをとめた。




