涙も引っ込んだし。
「リーンが泣く事ないじゃない」
「泣いてません」
いやいや、でっかい目から涙が零れ落ちそうだよ。
あれだね、他の人が先に泣いちゃうとこっちの涙が引っ込んじゃうってホントなんだね。なんか慰めないといけない気になるから不思議だわ。
「いやいや客観的に見て泣きそうだからね。ハンカチ要る?」
「要りません! 僕は悔しくて情けないんです!」
あちゃー、涙こぼれちゃったよ。
どうやらお師匠さんに大切に大切に育ててもらったらしいリーンは、もうちょっとで十八歳という男子にしてはとっても純粋で正義感も強い。
ちょいちょいクルクル金髪巻き毛が私にムカつく態度をとるたびに、こうして一緒に怒ってくれるのだ。
「なんなんですか、あの態度! こっちが勝手に召喚したんですよ!? しかも十分な準備期間もなくこんな過酷な旅に出して……それなのに、あんな! あんな……!」
「だよねー、あいつらサイテーだよねー。さすがの私もキレたわー」
おざなりに相槌を打ちながらせっせと零れ落ちる涙を拭ってあげる。気分はすっかりお母さ……お姉さんだ。
魔術師の割にサッカー少年みたいなやんちゃな風貌と小麦色の肌を持つリーンは、髪と装備だけ魔術師っぽくて少しアンバランスだ。髪に魔力がこもるらしくて若草色の髪の毛をゆったりした三つ編みにして垂らしている。
戦闘時にうっかり切れたりしたら魔力が落ちるから、きっちり纏めるわけだけど、致命的に不器用な彼の髪を毎朝三つ編みにしてあげるのはこのところの私の日課だった。
手のかかる弟の世話をしてあげているみたいで、私にとってはこの殺伐とした異世界で、なんとなく心癒されるひと時だったりする。
「お師匠様はこんなつもりで、貴女を召喚したんじゃない……!」
出た、決め台詞。
当代一の魔力を持っていたという彼のお師匠様が、王家に請われて私を召喚したらしく、彼はとてもとても責任を感じているのだ。
「僕が、絶対に守りますから!」
「うんうん、頼りにしてるよ。でもとりあえず涙拭こうね」
まだまだ出てくるらしい涙を腕でぐっと拭き取って、いつもみたいに誓ってくれるけど、正直あまり期待していない。物理的にはアルバやグレオスさんのが強いしね。
でもまあ、一緒に怒ってくれる人がいるだけで、結構心は救われるもんだ。
リーン君、きみには癒し要員としての活躍を心から期待している。
若草色の頭をポフポフ撫でたいところだけど、そこは我慢しておいた。反抗期は過ぎているにしても、プライドが刺激されるといけないからね。
「アホか。お前が慰めてもらってどうする」
ごもっともなセリフと共に、アルバの拳がゴスっと音を立ててリーンの頭にめり込んだ。
うわあ、痛そう。
「お前も甘やかすな。こいつはもうほぼ成人だからな」
いやあ、つい。
「まあいいのよ、リーン。今の時点でどう思われてるのか分かってむしろ良かったわ」
「え……」
「こっちもそのつもりで付き合えばいいだけ。これだけ大きな仕事だもの、気が合わない人もいれば嫌な奴だっているもんよ」
「は……え?」
ぽかんとしているリーンの横で、アルバは爆笑している。
「見てて。にっこり笑って、あいつらともうまくやって見せるわよ。そんで、とっとと浄化して、スパッと日本に帰ってやるんだから!」