お、吹っ切れたか。
でも、どんなに嫌でも怖くても、あの城に入らないと話が進まない。
だって、この世界に閉じ込められたまま、理不尽に「結婚しろ」だの「子供を産め」だの言われる方がどう考えたって千倍嫌だもの。
そうよ、逃げ腰になってる場合じゃない。
「……よし」
自分のほっぺたをパンパン! と思いっきり叩いて、気合を入れる。威容を放つおどろおどろしい城を、キッと睨んで息を整えた。
「お、吹っ切れたか。そうこなくちゃ」
アルバが面白そうに笑う。
浄化の旅の間もよく見たな、この顔。私が気合入れると、いつもなんでかこんな感じで楽しそうなんだよね。
「なによ」
「いや、その方がお前らしい。さ、行こう」
「やれやれ、ようやく腹が据わったか。面倒な事だ」
フンと鼻を鳴らして、トコトコと歩を進めるハクエンちゃん。そして、右手に抜き身の剣を携えたアルバがその後に続く。そして私は、アルバのターバンを握りしめたまま、慎重に彼らの背中を追っていた。
ちょっと情けないけど、決意を固めたところで、怖いものは怖いんだから仕方ない。
城の扉の前に立った途端、重厚な扉がこれまた嫌な音を立ててゆっくりと開く。
もちろん扉を開けた人なんかいないけど。
多分そうだろうって思ってたから、驚かないんだからね!
自分に言い聞かせて、一歩、また一歩と進んでいく。石造りの城に、自分の足音だけがやけに響いてそれすらも怖かった。
「あやつの寝所は、たしか城のてっぺんだ」
「そこまでの最短ルートを案内できるか?」
「無論だ」
「ガイドがいるのはありがてぇな。頼むぞ、ハクエン」
「……フン」
「あとで美味い肉、喰わしてやるよ」
「……」
無視したつもりかも知れないけど、ハクエンちゃん、しっぽが嬉しそうに揺れてる……。それを見てニヤニヤ笑ってるアルバも込みで、なんとも平和だ。
怖い、怖い、と思っていた心がちょっとだけ元気を取り戻した。
「お前可愛いなぁ、キッカが気に入るのもわかる」
「ふざけるな、人間ごときに愛でられるいわれなどないわ」
いつの間にやらなんとなくアルバとハクエンちゃんって仲良くなってない? アルバったら、最初はあんなにハクエンちゃんのこと警戒してたのに。
「ちなみに不死王ってどんなヤツなんだ?」
アルバの問いかけに、トテトテと忙しなく動いていたハクエンちゃんの足が、急に歩みをとめた。
お耳がぴくぴくと動いて、しっぽも先だけがフニ、フニ、と上下に小さく揺れる。どうやら思案している様子だけれど……。
アルバが「どうした?」と尋ねれば、ハクエンちゃんはなんとも答えに窮した様子で「いや……ううむ、ひとことでは言い現わし難いやつでな。表現に困る」とため息まじりに呟いた。
相当濃いキャラのハクエンちゃんにそういわれるっていったいどんなヤツなんだろう。
まあ、こんな悪趣味な城をつくるくらいだし、嫌なヤツなのは確定だけど。
「……まあ、よく言えば一途、ではあるか」
しばらく悩んだハクエンちゃんが口にしたのは、なんとも意外な人物評だった。




