樹々に呑まれた古城
「うわあ……前に来た時にも思ったけど、本当に鬱蒼とした森ね。こういうの、樹海っていうのかな」
辺りを見回せば、そこは昼なお暗く、生き物の気配を感じさせない深い森。賑やかなバザールを堪能した私達が、次に転移で向かったのはそんな場所だった。
この樹海は次なる三魔将、不死王グレンの縄張りなんですって。
その名も不死王の森。
魔王たちが封じられてから千年が過ぎた今でも、近隣の村の人達はこの森を恐れ、特に夜は絶対に足を踏み入れないらしい。
森に入れば呪われる、気がふれる、そう戦々恐々と語られるのも理解できてしまうほど、この森には異様な空気が漂っている。
だって、樹の幹は異様にねじ曲がってるし、なぜか森の奥の方へ向かって引っ張られるように枝を伸ばしてる。ぼこぼことした瘤や節が目立つし、葉の色も全体的に暗くて重いし、さらに蔦がからまっているからか余計に気味悪い。
この前の砂漠とは打って変わって湿った空気、深く淡く霧がたちこめて、気分だっておのずと暗くなる。
鳥の声すらしない、風が樹々の葉を揺らす僅かな音だけがざわざわと不穏に響く中を、私達は黙々と歩いていた。魔物も普通の動物も出ないから、まあ落ち着いて歩けるんだけど、なんせ刺激がない。
気味悪い樹海を歩くだけって割と嫌よね。
ハクエンちゃんによると、浄化ポイントからしばらく歩いた先に、樹々に隠されるように不死王の城があるらしいんだけど。
「ねえ、ハクエンちゃん。あとどれくらい歩くの?」
「さほどかからん。黙ってついて来い」
不死王のお城の場所を知っている。そう豪語するハクエンちゃんは、よどみない足取りでトコトコと歩を進めている。
「不死王はハクエンちゃんみたいにお城を隠したりはしてないのかな」
「黙って歩けと言うのに。……まあ、あいつはむしろ嬉々として城に呼び込むタイプだと思うぞ」
「えっ」
「霧が薄い部分をよく見てみるがいい。道のように一方向だけが薄い……誘われているようだろう」
慌てて周りを見回すと、確かに霧には強弱がある。今まではハクエンちゃんのかわいい尻尾ばかりを目印に歩いていたから気が付かなかっただけなんだ。
アルバも若干顰めながら霧の薄い部分、その指し示す先を睨んでいた。
「なるほど、少しでも周囲を把握したければ霧が薄いところを歩かざるを得ないからな。自動的に城に案内されちまうわけか」
「おおかた人間をからかいすぎて、呪われるだのなんだの噂がたったんだろう。ヒトごとき放っておけばよいものを」
「ちょ……だんだん怖くなってきたんだけど、不死王ってどんなヤツなの?」
「もう着く。自らの目で確かめればよかろう」
面倒そうにハクエンちゃんが指し示したその先に、まるで樹々に飲み込まれるように、蔦に覆われた古城が現れた。




