巻き込まれたのは
しかしまあ。
勝手に召喚して、無理やりわけもわからないまま『浄化の旅』なんてものに出しておいて、陰でこうして笑っているなんて。この国の中枢の奴らのあきれるほどの身勝手さよ。
焚火の焔の灯りを受けてゆらゆらと揺らめく木の葉の影を眺めながら、馬車までのわずかな道のりをゆっくりと歩く。うっかりこぼれそうになる涙を鎮めるために空を仰げば、明るい月がこうこうと辺りを照らしていた。
ちくしょう、泣いたりなんか、しないんだから。
今日はちょっと、人恋しくて元々心が弱ってたから泣きたくなっただけだ、多分。
そうそう、だって私だけが辛いんじゃないし。
騎士であるグレオスさんや魔術師のリーン、そして冒険者であるアルバなんかは、どっちかというと私と同じ立場なんだろう。
きっと巻き込まれたんだ。
王族が、聖女と共にこの国の危機を救った。その実績を作るために集められた実働部隊。
思えばルッカス様やクルクル金髪巻き毛が戦いに参加するのなんてよっぽどヤバい時だけだ。魔物が出たって大抵の場合はアルバが一瞬で片付ける。数が多ければグレオスさんが参戦し、剣が効きにくい相手ならリーンが魔法で一掃する。
戦闘中、ルッカス様やクルクル金髪巻き毛は私を守るように立っていたけれど、よくよく思い返せば剣を振るう事すら三回あったかなかったか。
いや待てよ?
その時剣を振るったのってルッカス様じゃなかったっけ? クルクル金髪巻き毛なんか何が武器かも知らなくない!?
うわあー……ヒクわぁ……。
なんて、考えてた時だった。
「泣かねえのか」
いきなり、声をかけられた。振り返ると二人の人影。
何よ、おっきいのとちっこいのと二人揃って、何の御用かしら。
さっきのクルクル金髪巻き毛と腹黒王子の暴言で、こちとら被害妄想気味になってるんだから、ちょっと放っといてくれないかな。
「なんで私が泣かなきゃならないのよ。涙がもったいないじゃない」
ツンとすましてそう言ったら、なぜかおっきいのが噴き出した。
おっきいの……冒険者のアルバは背が高くってひょろりとして見えるけど、戦うための筋肉はしっかりついている、いわゆる細マッチョというやつだ。グレオスさんはバッキバキのマッチョだから、それと比べると随分目に優しい。
そして黒の短髪に浅黒い肌、軽鎧という地味な見た目もかなり目に優しい。
「それくらい元気がありゃ、まあ大丈夫か。いや、散々な言われようだったからな」
「聞いてたの?」
「悪いな、ちょうど張り番の交代時間で、聞こえちまった」
ニヤリと笑ったまま、アルバが何かを投げて寄越した。
手の中に納まったのは、柑橘系の香りがとても爽やかなサンシュの実。ちょっとだけ酸味があるけど、さっぱりした甘さの果物だ。
「ま、気にすんな。あいつら貴族は苦労知らずだからな、自分の事は棚上げで人の事をあげつらう口だけは達者なんだ」
好物だと言っていたサンシュの実をくれたって事は、慰めてくれてるんだろうか。
まあ、ひどい言われようだったもんね。
その証拠に、アルバの横ではちっこいの……魔術師リーンがおっきな目に涙を溜めて、ウルウルとこちらを見ている。
小動物か。
やだなあ、癒されるんですけど。