第一の封印、解除!
「大丈夫、この魔法陣には触らないって。千年前も僕、触らなかったでしょ」
「……貴様はどれだけ時が経っても馴れ馴れしいな」
アルバにしっかりと確保されたままのふわふわ頭を軽く撫でた賢者サマに、ハクエンちゃんはフン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「さて、じゃあやろうか」
すっかり大人しくなったハクエンちゃんに僅かに目を細めてから、賢者サマは魔法陣に再び手をかざす。
「まずは魔王を封印してる魔法陣から」
中央のひときわ強く光っている魔法陣の前で、賢者サマが良く分からない呪文を唱え始めた。
聞いた事も無い不思議な旋律。
まるで歌うように綴られるその呪文は、きっと今は失われたか……賢者サマのみが知る呪文なんだろう。だって、リーンが唱えているどの呪文にも似たところが一つもないんだもの。
賢者サマが詠唱を続けていくと、徐々に魔法陣が回り始めた。
もしかして、賢者サマにとっても大変な作業なのかしら。だって、眉間に深い皺が寄ってる。さっきまでののほんとした様子とはかけ離れた雰囲気に、私も少し緊張してきた。
魔法陣の光が明滅し、回転がどんどんと速くなる。
光の環だと言った方がいいくらいに高速でまわっていた魔法陣がひときわ強烈な光を放ち、いきなり忽然と掻き消えた。
「魔法陣が、消えた……?」
「第一の封印解除、だね」
フウ、とひとつ息をつき、賢者サマが腕を下ろす。その額には小さな汗が浮かんでいた。
「意外と簡単なんだな」
「あのさあ、戦士系の人ってすぐにそーいうこと言うけど、僕の魔力めっちゃ目減りしてるからね? この世界で僕しか使えないレベルの、尋常じゃない解呪だったんだからね?」
「お、おおそうか、すまん」
賢者様に詰め寄られて、アルバの腰が若干引けてるのが笑える。地味にハクエンちゃんを盾にしてるように見えるのは気のせいだろうか。
「冗談じゃなく魔力消費しちゃってるから、仕上げを終えたら僕は帰って家で寝る!」
びしっと宣言して、賢者サマは「ってことで次!」と、残る右の魔法陣を指さした。
「これはさ、ハクエンの幻の力を使って、このダンジョンを外界から隠すための魔法陣なんだ」
「外界から隠す? ……封印じゃなくて?」
「そう、正しくは封印じゃない。単に誰も入れないように、隠してるだけなのさ。でも千年近くそれで問題はなんら起こってないから、ま、今回も同じ処置で大丈夫でしょ」
ぎこちなく不自然に動いたり止まったりしている魔法陣に手をかざし、賢者サマは僅かな時間瞑目すると「なるほど」と小さく呟いた。




