獣王の根城
獣王の城だという洞窟は、それなりに曲がりくねって距離はけっこうあったけれど、基本的には一本道。意外とサクサクと進んでいける。
魔物はもちろんわんさか出てくるし、獣王が統べる場所だからか、ウルフ系からまるでバッファローみたいな重量系、果てはキメラみたいな強そうな魔物まで様々。でもアルバと賢者サマのタッグの前では正直言って敵じゃない。
もちろん私の出る幕なんか全然無かった。
結局はハクエンちゃんを抱っこしたままで一度も戦闘に参加する事なく、私達は賢者サマが「ここがほぼゴール」という場所まで辿り着いてしまった。
全然活躍出来なくってちょっと寂しい。グレオスさんに鍛えられたから、剣技にもわりと自信あるんだけどなあ。
「なんか呆気なかったね」
「千年前はこんなに楽勝じゃなかったよ、ねえハクエン。きっと瘴気がどんどん浄化されて、君の配下の魔物達の力も格段に落ちてるんだねえ」
賢者サマに話を振られたハクエンちゃんは、面白くなさそうにグルルルルルル……と唸り声をあげた。
「おや、ご機嫌ナナメかな? 無理もないねえ、なんせいよいよ、君の居住スペースの近くまで来たんだものねえ」
ニンマリと笑って、賢者サマはハクエンちゃんの小さくて黒いお鼻をピンと弾く。ハクエンちゃんは煩わしそうにモフモフの前脚で鼻をこすると、唸り声を大きくした。
「唸っても無駄。確かこの土壁の向こうが君の根城だったね」
行き止まりだと思っていた土壁に賢者サマが手を当てると、なぜかその手がズブズブと壁の中に入っていく。
「ハクエンお得意の幻影なのさ。根城を隠すくらいの幻はなんとか発動できたみたいだね。マタタビの効果が薄れてきたかな?」
「いつまでも……我をこのような怪しげな草で支配できると思うなよ……!」
ハクエンちゃんは怒りをあらわに耳も、背中も、尻尾も、ビンビンに毛を逆立てている。それでももちろん賢者サマは気に留めた様子もない。
「ま、幻影だって分かってればこんな壁なんでもないんだよね」と嘯きながら、体の半分くらいを土壁に埋めたり出したり。まるで遊んでるみたい。
「く……っ! おのれ、おのれ……! 人間ごときが……!」
「はいはい、その人間ごときにコテンパンにのされて封印されちゃったのは誰かなー?」
賢者サマの挑発にハクエンちゃんが猛烈に暴れだす。その動きが激し過ぎて、もう抱っこしていられないと思った時だった。
「遊んでねえで、行くぞ」
目の前を大きな手の平が過ったかと思うと、私の腕からハクエンちゃんがいなくなっていた。
「アルバ」
見上げれば、ハクエンちゃんの首根っこをヒョイとつまみあげているアルバがいた。反射的にブランと垂れた後ろ脚を器用に一纏めに握り込み、アルバはあっという間にハクエンちゃんの動きを封じたかと思うと一瞬で土影の中に消えていった。




