冷えた。
「確かに顔もプロポーションも、非常に平坦ではあるな」
「平坦って」
ルッカス様がおどけたように言って、クルクル金髪巻き毛が笑い転げる。
てめえこの野郎、第二王子!
いつもはめっちゃ慇懃に接してきてたくせに本心はそれか!
普段からなにかと失礼なクルクル金髪巻き毛は常々見下してくるから、嫌われてるんだろうなぁとは思っていた。でもルッカス様は普段はとても優しい。柔和な笑顔を絶やさないし、いつだって礼儀正しくいたわってくれていた。
その分衝撃が大きい。
なるほど、あれは社交辞令だったのか……。さすが第二王子、相手に本心を悟らせない完璧なる処世術だ。
「マナーも教養もなくては話にならん」
「だよねー」
「違う世界から来ているのです、そこは仕方ないでしょう」
吐き捨てるように言ったルッカス様に、果敢にもグレオスさんが反論してくれたのは、きっと異世界から召喚された私を不憫に思ってくれたんだろう。
あんまり剣の指導が厳しいからちょっと怖いと思ってたけど、あんた漢気のある人だったんだね……。
「じゃあグレオスが貰ってやりなよ、どうせ僕らの誰かが彼女を娶る事になるんでしょ?」
ちょっとジーンとしていたのに、いきなり発せられたクルクル金髪巻き毛の言葉にぎょっとする。
な、なにそれ。
なんでいきなり、そんな話になるわけ?
そう思ったのはグレオスさんも同じだったようで、僅かに目を見開いた後、きゅっと眉を顰めた。
「何を馬鹿なことを。彼女は自分の世界に戻りたいと願っていたではないですか」
「聖女は誰だって最初はそう言うらしいよ? 伝承に残ってる。でもさ、結局は旅に同行した誰かと結婚してこの地で一生を終えたって記述になるじゃん」
「それは、そうですが」
「聖女だから邪険にもできないし、優しくしてやりゃあコロっといっちゃうんだろ。聖女に望まれたら断れる筈がないじゃないか、ゾッとするね」
その言葉に、私の心は完全に冷えた。
そうか、皆が優しいのは本意じゃなかったんだ……。
聖女だから、親切にしただけ。勘違いされるのも迷惑な話だと、そう笑っている奴と私は旅をしていたのか。
思えばこれが転機だった。
この瞬間、私から甘えの感情は完全に消えた。
話しかけられれば笑顔で答えるし、やるべき事はしっかりやるわよ。こちとらしっかり社会人だ、営業スマイルなんかデフォルトなんだよ。
さっさと旅を終わらせて、さっさと日本に帰ってやる!
私は心中で不満を吐き出しながら、そっとその場を後にした。