誰なの、あなた
「誰だ!」
アルバが颯爽と、私とその男との間に立ちはだかる。
ついさっきまでビクビクオロオロしていた人とは思えない、俊敏な動きだった。突然現れた得体の知れない穴は怖くても、突然現れたのが人間ならば、別に怖くないらしい。
「さっきまで、この荒野に人の姿なんて一切なかったんですけど。どうやってここに来たの?」
私の問いに、そのとぼけた声は「え? 転移」と事も無げに答えた。
「転移!? そんなばかな!」
驚愕の声をあげるアルバ。
無理もない。だって私が転移魔法の祝福を得た時、リーンから「魔術師にも神官にも、転移魔法を使える人なんていないよ。聖女ならではの神からの賜りものだと思う」と、聞かされていたのだ。
そんな、当たり前でしょ、みたいに言われても。
私だってもちろん疑問だらけだけれど、この男がどこまでもどこまでもだだっ広い荒野に突如現れたのも確かな事だ。
アルバの背中から顔だけだしてその男を凝視した私は、一瞬言葉を失った。
私よりも年下に見えるその青年は、うすっぺらくてヒョロヒョロの体に青白い肌、たぶん良くて手ぐしってレベルの跳ねまくった黒髪、そしてこの世界では見たことがない、黒縁のメガネをかけている。身長は170cmをちょっと出るくらいかなあ。いかにも魔術師系の人に見えた。
「あなた、何者?」
「むかーし昔は、賢者って呼ばれてたかな」
息を呑んだ。
今の時代に、賢者なんて呼ばれている人はいない。もしかして、私が痕跡を探していた、古の賢者……?
いやいや、そんなわけはない。
海の向こうの大陸の人に違いない。向こうは魔法が発達していて転移もふつうに使えるのかも知れないし、賢者だっているんだろう。文化レベルが高ければ、黒縁メガネも作れるだろうしね。
そう結論付けて、私は少し冷静になった。
……ていうか、むしろそれくらいすごいんだったら、この国の浄化を助けてやって、聖女召喚を防いで欲しかった。
他の世界の人にまで迷惑かかってるんですよ? あなたの国のせいじゃないけど。
やつあたりだって分かってるから当然口にはできなくて、複雑な気持ちで自称賢者さんを見上げる。
自称賢者さんは、私の腕の中の猫ちゃんとダンジョンの入り口を交互に見ながら、なぜか呆れたような顔をしていた。
「んもー、せっかく千年以上も封印されてきたのに、何ダンジョン復活させてるのさー」
「えっ!?」
「え、じゃないよ。このダンジョン出現させたの君たちだろ? 困るなあ、もう」
「いやいや、急に勝手にでてきたのよ、このダンジョン」
そう正直に申告したら、さらに呆れた顔をされた。
「君たちが獣王をその状態にしちゃったからダンジョンが出現しちゃったんでしょ! もう、何言ってんのさ」
サラッと、とんでもないことを言われた。




