絶対ソイツ、おかしいって!
アルバのいう通り、穴の入り口はとても巨大で、ヒトが三人ほどは横並びで入って行けそうなほど。とてもじゃないけどスコップで掘ったら出てきましたと言える雰囲気じゃない。
「うわーすごい。もしかしてこれ、獣王のお城に続く道だったりして。アルバったら何かスイッチでも押したんじゃないの?」
「俺じゃねえ。少なくとも、何か押したりトラップ踏んだ感じはねえよ」
うーん、なぜに急にこのダンジョンが現れたのか。さっぱり意味が分からないけど、とりあえずはラッキーだよね。いつ出てくるかわからない城跡をスコップで掘り当てるよりもずっといい。
でも土の中か、それは予想外だった。……入っていくの、ちょっと怖いかも。
穴の入り口をこわごわ覗き込む私の足を、なにかモフッとしたものが突然撫でて、私はびっくりして振り返った。
「おの……れ……! 入らせて……なるものか……!」
見れば猫ちゃんが、力が入らない前脚で私の足をぺしぺしと叩いてる。やだもう、可愛い。
「ていうか、やっぱり猫ちゃん、しゃべってる!」
「ひええ!? 怖えーよ! なんだソイツ、おかしい! 絶対おかしいって! フツウ砂幻豹はしゃべらねえから!」
ダンジョンは急に出現するわ、猫ちゃんはしゃべるわで、珍しく完全にアルバがパニックに陥ってしまった。
不思議な事に先に慌てられると妙に落ち着くものよね。まだマタタビが効いているらしくて腰がぬけた状態の猫ちゃんを、私はひょいと抱き上げた。
「あなた、何者?」
「うっわ、信じらんねー、触るなよ! そいつ絶対やべえって」
アルバったら思いの他チキンだな。こんなに可愛いのに。
「貴様に……名乗るような名など……!」
「ふーん、まあいいけど。猫ちゃんも一緒に来る?」
「おまっ……そんな気味悪いの、連れてくとか有り得ねえだろ! 喋るとか、絶対に魔物じゃねえか」
自分が言った言葉なのに、アルバは雷に打たれたように立ち竦んだ。
赤くなったり青くなったり忙しかった顔色は、急激に色を失ってなんだか白くなっている。そして、錆びた機械みたいにぎこちなく猫ちゃんを指差した。
「まさかソイツ、獣王じゃ……ねえよな?」
「まさか!こんなチビちゃんが獣王ってどんだけ可愛い魔王軍なのよ。だいたい 復活してるならとっくにしてるって言ったの、アルバじゃない。もー、何千年前の話だと思ってるの」
「はは、だよな。いや、焦った」
ふう、と息を吐いてアルバが額の汗を拭き取った。真面目に獣王じゃないかと疑ったらしい。
「ところがどっこい、そのマサカなんだなー」
いきなり、誰のものかも分からない、トボケた声が参戦してきた。




