持って帰っちゃいたい!
まさかこんな荒涼とした荒地で、これほどの癒しに出会おうとは。
可愛い。ひたすら可愛い。
さっきまで威嚇したり毛を逆立てたりと忙しかった猫ちゃんは、もはやマタタビっぽい植物にメロメロだ。一本だけ分けてあげたら、茎に体をすりつけたり葉っぱをチロリと舐めて見たり。
夢中なその姿がかわいくて、我慢できずにナデナデする。うちのスズちゃんもこうだったなあ。普段はクールであんまり撫でさせてくれないのに、おもちゃで遊び倒してあげると隙だらけになってモフらせてくれるの。
耳の後ろからほっぺた、首周りをぐりぐり撫でていると「うにゃあ~……」と抑えたような鳴き声をあげる。
やめてよう、と言いたげに前脚で私の手をどけようとするけれど、マタタビ効果か全然力が入ってない。
うりうり、とさらに撫でれば、ついにお腹をみせてしまった。
「あはは、野生の猫ちゃんのくせに、だめだなあ」
「おい、戯れるのもいい加減にしろよ」
「だって可愛くて。ああもう、持って帰っちゃいたい!」
喉のあたりからお腹にかけてをするりと撫でた時だった。
「ぐ……おのれ……」
どこからか、押し殺したような声が聞こえてきた。
「今、なんか、声聞こえなかった?」
「聞こえねーよ、いいからお前もそろそろスコップを持て」
「はーい。じゃあ猫ちゃん、またね」
両手両足をどーんと広げて大の字になっちゃっている猫ちゃんのお腹に「あげる」とマタタビをおいて、最後のひと撫でとばかりに喉のあたりをするすると撫でれば、猫ちゃん定番のゴロゴロゴロ……と喉が鳴る。
目を細めてトロンとした目になった猫ちゃんが「もう……ダメだ……」と呟いた。
「!?」
今、今、猫ちゃんったらなんか、しゃべらなかった!?
驚きのあまり、私はぺたんと座り込む。
「うわあっ!???」
なぜか後ろからも、アルバの叫び声が聞こえた。
切羽詰まったその声に、思わず振り返る。もしかして、猫ちゃんのご家族がご帰還あそばされたのかも知れない。
「大丈夫? アルバ……」
「ななななな、な、な、なんだコレ……!」
アルバらしくない慌てふためいた声。
アルバが指さす足元を見て、さすがの私もしばし声を失った。
なんだろう、コレ。なんか足元に、突如巨大な空間が広がっていた。
「え……なにこの洞窟っぽいの。ダンジョン感が半端ないんだけど」
「し、知らねえ。突然ぽっかり穴が開いたんだ」
尻もちをついた体勢のまま顔を青くしているアルバは、いつもの落ち着いた様子なんか微塵もない。
「ついさっきまで、掘っても掘っても土と砂ばっかりだったんだ。絶対こんな穴、急に出てくるのおかしいだろ!」




