それでも私は、帰る事を諦めない。
聖女を召喚するって事は、それくらいリスクが高いことなんだろう。
だって、リーンが前に言ってたの。
「お師匠様が聖女召喚の任についたのは魔力量の問題から言えば必然でした。でも……そうでなくとも僕か、お師匠様に白羽の矢が立っただろうとは思います。なんせ貧民の出ですから」
珍しく暗い目をして。
あの時は意味が良くわからなかったけれど、今ならわかる。
昔ほど潤沢な魔力量を持たなくなった今、聖女召喚は術者にも相当な負担がかかる。特権階級の人間や神官といった一定の権力を有した者たちは、よしんば能力があったとしても、もはや自ら危険を冒す事はない。
リーンはそう言いたかったんだ。
役目を押し付けられる誰かを探して、自分たちは高みの見物。まったくいいご身分だこと。
今思えば、リーンは最初から私に同情的だった。クルクル金髪巻き毛の暴言に怒り、ダメダメ第二王子の時に冷徹な判断に憤っていた。
あれはきっと、お師匠様が無茶な召喚をさせられて、結果昏睡状態のまま王城に臥しているからこその、割り切れない思いがあったんだろう。
「そんな顔すんなって。リーンは大丈夫だ、お前を日本に返す方法も、お師匠さんを助ける方法も絶対に探し出すって息巻いてたから」
「……そうね、期待してる」
本当に、少なくともお師匠様を助ける方法が見つかるといい。それにリーンがその方法を探すために、心折れずに頑張れる事だってとても大切な事だ。
でも、正直私を日本に返す方法についてはあまり期待できないと感じていた。たとえ方法を探し出せたとしても、それは実行するのが難しいんじゃないだろうか。
聖女を召喚する。
それだけでも、この国で一番の魔力量を誇る魔術師が命を落としかけている。そんなリスクのある方法しか伝承されていないわけだ。あの日、あの時、あの場所に私を戻すなんて、召喚するよりも絶対に難しいだろう事……絶対に死人が出るでしょ、それ。
「お前なあ、期待してるって顔じゃねえぜ」
「正直言うと、日本に戻してくれる方法については期待できない」
はっきりと口にしたら、アルバは逆に言葉に詰まってしまった。右手で顔を覆って天を仰いでから、「頼むから、もうちょっとリーンを信じてやってくれ」と苦い顔。
「あいつ、本当に責任を感じてるんだ。お師匠さんが召喚したんだから、自分が責任もって送り返すんだ、ってさ。自分が方法を見つけるまで、傍でお前を守ってくれって土下座された」
「土下座……リーンが?」
「ああ、まあそれがなくても、俺はもともとお前を探すつもりだったけどな。どうせ日本に帰る方法探してるんだろ? お前無茶しそうだし」
「よく分かっていらっしゃる」
褒めたのに、アルバは腕組みして私を胡乱気に見ている。
「別にリーンを信じてないわけじゃないの。ただ、術者の命を粗末にしそうな方法しか残されてなさそうだなって思っただけ」
「それは……」
「だから私は私で、他に帰る方法がないか探そうと思ってるの。アルバが協力してくれるなら好都合だわ」
私は、にっこりと微笑んだ。
「実はひとつ、当てがないこともないの」




