もう用はないでしょう?
「まあいいじゃない。考えてもみなよ、ここにはこの国で最高の男達が揃ってるんだ、そう悪い話じゃないんじゃない?」
クルクル金髪巻き毛が指し示すのは、浄化の旅を共にした仲間達。
騎士団一の実力者だという精悍な騎士グレオス、高名な魔術師だけどまだ幼さの残る可愛いリーン、そしてトップクラスの冒険者だったアルバ。
「君は世界を救った聖女なんだ、誰も嫌だなんて言わないし大事にするさ。安心して選ぶといい」
王の御前で顔を上げる事をまだ許されていない三人の表情を窺い知ることは出来ないけれど、彼らをこんな茶番に巻き込むなんて考えたくもない。
望んでもいない結婚を強いるなんて、さすがにそんな趣味ないわよ。
「さすがにルッカス様と結婚するには君は品が無さすぎる。なんなら僕が結婚してやったっていいけど」
「ロンド! なんという……もういい、お前は下がっていろ」
ルッカス様が慌ててクルクル金髪巻き毛を諌めるけれど、もう遅い。
プチン!と私の中の何かが切れる音がした。
「ふざけんな……」
「え? なんか言った?」
キョトンとした顔で、クルクル金髪巻き毛が問う。その顔が、さらに私の神経を逆撫でした。
「ふざけんなって言ったのよ! あんた達の中のだれかと結婚するくらいなら、ドラゴンの口に身投げした方が万倍いいわ!」
怒りで沸騰した体は、急にシャキンと元気になった。素早く立ち上がった私は、腹立ち紛れにサークレットをクルクル金髪巻き毛に思いっきり投げつける。
いつだったか「僕らと一緒にいる癖にみすぼらしい格好、やめてよね」なんていうイヤミとともにつけさせられた屈辱の一品だ。こんなもの、もう一瞬たりとも身につけていたくない。
「痛たっ! 何するんだ!」
声を荒げたクルクル金髪巻き毛が、飛んできた物体を目にして僅かに息をのんだ。
「これは」
「返すわ。これも、これも。もう要らない」
ルッカス様に貰った髪飾りも、騎士のグレオスに貰ったチョーカーも、この謁見のために飾り付けられた似合わない飾りも全部、全部投げ捨てる。
王の御前だとか、そんな事ももう関係ない。私は完全にキレていた。
「待て、キッカ! 話を聞いてくれ!」
「キッカさん、違うのです! 私は」
「おい、俺も……!」
一緒に旅した男達が口々に何か言うけど。
うるさい、もう誰の声も聞きたくない。
さすがにドレスと靴は脱げないけど、不要な物を脱ぎ捨てて随分と私らしくなったじゃない。せいせいしたわよ。
「さよなら。もう用はないでしょう?」
その一言だけを残し、私は転移魔法でその場を瞬時に立ち去った。