軟禁されたんだけど
そんな啖呵を切ったその夜、私は領主様の館の二階にある一室に閉じ込められていた。
お風呂もトイレも完備の部屋にぽいっと押し込められて、窓の外には騎士グレオス、扉の前には冒険者アルバが構えているという軟禁状態。
今夜はここで一泊して、明日の朝から王都に向けて旅立つんだってさ。ホント領主様にはいい迷惑だ。本当に申し訳ない。
「リーンの封呪で転移は出来ないはずだし、部屋から一歩でも出たら僕わかるから。諦めてゆっくり寝るんだね」ってクルクル金髪巻き毛に拗ねた目で見られたけど、もちろん黙って朝を待つ気なんてない。
確かに転移は何度試みても不発だけど、この部屋から隙をついて逃げる事なら、できなくはない筈だ。
私は、じっとチャンスを狙っていた。
下手に動けば警戒を強められる。ここぞという一瞬以外に相手に不信を抱かせないようにしないと。
外からは見えない角度で窓に近づき、カーテンの陰を利用しながら窓の下を見下ろす。月明かりの中でグレオスが一心に私がいる部屋を見上げているのがはっきりと見えた。
逃げるなら窓からだろうけど、グレオスの目を盗んで、ってのは骨が折れそう。もう見つかるの前提で逃げ切る方法を考えた方がいいだろう。足の速さや体力はこっちが下でも、この三か月で町の地理には自信がある。
逃げ切れる可能性はなくはない。
窓の外で一心にこっちを見上げている無骨な姿を見ながら、私は昼にグレオスから言われた言葉を思い出していた。
なんとか言えとキレた私に、グレオスは思いもかけない言葉を口にしたんだ。
「俺は……」
噛みしめるようにゆっくりと。
「俺は、キッカが俺を選べばいいと思っている」
「え」
「キッカはずっと日本に帰りたがっていた。だから言わなかったが、本当はずっと、キッカがここに残ればいいと思っていた」
「なにそれ」
「キッカを妻にするチャンスが自分にもあるのなら。そう思ってこの旅に同行した」
そんな風情、旅の間微塵も見せなかった無骨な男が、つっかえつっかえ言う言葉は、演技なのか本心なのか経験値の低い私には見分けられない。
「すぐに決めてくれとは言わない、真剣に、考えてみてはくれないだろうか」
私がどう返せばいいのか分からずに言葉を失っているところに、別の声が畳みかける。
「キッカ、ここに来てるやつらは皆そうだ」
「アルバ」
「グレオスに先こされちまったが、俺やリーンだってお前と運命を共にする覚悟で来てるんだ。ゆっくり考えてみるといい」
「いやいや、あんた達ホント、もうちょっと自分の人生ちゃんと考えた方がいいよ? 言われるとおりに結婚したって後で絶対後悔するって」
アルバがいつもみたいに軽い調子で割って入ってくれて、あたしはやっと声が出た。いやあ、びっくりすると喉って詰まるんだね。
「君の転移の祝福はリーンにずっと封じて貰う。王都まで帰るのにまた数か月はかかるだろう。道中たっぷり考えて、結論を出してくれ」
うん、ダメダメ第二王子。でもね、答えはもう出てるの。
私は、王都には帰らない、日本に帰るんだって。
そんなやり取りをぼんやりと思い出していたあたしの耳に、控えめに扉を叩く音が聞こえた。
こんな軟禁状態の私の部屋に、訪ねてくる人って……誰?
扉の外には、アルバだっている筈なのに。




