知らないわよ、そんなの
クルクル金髪巻き毛が出て行った後の応接室は、なんとなく沈黙が重い。その沈黙を破るように、第二王子が小さくコホン、と咳をした。
「ロンドの名誉のために言わせて貰うと、彼はちゃんと浄化の旅の間中、君をしっかりと守っていたぞ」
「はぁ……そうですか」
「ロンドは結界師なんだ」
「結界師?」
そんなの、聞いた事ないけど。
「危機的な状況は山ほどあったが、それでも君は旅の間、ほとんど怪我をしていないだろう。それはロンドが君に、刃も魔法も届かぬように結界を張っていたからだ」
「えっ…」
「あまり離れ過ぎると効果を発揮できない、だからロンドはいつだって君の側にいた筈だ」
居た。
確かにいつも側にいた。
アンタもたまには戦いなさいよってメッチャ思ってた。
「一度結界をはると解除するまで結界師はその場を動けない。ゆえに、一番危険なのは身を守る事も出来ない結界師だ。まあ、だから私が常に側で防御にあたっていたわけだが……不測の事態があれば、私はロンドを見捨てて君を守っただろう。何よりも優先されるのは聖女の命だからね。結界師とは、そういうものだ」
なるほど。聖女が死んだらはい次、って異世界からまた召喚するわけにはいかないものね。それは必然的にそうなるだろう。
そんな役割をあのクルクル金髪巻き毛が担っていたなんて、考えた事もなかった。まさか、守られていたなんて。
でもさ。
「そんなの、今初めて聞いたわよ……!」
「そうだ、キッカに説明していなかったのはこちらの落ち度だ。だが、ロンドとてそれだけの覚悟で君を守ってきたんだ。あれでは……さすがにロンドが不憫だ、あそこまで落ち込む姿は私でもそうは見ない」
そう言われて、私は逆に、急に腹が立ってきた。
「何よそれ、私が悪いって言いたいの? 謝れとでも?」
冗談じゃないわよ! そんな説明、一度たりとも受けた事はない。結界師、なんて仕事がある事すら今知ったというのに、責めるような顔をされる謂れはない。
勝手に召喚して、勝手に命をかけて守ってるんだから、もっと感謝しろって?
ホント、最低。
「いや、そうは言っていないが」
「じゃあ何? もうさぁ、いいから早く用件言ってよ。私だって我慢の限界なんだけど!」
苛立ちを隠しもせずに単刀直入に切り込んだら、第二王子はあからさまにウッ……と唸った。
「そのように怒り心頭な状態の君に話すのは、その、非常に気がひけるんだが」
「時間が経つほど怒りが倍増しなんだけど」
もはや敬語すら使う気になれないしね。王城から転移で逃げたあの日から、怒りが増す事はあっても減る事はない。あんた達権力者のどこまでも身勝手なやり方、本当にうんざりなのよ。
「分かった、用件はひとつだ」
大きく息を吸って、覚悟を決めたように、ダメダメ第二王子は切り出した。
「私達の中の誰かと結婚して欲しい」
「ふざけんな」
スゴイ、頭がダメダメ第二王子のアホ発言を理解する前に、口が勝手に答えてたわ。