関係ないでしょ!
心の高揚が身体にも伝わって、私は知らず第二王子の方に一歩足を踏み出していた。胸はドキドキ、体温も一気に高まった。多分目もキラキラだと思う、今ならば!
「そ、そんな期待に満ち溢れた顔をしないでくれ……」
心底気まずそうに目を逸らされる。
……そっか、そうだよね。期待した私が馬鹿だった。
「じゃあ何なのよ、もう用はないでしょ。ちゃんと浄化は終わったんだし」
「何言ってんのさ……」
不機嫌丸出しでフン!と鼻をならせば、どこからか私よりもさらに不機嫌な声が小さく響く。声の出どころを探して振り向けば、クルクル金髪巻き毛のつむじが見えた。
なぜか一心に床を見つめている様子で、顔は見えない。特徴的なクルクル金髪巻き毛だけが神々しく光っている。こいつの本体、もうこの光り輝くクルックルな金髪巻き毛なんじゃないだろうか。
なんだか知らないけどヤツは両の拳を固く握り締めてプルプルプルプル震えている。つついたら面倒が起こる予感がしたから、私はさりげにスルーする事にした。
「早く用件言ってよ、私こう見えて忙しいの」
「何? 優秀な冒険者だから、とでも言いたいわけ?」
せっかくスルーしたのに、クルクル金髪巻き毛が床を見つめたまま会話に参戦してきた。あんたが話すとイラつくから、ちょっと黙ってて欲しいんですけど。
「別にいいでしょ」
「バカじゃないの!?」
キッ! と顔を上げて私を睨みつけるその目には何故か涙が盛り上がっていた。
なによ、何泣いてんのよ、私が逃げたからおとーさんから怒られでもしたのか???
初めて見る泣き顔に若干動揺してしまったが、落ち着け、私。考えてもみてよ、私が申し訳なく思う必要なんか小指の爪の先ほどもないよね? そう、これは放っておいていい案件だ。
私が自分を落ち着かせようと努力しているというのに、敵は攻撃の手を緩めない。
「バカじゃないの? 何でこんなに傷だらけになってんだよ!」
あっと言う間に間合いを詰めてきたかと思うと、私の腕をグイッと掴んであっちこっちにあるかすり傷だのささいな切り傷だのをあげつらう。
「ちょっと! 触らないでよ!」
「ここも! ここにもある!」
「別にこれくらいの傷、かすり傷じゃない!」
「僕が側にいれば傷ひとつつけてない!」
怒り心頭、といった風情で鼻息荒くそう言い切ったクルクル金髪巻き毛に、私はもう驚いて寸の間声を失ってしまった。
「……守って貰った覚え、ないんですけど……」
「はあ!?」
口からポロッと本音が転がり落ちた途端、クルクル金髪巻き毛の顔が鬼の形相になった。
ちょ、怖い。
性格はどうあれ、顔だけは天使みたいなんだから、そんな表情はしたらイカンと思うよ?
勿論口には出せないので、心の中で助言しておく。私の心が通じたのか、クルクル金髪巻き毛は吊り上っていた眉毛を急にションボリと下げた。
な、なによ。なんでまた泣きそうなのよ。ちょっと情緒不安定過ぎない?
「……これだから、無学な女は嫌なんだ……」
水をかけられた猫みたいに背中を丸めて、トボトボと部屋を出ていってしまった。
だからさ、なんなのよ!