情報をコツコツと集めた数か月。
そんな仮説を立ててから、早三ヶ月……いや、もっと経ったのかな。
認識阻害の魔法を駆使し、私は聖女だとバレる事もなくこの港町ルディで、名の知れた冒険者『キー・セイバル』として活躍していた。
依頼を片っ端からこなしてランクアップと賞金稼ぎに勤しみつつ、空いた時間でこの町のご老人達のよもやま話にお邪魔する。今ではあっちこっちのおじいちゃん、おばあちゃんに『きーちゃん』の愛称で呼ばれ、通りかかるだけでおやつを貰えるくらいの人気だ。
超、楽しい。
もちろんただお話を聞くだけではない。ご年配の皆さんはなんせ言い伝えや伝承にお詳しい。私が知りたい賢者の伝承や、この国の成り立ちや魔王城の事など、民間に伝わる話を聞くには町の人々のお話を直に聞くのが一番なのだ。
そうして地道な情報収集を行う一方で、冒険者としてとにかくたくさんの依頼をこなしたのには、いくつかの理由がある。
まずひとつめは、ランクがB以上になれば、より高位の魔術師に師事することができる事。上位の魔術師のお師匠様、そのお師匠様とたどれば、王家のお抱えではないかなり高位の魔術師に師事できる可能性がある。
ふたつめに、ギルドの信頼を得ることで、ギルドに秘蔵されている文献を閲覧させてもらえる可能性がある事。
そしてみっつめに、領主様からの依頼を何度もこなすことで懇意になれば、書庫を見せてもらえる可能性がある事だった。
この三か月、領主様もしくはそれに連なる方々の依頼案件は率先して受けまくってきた。病弱な娘さんがおいでになるというのに懐具合がかなり厳しいらしい没落気味の領主様からの依頼は、難易度の割に礼金が少なくてぶっちゃけギルドでも不人気だったのだ。
おかげさまで私はさほどの苦労もなく領主様の依頼を入れ食い状態で受けることができている。近頃では今の私の冒険者名で指名依頼を頻繁にくれるレベルになった。
今日はその伝手で、ようやく領主様の館の書庫を見せていただく運びとなり、私はもう、朝からウキウキがとまらない。礼金の代わりに本が読みたいと申し出たら、逆にものすごく喜ばれてしまった。
娘さんの病気に聞くという薬草の中でも、品質が良く新鮮なものを厳選し、お土産に用意して、私は弾むような足取りで領主様の館に向かう。
なにか賢者様や送還に関する文献が出てくるといいな。
「君がキー・セイバル君かね?」
領主様の館に到着したら、なんと領主様と奥様が、直々に出迎えてくださった。
一年以上前、まだ聖女として浄化の旅を続けていた頃に、一夜この館にお世話になったことがある。その時、私達を手厚くもてなしてくれたのは、もちろんこの領主様達だった。
素朴だけどとても美味しくて暖かい料理と、心のこもったおもてなしをしてくれた事を覚えてる。あの頃は、こんなに領主様が財政的に困窮しているとは思っていなかったんだよね……。なんだか申し訳ない。
複雑な気持ちでいたら、領主様も驚いたような顔で私を見ている。




