獣王ハクエンは絶対に屈しない!⑪
「そうだとしても、ちゃんと約束してくれなきゃ魔王の元へは連れて行かないよ。どう、ハクエン、約束できる?」
腐れ賢者の黒い瞳に吸い込まれそうな、眩暈を感じるような、そんな奇妙な感覚がふと起こった気がして、慌ててオレは視線を逸らす。
なんだ、今の変な感じは。
「しつこい……」
「約束、できる?」
せっかく逸らした顔をグイと掴まれ、ヤツは強引にまた目を合わせてきた。
なんなんだ、この腐れ賢者。死ぬほどうっとうしい。なんとか顔を逸らそうとするが、ヤツはもやしのように細い腕の癖に、意外と力が強かった。
静かな攻防戦のあと、俺は結果的に、折れた。
「わかった……約束、する」
その途端だ。
眩い光をがオレを襲う。
黄色い光がオレを中心に不思議な文様を描き出し、ついには魔法陣の形を成していく。ギュルギュルと音を立てて高速で回りはじめたその魔法陣は、気味の悪いことになんとオレの体の中に吸い込まれていった。
「ななななな……何? 今の、何!?」
聖女が大声を上げているが、叫びたいのはオレの方だ。
「き、貴様! 貴様! また、たばかったな!」
腐れ賢者め!!!!!
いったい何をしでかしおったのか!
「君は千年たっても学習しないねー」
へらへらと笑っているが、そういえばそうだった!
そもそもこやつらに敗北した時も、こやつが何やかやと挑発してきて、それに迂闊にも反応してしまったがために動きを囚われてしまったのが敗因だったのだ。
くそう!
くそう、こやつはそういう、卑怯極まりないヤツだったのだ! 千年もたっていたばっかりに、細かい事は忘れていた自分が憎い。
腐れ賢者が、ニヤニヤと気味の悪い笑いを浮かべながら「ハクエン、おいでー」などと両手を広げてみせている。
ふざけるな、貴様! 腐れ賢者などに呼び寄せられる謂れなどないわ!
そう思うのに、なぜかオレの脚は、じりじりとヤツのほうへ近づいて行ってるではない。
なんたることだ、なぜ体がいうことをきかぬのだ……っ!
「くそう、くそう、貴様……っ」
「おおー、効いてるねー。思ったより効果が強いのは、ハクエンの魔力がガッツリ落ちてるからなのかな?」
最悪だ。なぜこやつに自ら近づいていかねばならぬのだ。悔しくてもはや涙目だ。
「あんた、えげつない事平気でするよな……」
聖女の従者にまで、憐れまれてしまっている。情けない……もう、耳もしっぽもダランと力なく垂れていくが、気落ちするのをとめられない。
千年以上生きてきて、こんなに悲しい気持ちになったのは初めてだ。
ついに腐れ賢者の足元までたどり着いてしまったオレは、それはもう軽々と抱き上げられた。楽しそうに笑った腐れ賢者が、「モフモフかわいー」と小さく呟く。
オレの全身に、怖気がはしった。
必死で暴れるオレを片手で確保し、腐れ賢者が毛並みをよしよしと撫でていく。
最悪だ。こいつ、意外にも聖女レベルに動物好きらしい。知りたくなかった、そんなこと。
「しょうがないでしょ、従魔としての契約をしない以上、さすがに獣王を野放しのまま魔王の元へ連れて行くのは僕も気が引けるからね。とりあえず言葉で呪をかけさせて貰ったまでだよ」
従魔にされなかったことに、とりあえずは安堵を覚えた。
それならば、まだこの呪縛から抜け出す機会もあるというものだ。この腐れ賢者め、一度ならず二度までも、俺をたばかってこのようなチンケな術で拘束するとは。
いつか、目にものみせてくれる!
オレは、モフモフと撫でられながら、心ひそかに誓った。
絶対に、絶対に、オレは屈しないからな!!!!!
ハクエンちゃんのターンはここまで!
また思いついたら他の視点書きたいと思います。
書籍と電子書籍が出てそろそろ三週間以上経ったでしょうか。特に電子書籍はアルバ視点のSS付きなので、良かったら購入してくださいませ(ストレートに宣伝)
読んでいただきありがとうございました(^^)




