さて、何から手をつける?
キッパリとそう言い切ったら、ヴィオは一瞬目をまんまるに見開いて、その後景気よく大笑いしてくれた。
「あっはっは! アタシ、あんたのそーいうトコ好きだよ。なんかこう、挫けないよね!」
そりゃそうよ、よく考えたら誰も日本に帰る方法なんて教えてくれるわけでも考えてくれるわけでもないんだから、自分で探す他ないじゃない。きっとあいつらにとって不都合だから伝わってないだけで、帰る方法はきっとある。
「でもさ、さっき帰れる見込みはゼロだって言ってただろう? 無一文でどうするつもりさ」
ヴィオが頭を捻る部分は、実際そのとおりだ。
「うん、まずは情報収集だよね。今のとこ手がかりなんかないんだもん。ってわけで、しばらくはギルドに登録してお金を稼ぎながら……賢者を、探そうと思うんだ」
この世界には、基本的にいつだって魔獣が跋扈している。魔が増大し、膨れ上がり、土地が病めば魔獣の数は劇的に増大していき、やがては魔を統べる王が誕生するのだと、伝承に詳しいクルクル金髪巻き毛が得意げに語ってくれたことがある。
魔王が誕生しないよう、その前に魔を浄化し勢力を削ぐのが聖女の大きな役目なんだって。
もしかして、魔王が誕生しちゃったら、勇者が召喚されるんだろうか。
そっちの方がよっぽど痛くて大変そうだから、無事に魔を浄化出来てよかったとは思うけれど、それでも一定の魔獣は今もしっかりと存在するのだ。それを根絶やしにするのは、なかなかに難しい。
この大きさの港町だ、確実にギルドが存在するだろう。
この二年間の旅の中で、それなりの戦闘力は培ってある。ギルドでもそこそこの働きはできるに違いない。
「ば、ばか言ってんじゃないよ! あんた自分がどれだけ有名人かわかってんだろ!? ギルドなんかに行ったら、一発で王家に早馬が飛ぶよ!」
「あー、それね」
へへ、と私は照れ笑いした。
「さっきはさぁ、なんか混乱しててすっかり忘れてたんだけど、私、認識阻害の魔法が使えるの」
「へ?」
「私だって認識できなくなる魔法、使えるから大丈夫」
ついでに言うと、転移が使えるのも私だけだ。そして足りない身体能力を補うための「身体強化」、この三つの魔法は、旅の中で獲得した聖女専用の特殊魔法だったりする。
「はぁ……聖女ってやっぱ、すごいんだねえ」
「褒められた」
「冗談言ってるわけじゃないんだよ、まったく。でも、そんなら大丈夫なのかねえ」
「大丈夫でしょ。それに、奇遇な事に、この町って確か、賢者の噂がなかったっけ?」
「あんなの、古い言い伝えだろう」
そんな話を信じているのかとでも言いたげな、困惑顔のヴィオ。
でもね、私はそんな言い伝えでも信じたくなるくらいには、結構ヘヴィな状況なんだよね。




