嘘でしょう?
「帰れない……? 帰れないって、どういう事?」
私は、呆然と呟いた。
「嘘でしょう? だって浄化が終わったら、私が召喚されたあの日あの瞬間に戻してくれるって言ったじゃない……!」
入社三年目にして初めて任されたプロジェクトが完遂し、安堵と嬉しさをかみしめつつ帰宅していたあの帰り道。なんの脈絡もなしに周囲が光ったかと思ったら異世界に召喚されていて、恐怖と混乱で泣いていた私に、皆そう約束したじゃない。
だから私、死ぬ気で頑張ったのよ?
聖女として魔に侵された土地を癒し、魔物を屠り、何度も死にかけてやっとやっと全ての穢れを浄化した。
それもこれも、聖女としての役目を全うしたらちゃんと日本に、私の世界に戻してくれるっていう約束だったから。
なのに。
今更、戻せないなんてそんなバカな話がある筈ない……ねえ、嘘でしょう?
二年にも渡る長い長い旅を終えて、やっとこの王都に戻った。凱旋も祝賀会も言われるがままにこなして、ようやく日本に戻れると思ったのに。
王城に呼ばれ嬉々として御前に参じた私に告げられたのは「すまない、キッカはもう日本には帰れない」なんて、笑えるセリフだった。
あまりのショックに足の力が抜ける。
ヘナヘナとその場に崩れ落ちた私に、神官長の重々しい声で無情にも真実が告げられた。
「嘘ではない、そもそも異世界から聖女を召喚する術は伝承されていても、送還する術など伝わってはおらぬのだ」
「どうして……だって。戻してくれるって。あれは嘘、だったの?」
信じたくなくて、バカみたいに繰り返した。
王も、神官長も、宰相や騎士団長ですら、苦い顔で口を開こうとしない。
私が召喚されたあの日、「時間がない、護身のすべは道中でこの者達に習え」なんて、死ねと言っているようなセリフとともに、数人の若者を護衛につけて浄化の旅なんてものに送り出したこの国の責任者達。
その上此の期に及んでダンマリを決め込もうと言うのだろうか。
「そりゃそうでも言わないと、命がけで聖女なんて誰もやらないからじゃない?」
共に旅に出た、クルクル金髪巻き毛がめんどくさそうにそう言った。
「それにしてもキッカって本気で元の世界に戻る気だったんだねえ。まあでも今までの聖女達は旅が終わったら皆結婚して子供を産んで、この世界で幸せに暮らしたんだっていうよ? キッカもそうすればいいんじゃない?」
人ごとみたいに、さもどうでもいいみたいに。いや、確かにこいつにとってはどうでもいい事なんだろう。
「ロンド! その言い方はないだろう。……キッカ、その、なんと言っていいのか……すまない、謝って済む事ではないと分かってはいるが」
第二王子のルッカス様が真摯な口調で謝罪した。
貴方に謝られても。貴方だって知らされていなかったんでしょう? さっき私と同じくらい驚いていたくせに。
そう、きっと私と一緒に浄化の旅にでたメンツは知らされていなかったんだ。
宰相の跡取り息子だっていうイヤミなクルクル金髪巻き毛も知らなかったみたいだし、第二王子であるルッカス様すら知らなかった。他の三人だって知らされていた筈がない。