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化け物の子

彰は翌日、酒場で情報を集めていた。

そのなかでも興味深いものが1つあった。

「最近見つかった難関ダンジョンで女の子が1人で戦っているところを見たって」

「でも、あそこって1体の報酬は美味しいけど10人近くでやっと1体倒せるぐらいって…」

「割りに合わないよな…防具と武器の修理代もバカにならないのに、1体倒して1/10の報酬だぜ」

「ガセネタじゃねーのか?」

興味が湧いた。

この世界にそんなに強いやつはそういない。

「これはチャンスかな」

『行くのですか?マスター?』

頭に直接話しかけるのは昨日の夜、俺が呼び出したグリモワールだ。

(強いやつがいると聞いたら黙っていられる俺じゃないのさ)

『マスターに勝てる相手などこの世にいないと思いますが…』

(さぁ、分からないぞ?あくまで俺は『死なない』だけであって、『負けない』とは訳が違うからな)

『?仰ってる意味が分かりません』

(嫌でも分かるときがくるさ)

俺は酒場を後にした。


さて…噂の難関ダンジョンに着いたが…

「噂通りだな、モンスターの気配が強すぎて奥が見えねぇ」

『マスター、大丈夫ですか?』

「問題なし、とは言えねぇな」

ダンジョンに足を踏み入れた瞬間…

飛び出してくる影が2つ。

「おわっと!」

避けて相手を確認する。

「…っ!」

一気に頭痛が来た。

目眩もする。

「くそっ…毒?」

スキルを発動してもなおる気配がない。

つまりこれは毒じゃない。

洞察スキルをしようにも相手を見れない。

…見れない?

『マスター!相手の目を見ないでください!精神障害が発生します!』

「san値減少か…」

そういえば昔してたTRPG(分からない人はネットで調べてね)であったな…

「どんだけ意識強く持っても…ダメだよな…ゲームみたいに上手くいかねーか‼」

ただ相手を見れないのは痛手だ。

なら…‼

「コマンド、エリアウィンドウ‼」

範囲攻撃で迎撃するしかない。

気配察知も1体の気配が濃すぎて位置まで分からない。

「グリモワール‼」

『ラジャー!マスター!』

グリモワールが開く。

『ホーリーレイン』

本から光の矢がうち上がり、そして降り注ぐ。

「clock up!」

自身の感覚を研ぎ澄まし、矢を避ける。

相手は粉微塵になって消えた。


「うーわ…こんなやつがごろごろいるの?ここ…」

『先程の精神異常を引き起こすような個体は稀だと推測します』

「あんだけsanチェック入ったら持たねーわ」

冗談抜きで狂うかと思った。

自分を見失いそうになる…そういった意味では死ぬと変わり無いことを自覚した。

「…あんまりこの世界は甘くないな」

先程倒したモンスターからのドロップを確認する。

「…なぬ‼」

そこにはとんでも金額が記されていた。

「確かに報酬は美味しいけど…命がけなら割りに合わないな」

こんなところに女の子がいるのかと考えた始めたそのときだった…

「…噂は本当だったみたいだな」

ダンジョンの奥から歩いてくる人の気配。

モンスターの気配より大きいから嫌でも気づいた。

「さっきは見えなかったんだけどなぁ…」

そろそろ視界に入る距離になった。

そこにいたのは…

「…子供?」

容姿は金髪のツインテール、胸は大きいとは言えない。むしろ小さい。

褐色の小さい体に明らかに違和感があるところが2ヶ所。

まず体の大きさに合わない大きな鉈。

いったい何匹殺したのか分からないくらい血に染まっていた。

もう1つは…目だ。

片眼は青く、もう片眼は赤く光っている。

「中二病がうずく姿だな」

冗談を放った瞬間だった。

そこに姿はなく反応が完全に遅れた。

気付いたときにはもう鉈は喉元の前に…

「…っ!」

その瞬間彰の姿も消える。

いや、消えたように見えただけだ。

「自動発動、clock up。長くは持たないけど一撃分ならよけれる」

しかし自動発動にも再発動時間がある。

世界調整は便利であっても万能ではないのだ。

「妙にこの世界は厳しいところを突いてくるな」

もどかしいこの能力の繊細さ、そしてその繊細さによって彰は1度死ぬほど痛い目に遭っている。

冗談ではなく物理的にである。

「…にしてもclock upでギリギリか、ふざけたスピードだな」

相手は避けられたことによって警戒して突っ込んでは来ない。

『マスター、相手は能力によってスピードを上げていると推測します。恐らくマスターと同じ覚醒系の技かと』

「まぁ、そうだろうな」

『そして、失礼ですがマスターより上手かと』

「まぁ、そうだろうな」

世界調整は技を発動することは可能だ。

それが使えるはずがないものであっても。

しかし、完璧な訳じゃない。

使い慣れをしていないのと、彰自身の力が純粋に足りないのだ。

よって不完全な技を発動しているにすぎない。

そうなれば必然的に起こることがある。

「…っ!」

彰は悲鳴を上げそうになるのを堪えた。

気がつけば相手の鉈が左肩を捉えている。

抉り込むように、深々と。

「人…憎むべき、存在!」

少女は殺意むき出しに声を放つ。

しかしこの状況こそ彰は待っていた。

「…痛ぇ…でも」


「止まったな?」


瞬時に相手の情報を読み、分析する。

完全解読。スキル看破。

相手の発動スキル…スピードアップ。

「純粋に早くなる能力か…なら!」

魔力をありったけ込めた一撃を腹部に打ち込んだ。

常人なら意識を失う一撃だ。

しかし…

「なんの冗談だ…」

少し距離を離せただけで少女はピンピンしている。

「スキルを使った痕跡は無いな…あんなか細い体で耐えたのか?」

『いえ、マスター…いくらなんでもそれはあり得ません。恐らくはあのペンダントかと』

「ペンダント?」

少女の首もとにペンダントがかかっている。

解析スキルを1度使っているため見るだけで情報が抜き取れる。

「聖力の首飾り…めんどくさい能力装備だな」

聖力の首飾り…相手のダメージを10秒間無視することができる。

再発動時間…10秒。

「つまり再発動10秒間の間にダメージをとらなきゃ意味ないってか?」

『yes』

「壊すか…?」

その発言により相手の逆鱗に触れた。

「こわす…?させない‼絶対‼」

少女はまた見えない速度で突っ込んでくる。

しかし、1度見てしまえば彰には通用しなかった。

「hold」

コマンドを唱える。

その言葉からわかるように少女はその場で止められた。

「…!」

「down」

少女は地面に叩きつけられる。

「10秒間ならダメージが入らないんだろ?」

地面から必死に立ち上がろうとする少女。

彰はまだ不完全な能力。

しかし、10秒間は止められるはずだ。

「10秒…死ぬ気で攻撃し続けてやる」

彰は知っている。

ダメージが入らなくても…

痛みは存在することを。

「clock up」

彰は力尽きることを惜しまずに発揮する。

少女が痛みを自覚したときには…

その小さな体に10秒という時間の間に100を越えるの攻撃が叩き込まれた。

叫ぶこともできない。

見ることもできない。

あるのは痛み。

苦しみ。

絶望。

そして10秒がたったそのときには少女は意識を失っていた。

「…ゲームも同じだけど、チートはなるべく控えよう…」

そう独り言を呟いた彰は少女を抱えてダンジョンを後にした。


夢を見てた。

母親と一緒にご飯を食べてる夢。

散歩してる夢。

毎日が幸せだった。

ただ、その夢は父親が壊した。

「お前は化け物だ!俺の子供じゃない!」

そうして父親は村全体の人を呼んで母親と私を追いやった。

元々母親は体が弱かったため遠くに逃げることも叶わなかった。

「私は…いい…逃げなさい」

「ママ…!ヤダ…!」

「行きなさい!生きるのよ!」

「ママ…!」

「ママは大丈夫…生きてたら…また会えるわよ」

母親は自分が持っていたペンダントを少女の首にかけてあげた。

「お守り…大事に持ってなさい。さぁ…行くのよ!」

「ママ!ママ!」


少女は目が覚めた。

下はフカフカした物が敷いてある。

昔使っていた布団を思い出す。

少女は気づいた。

母親にもらったペンダントが無いことに。

「探してるのはこいつか?」

声をかけてきたのは先程戦っていた男だ。

「…!かえ…」

と言ったところで男はペンダントを差し出してきた。

「お前の夢…覗かせてもらった。母親から貰ったペンダントか」

「‼」

「村を追いやられて逃げて生きてきた結果があの強さか…いや、違うな」

男は少しためてから話した。

「お前は元々魔力が高かった。それは母親譲りだったんだな」

この男…何故…知っている?

「その目…戦っているときに片方が赤く光っていた。そして母親も同じだった…お前ら魔族のハーフだろ?」

「‼」

「図星か…」

「人間…嫌い…‼」

「だろうな、見ててわかった」

「弱いくせに…‼数多いだけ…‼」

「そうだな」

「お前ら…‼消えろ…‼」

少女は涙ぐんで叫ぶ。

それに彰は答えてやる。

「なら、お前に勝った俺はもっと化け物だな」

彰はただ真っ直ぐ少女を見る。

「俺から見たらそこら辺の人間も、レオガルドも、お前も何も変わりはしない」

彰は少女に近づき言葉を突きつけてやる。

「魔族のハーフがどうした!そんなに違うか!村を追いやったそいつらみたいに俺を一緒にするんじゃねぇ!お前も!お前の母親も同じ人間だろうが‼違うと自ら受け入れたら、認めることになるだろうが!」

少女は気づいた。

この男は自分の境遇を知ってもなお、差別をせず、ましてや命を奪おうとした相手にさえ救いの言葉をかけている。

少女は気づけば、涙を流していた。

「何で…殺そうとしたのに…」

「関係ないね、結果的に生きてるんだからな」

少女は胸が締め付けられる感覚を覚えた。

はじめての感覚…心臓がバクバクしているのは少女には何故だか分からなかった。


「それにしてもいきなり女を連れて帰ってくるとはねー」

行商のレオガルドはニヤニヤしながらいじってくる。

「そんなんじゃない」

少女なあのあと泣き寝入りしてしまった。

「例の噂の子があの子とはね…信じられん」

「この目で見ないとわかんないと思うぞ…はんぱなく強かったからな」

魔族のハーフだということは秘密にしている。

それにあの夢を見てしまったら…どうしても助けなくなってしまったのだ。

『マスターは…あんな子が好みなのですか?』

(話聞いてたか?)

『やけに肩入れをなさるので…』

(彼女の境遇に同情しただけさ)

『そうですが…あの言い方では女の子だったらマスターのことを(ゴニョゴニョ』

(なんかいったか?)

『何でもありません‼』

グリモワールと話をしていると階段から少女が降りてきた。

「おはよう、もう大丈夫か?」

そう言うと少女は赤面してコクンと頷いた。

『マスターの…バカ…』

グリモワールがそう言った声も彰には届かなかった。

「で、彰は今後の彼女の事は考えてるのか?」

「それを話すために起きるのをここで待ってたんだ」

彰は少女に向かって聞いてみた。

「お前…帰るところないだろ?」

少女は同じくコクンと頷いた。

「レオガルド」

「言いたいことはわかってる…別にいいがよ…」

「…だってさ」

少女は首をかしげる。

「今日からここが家だって言ってるんだ…お前さえよければな」

少女はしばらく放心したあと大きく頷いた。

そして彰に向かって声をかけた。

「名前…」

「高ノ宮 彰だ」

「アキラ…覚えた」

少女は小さい声でアキラと繰り返してから言った。

「名前…リリア…よろしく、アキラ」

少女、リリアは初めて笑顔を見せた。


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