地底人
私は地底人だ。「地の底に潜む偉大なる種の末裔」と長ったらしい我々の一族に伝わる名前があるが、面倒臭いので「地底人」という呼び方で構わない。
もちろん、ここまで文明が発達した現代、いつまでも地面の下で地味に生活をするわけもなく、我らが先祖は早々に地表に上がり、一般人として生活をしている。
我々自身もきちんと研究したわけではないが、地底人の生物的特徴は、一般人類とは異なる。
大きなところで、地底で生活するのに適するように視力が弱く、聴力が強い。そして地底で生活するために手足には強力な爪と、岩をも砕く牙がある。そして地表とは比べ物にならない環境に順応するために、身体が丈夫である。
これら特徴を隠して社会で人類と共存すべく努力している我々の1日を紹介しよう。
地底人の朝は早い。
視力が弱く、強い光の下に急に入ってしまうのが苦手なため、夜明け前に起き出す。
放っておくと、硬くて太い強力な爪になってしまうため、毎朝爪を切る必要がある。また牙を目立たなくするために歯を磨いた後、牙を削る。
身だしなみが乱れる事で地底人だとバレないよう、きちんとスーツを着用し、ネクタイの結び目もしっかりまとめる。
夏だろうと、クールビズといった甘えた事はしない。
地熱に対応してきた我々は、夏の暑さにも強いのだ。
視力の弱さを補うため、コンタクトを着用し、最後にもう一度、身だしなみをチェックして外に出る。
家を出るのはいつも夜明け前だ。
私も朝の仕事として、日中の仕事とは別に牛乳の配達についている。
勿論、副業として会社には届け出済みだ。
地底人は地上人と比較して、身体が丈夫なので、風邪なども引かず、無遅刻無欠勤で仕事をしている。
まぁ、医者に行くわけにもいかないので、手洗いうがいを欠かさない事も秘訣だ。
こんな我々一族の野望は、人類に成り代わって地上を支配する事だ。
今日も野望を胸に、まだ暗いうちに鳴った目覚まし時計を止める。