(前) -人の形-
一つから見た、二人
「や、お久しぶりです、アンリさん」
「あ、智也くん!」
智也くんだ!
やっと来てくれた。
女の子を待たせるなんて罪な人だねほんと。
「3日ぶりだね」
「4日ぶりですかね」
「あれ、そうだっけ。ここにいると日付とかわからなくなるんだよ」
なんせここ、時計もカレンダーもないからね。
私は私で体動かせないし。
「元気そうでよかったです」
「うん、元気元気。風邪とは無縁だからね私は」
「・・・4日前来た時は体を壊してたから、心配してました」
「あ、あれは澄香のせいだもん。私の不注意じゃないもん」
「・・・うん、今は問題ないようですね」
智也君は私の腕を触る。
割れ物を扱うかのようにやさしく。
くすぐったい。
「ちょ、いきなり触らないでくれよ! びっくりするじゃないか!」
「・・・ごめんなさい、気になってしまって」
「気になるって?」
「・・・」
黙ってしまった。
何が気になるんだろう。
私が脆いのが気になるのかな?
心配してくれてるの?
気にかけてくれるのは嬉しいよ。
でも、そんな顔しないでほしいな。
君の暗い顔は見たくないよ。
「大丈夫だよ。私ねこう見えて結構頑丈なんだ! どんなことがあってもへっちゃらだよ!」
「・・・ごめんなさい黙っちゃって。大丈夫そうでよかった」
「うん!大丈夫!」
元気をアピールしようとしても腕が上がらない。
こんな体だから仕方がない。
でも、
「さっきから俺謝ってばっかりですね」
「ふふ、ほんとだね」
智也くん笑ってる。
よかった。
「智也くん今日は制服だね。学校帰り? 今日は何か面白いことあった?」
「・・・」
「あれ? 智也くん?」
また黙っちゃった。
智也くんって時々こうして黙るんだよね。
何かを考えてるような表情。
こんなペースの会話してて友達とかいるのかな?
友達の前でも突然黙ったりしてないといいんだけど。
「智也くん。考えながら会話するのはいいけど、黙ったままは印象良くないと思うよ」
そんなことを言ってすぐ、部屋のドアが開いて長身の女性が入ってきた。
澄香だ。
「ふふ、君はまるでお母さんみたいだな」
「お母さんって・・・、そんなんじゃないでしょう」
「そうだよ澄香。私お母さんなんて年じゃないもん」
「すまんすまん」
澄香はくくっと笑っている。
智也くんも呆れ顔だ。
澄香っていっつもこうなんだ。
誰かをからかうのが生きがいみたいなやつ。
これで顔の造形が整っているからたちが悪い。
「智也、学校はどうだったんだい」
「いつも通りですよ。幸も不幸もない平穏な一日です」
「不幸がないならいいことじゃないか。その平穏を噛みしめたまえよ」
「そうだよ。平和なのはいいことさ」
「・・・俺としては外の普通には興味がないですから」
外の普通って何だろう。
家族がいて、友達がいて、
学校に行って、勉強して、
部活をやって、帰りに寄り道して。
私はそんなのが思い浮かぶ。
私には世界がひっくり返らないとできないことだ。
「そんなこと言わないでほし」
「俺は、アンリさんに会えれば、それだけでいいんです」
・・・ほゎ。
「な、ななな、なんだい急に!!!」
「おや、突然の愛の告白だね」
「ちょっと澄香ニヤニヤしない!」
そ、そんなこといきなり言われても、わ、私はなんて答えるのがいいんだろう・・・。
そりゃ、私も智也くんに会えてうれしいというか。
会えない時は寂しかったというか。
もう一生離れてほしくないとか。
そりゃ思うけど。
「当のアンリさんはどう思ってるんだろうねー」
う~~~、澄香絶対楽しんでるし!
ニヤニヤしてるんじゃない!
なんて言っていいかわからないの!
でも、さっき黙ったままじゃダメだって言ったの私だし・・・。
「わ、私も、智也くんに会えて、うれしい、よ」
カ、カタコトになっちゃったよ・・・。
うう、何でこんな恥ずかしいことに。
「そうかい。嬉しいのかい」
「・・・ありがとうございます」
「こ、こちらこそ」
・・・なんなんだろうこの会話。
「っと、もうこんな時間ですね。さすがに帰らないと」
「え、智也くんもう帰っちゃうの?」
「さっき来たばかりじゃないか。お茶くらい飲んで行きたまえよ」
「今日は早く帰るように母に言われているんですよ」
ていうか、早く帰るように言われてたのにわざわざ来てくれたんだ。
お母さんの言いつけを守らなかったのを怒らないといけないのに、嬉しくなってしまう私は悪い子だ。
バタバタと帰る支度をする智也くん。
分厚いコートを着込む。
外は冬なのかな?
おっと、
智也くんが帰る前に聞きたいことを聞いとかないとね。
「次は、次はいつ来てくれるのかな?」
「・・・明日、また来ます」
「うん!!」
また明日も智也くんに会える。
なんて素敵なことだろう。
今からその時間が待ち遠しい。
「じゃあ、今日はこれで」
「ああ、また明日来たまえ」
「バイバイ智也くん。また明日!」
智也くんはそういって部屋から出て行った。
「明日が楽しみだね、アンリ」
「ほんとに楽しみだよ!!」
ああ、早く明日にならないかなぁ。
でも、ホントに来るのかな。
「ん? アンリ? どうしたんだい?」
「え、・・・ううん。なんでもない」
「何でもないことはないだろう。沈んでる顔だ」
「えっと、智也くんホントに明日も来てくれるのかなぁって思ってさ」
「来るさ、智也は約束を破る子じゃないよ」
「うん、だよね」
澄香はやっぱり優しいなぁ。
あのからかいは澄香なりの茶目っ気ってやつなのかな?
まぁ、それもほどほどにしてほしいのはホントだけどね。
ああ、智也くん。
こんな私にいつも会いに来てくれる。
会いたいって言ってくれる。
こんなに幸せなことがあっていいのかな。
いいんだよね。
「早く、明日にならないかなぁ」
「そうだね。早く明日になるといいね」
そんなことを思いながら一日が終わる。




