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一日  作者: ゆぅり
1/3

(前) -人の形-

一つから見た、二人

「や、お久しぶりです、アンリさん」

「あ、智也くん!」


智也くんだ!

やっと来てくれた。

女の子を待たせるなんて罪な人だねほんと。


「3日ぶりだね」

「4日ぶりですかね」

「あれ、そうだっけ。ここにいると日付とかわからなくなるんだよ」


なんせここ、時計もカレンダーもないからね。

私は私で体動かせないし。


「元気そうでよかったです」

「うん、元気元気。風邪とは無縁だからね私は」

「・・・4日前来た時は体を壊してたから、心配してました」

「あ、あれは澄香のせいだもん。私の不注意じゃないもん」

「・・・うん、今は問題ないようですね」


智也君は私の腕を触る。

割れ物を扱うかのようにやさしく。

くすぐったい。


「ちょ、いきなり触らないでくれよ! びっくりするじゃないか!」

「・・・ごめんなさい、気になってしまって」

「気になるって?」

「・・・」


黙ってしまった。

何が気になるんだろう。

私が脆いのが気になるのかな?

心配してくれてるの?

気にかけてくれるのは嬉しいよ。

でも、そんな顔しないでほしいな。

君の暗い顔は見たくないよ。


「大丈夫だよ。私ねこう見えて結構頑丈なんだ! どんなことがあってもへっちゃらだよ!」

「・・・ごめんなさい黙っちゃって。大丈夫そうでよかった」

「うん!大丈夫!」


元気をアピールしようとしても腕が上がらない。

こんな体だから仕方がない。

でも、


「さっきから俺謝ってばっかりですね」

「ふふ、ほんとだね」


智也くん笑ってる。

よかった。


「智也くん今日は制服だね。学校帰り? 今日は何か面白いことあった?」

「・・・」

「あれ? 智也くん?」


また黙っちゃった。

智也くんって時々こうして黙るんだよね。

何かを考えてるような表情。

こんなペースの会話してて友達とかいるのかな?

友達の前でも突然黙ったりしてないといいんだけど。


「智也くん。考えながら会話するのはいいけど、黙ったままは印象良くないと思うよ」


そんなことを言ってすぐ、部屋のドアが開いて長身の女性が入ってきた。

澄香だ。


「ふふ、君はまるでお母さんみたいだな」

「お母さんって・・・、そんなんじゃないでしょう」

「そうだよ澄香。私お母さんなんて年じゃないもん」

「すまんすまん」


澄香はくくっと笑っている。

智也くんも呆れ顔だ。

澄香っていっつもこうなんだ。

誰かをからかうのが生きがいみたいなやつ。

これで顔の造形が整っているからたちが悪い。


「智也、学校はどうだったんだい」

「いつも通りですよ。幸も不幸もない平穏な一日です」

「不幸がないならいいことじゃないか。その平穏を噛みしめたまえよ」

「そうだよ。平和なのはいいことさ」

「・・・俺としては外の普通には興味がないですから」


外の普通って何だろう。

家族がいて、友達がいて、

学校に行って、勉強して、

部活をやって、帰りに寄り道して。

私はそんなのが思い浮かぶ。


私には世界がひっくり返らないとできないことだ。


「そんなこと言わないでほし」

「俺は、アンリさんに会えれば、それだけでいいんです」


・・・ほゎ。


「な、ななな、なんだい急に!!!」

「おや、突然の愛の告白だね」

「ちょっと澄香ニヤニヤしない!」


そ、そんなこといきなり言われても、わ、私はなんて答えるのがいいんだろう・・・。

そりゃ、私も智也くんに会えてうれしいというか。

会えない時は寂しかったというか。

もう一生離れてほしくないとか。

そりゃ思うけど。


「当のアンリさんはどう思ってるんだろうねー」


う~~~、澄香絶対楽しんでるし!

ニヤニヤしてるんじゃない!

なんて言っていいかわからないの!


でも、さっき黙ったままじゃダメだって言ったの私だし・・・。


「わ、私も、智也くんに会えて、うれしい、よ」


カ、カタコトになっちゃったよ・・・。

うう、何でこんな恥ずかしいことに。


「そうかい。嬉しいのかい」

「・・・ありがとうございます」

「こ、こちらこそ」


・・・なんなんだろうこの会話。


「っと、もうこんな時間ですね。さすがに帰らないと」

「え、智也くんもう帰っちゃうの?」

「さっき来たばかりじゃないか。お茶くらい飲んで行きたまえよ」

「今日は早く帰るように母に言われているんですよ」


ていうか、早く帰るように言われてたのにわざわざ来てくれたんだ。

お母さんの言いつけを守らなかったのを怒らないといけないのに、嬉しくなってしまう私は悪い子だ。


バタバタと帰る支度をする智也くん。

分厚いコートを着込む。

外は冬なのかな?


おっと、

智也くんが帰る前に聞きたいことを聞いとかないとね。


「次は、次はいつ来てくれるのかな?」

「・・・明日、また来ます」

「うん!!」


また明日も智也くんに会える。

なんて素敵なことだろう。

今からその時間が待ち遠しい。


「じゃあ、今日はこれで」

「ああ、また明日来たまえ」

「バイバイ智也くん。また明日!」


智也くんはそういって部屋から出て行った。


「明日が楽しみだね、アンリ」

「ほんとに楽しみだよ!!」


ああ、早く明日にならないかなぁ。

でも、ホントに来るのかな。


「ん? アンリ? どうしたんだい?」

「え、・・・ううん。なんでもない」

「何でもないことはないだろう。沈んでる顔だ」

「えっと、智也くんホントに明日も来てくれるのかなぁって思ってさ」

「来るさ、智也は約束を破る子じゃないよ」

「うん、だよね」


澄香はやっぱり優しいなぁ。

あのからかいは澄香なりの茶目っ気ってやつなのかな?

まぁ、それもほどほどにしてほしいのはホントだけどね。


ああ、智也くん。

こんな私にいつも会いに来てくれる。

会いたいって言ってくれる。

こんなに幸せなことがあっていいのかな。

いいんだよね。


「早く、明日にならないかなぁ」

「そうだね。早く明日になるといいね」


そんなことを思いながら一日が終わる。

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